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俺は、ロングヘアよりも、断然、ショートヘアのほうがタイプだ!

「俺たちの回収した竜骨が、すべて魔物に奪われるってことか……」


 ヴィーネリント小教区には、膨大な量の竜骨が保管してある。しかも、そのほとんどが魔力浄化の真っ最中だ。もしそれらが、すべて魔物に奪われるような事態に陥ったら、奪還するのは絶望的となる。


 仮に、王国各地から魔力の高い騎士や冒険者をかき集めて、竜骨回収に挑んだとしても、圧倒的に武器が足りないだろう。屠竜武器(ドラゴンキラー)の数は限られているため、竜鱗鋼製の武器が主軸となる。しかし、魔物は、常時、竜の魔力を補給できる環境下にあるため、竜鱗の比率が高い竜鱗鋼でなければ、まともなダメージすら与えることはできないだろう。


 屠竜武器(ドラゴンキラー)に関しても、肝心のバルムンクは、勇者に借りパクされているため、その複製品であるノートゥングを利用するしかない。ドワーフ族の特殊技法によって生成されるノートゥングは、そう簡単に量産することなどできない。


「完全に詰むな……」


「はい、それらすべてを見越して、師匠は、いち早く、竜骨回収に向かわれました」


「だが、ミーネとシュタインだけで、竜骨回収は無謀だろう。騎士団や傭兵団、もしくは、A級冒険者のパーティーと同行することはできなかったのか?」


「国王直属の騎士団であれば、すぐに派遣することが可能だったのですが、現在、隣国との緊張が高まっており、騎士団の多くが、北方と東方の辺境地に集中していまして、すぐにハーデブルクに向かうことのできる騎士団が見つからなかったそうです」


 北方のニーダーラント王国と、東方のフン帝国。この両国と敵対関係にあるブルグント王国は、防衛と牽制のため、配下の騎士団の多くを、国境周辺に配置している。


「他の騎士団は、王族や貴族の配下であるため、彼らを動かすとなると、王族や貴族の許可が必要となります。また傭兵や冒険者は、ギルドを通した手続きが必要となり、そこからの募集となるので、それなりの時間が掛かってしまいます」


 世界が滅亡の危機に瀕していても、国がまとまっていないため、まともな対策すら打つことができない。中世ヨーロッパの国々が、あっけなく滅びていった理由も、今なら分かる気がする。


「いよいよ万策尽きたか……」


 周囲に絶望の色が濃くなった時、玄関の扉が勢いよく開かれた。


「まだよっ、まだ、諦めるのは早いわっ!」


 薄暗かった部屋に、眩い光が差し込んだ。


 真っ白な光を背に受け、細く長い影が、悠然と立っていた。


 燦然と輝くシルエットに、思わず目を細める。


 一瞬、誰なのか分からなかった。


 彼女は、軽快な足取りで、こちらへと向かってきた。


 そして、俺たちの目の前に立った。


 俺は、驚きに目を張った。


 細く艶やかだったロングヘアから、毛先が無造作に跳ねたベリーショートに変わっていた。


 毎日一緒にいる俺ですら、ルピナスだと分からなかった。


「あたしたちなら、一日、いや半日もあれば、竜骨を回収することができるわ。だって、あたしたちは、竜骨回収のプロだから。ねっ、そうでしょ、エイミ!」


 可愛くウインクするルピナス。しかし、あまりの変貌ぶりに動揺していたため、曖昧な返事しかできなかった。


「ごめんなさい。こうするしかなかったの……」


 シャルロッテが、苦笑いを浮かべながら近づいて来た。


「ルピナスさん。かなり根元から切っちゃてて、その長さに合わせようと、がんばって整えてみたんだけど、どうしても、こんな感じにしかならなくて……」


「大丈夫、気にしなくていいわよ、シャルロッテ。この方が涼しくて、気持ちいいし、それに、戦う時、いつも長い髪が邪魔でウンザリしてたのよ。これで心置きなく剣を振ることができるわ!」


 本人が気に入っているのなら問題はないのだが。


「とにかく、あたしとエイミは、すぐにハーデブルクに向かって、そこで、ミーネとシュタインを探して、合流して、そのまま竜骨の回収に向かうわ。ねっ、それでいいでしょ、エイミ」


 俺は嘆息した。


 まあ、その見た目なら、仮に、勇者と鉢合わせたとしても、誰だか分からないだろう。どうしても尖った耳が目立つが、この辺りは、ミーネに再会すれば、魔法で何とかしてくれるだろう。それに、ハーデブルクに入り次第、随時、魔力探知を発動した状態にするつもりなので、膨大な魔力を無駄に垂れ流し続けている勇者ならば、どこにいても探知することができるはずだ。


「分かったよ。さっさと終わらせてくるか」


「うん」


 ルピナスが、優しい笑顔で頷いた。


 俺は、胸が熱くなるのが分かった。


 するとシャルロッテが、おもむろに近づいて来て、小声で話しかけてきた。


「エイミさんは、ウチの主人と同じ、異世界の人だから、あまりピンと来ないかもしれないけど、この世界の女の人は、あまり髪を切らないのよ」


「そうなのか?」


「とくに王族や貴族の女性は、長くて美しい髪が、品性ある淑女の証とされているから、よほどのことがない限り、髪を切ったりしないの。ましてや、あんなに短く切ることなんてありえないのよ」


 確かに、この世界に来てから、ショートヘアの女性を見たことがない。そもそも女性が髪を切るという習慣がなかったのか。


 まさに、髪は女の命ということか。


 それをバッサリと切るということは、よほどの強い決心がなければできないということだ。


「アイツの決心に、俺も答えないとな」


「そうよ、答えないと」


「はい?」


 シャルロッテに言われ、俺は首を傾げた。


「ルピナスさんが、いちばん気にしているのは、髪が短くなったことで、エイミさんがどう思っているかなのよ!」


「へっ? 俺が、どう思っている?」


「そうよ、で、どう思ってるの?」


「どうって、言われても、なぁ……」


 今まで、職場にいる女性が、髪を短くカットしたり、パーマしたり、カラーリングしたりと、いろいろな変化を目の当たりにしてきたが、感想を求められたことなど一度もない。


 よって、どう答えればいいのか分からない。


 俺の好みで答えていいのだろうか。


「ちょっと、なに、二人でひそひそ話してんのよ!」


 頬を膨らませながら、ルピナスが近づいて来た。


 シャルロッテが、俺の背中を肘で押した。


「あっ、いや、その……」


「なによ、何か言いたいことでもあるの?」


 俺は、一呼吸おいて、ルピナスの瞳を見つめた。


「な、なによ、急に変にあらたまって……」


 動揺するルピナス。


 俺は決心を固めた。


「俺は、ロングヘアよりも、断然、ショートヘアのほうがタイプだ!」


 一瞬にして、ルピナスの顔が真っ赤になった。


 果たして、この答えで正解だったのか。


 分からん。

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