彼女らは、ブルグント魔導団だ。
ほう、ずいぶんと成長したもんだ。
目の前のスクリーンには、見違えるほど立派に育ったグリフォンが、悠然と立っていた。
鉤型に曲がった嘴の先端は黒く、黄褐色の大きな瞳は、ぎらぎらと輝いている。黒褐色の大きな翼を広げると、そこから赤褐色の獅子の巨躯があらわとなった。
スクリーン越しでも、物凄い迫力が伝わってくる。
しかし、あの小さくて傷だらけだったグリフォンが、元気になって、ここまで成長できたのは、紛れもなく、あの竜のおかげだろう。
黄緑色の小さな竜。
弱っていたグリフォンの傷を舐め、水を与え、果実を与え、そして、優しく包み込み、癒し続けて、その命を救った。これほどまでに、慈愛に満ちた竜を見たのは初めてだった。
竜と言う種族は、やたらとプライドが高く、とにかく孤独が大好きで、それでいて自己中心的なイメージが強い。
しかし、この竜は、明らかに他の竜と違っていた。
こんなに優しい竜は見たことがない。
途方もない愛に満ちた聖母のような竜だった。
まあ、いつも眠っているのだが。
こんな竜もいるんだなぁ……。
そう漠然と思っていると、急にグリフォンが大きく翼を広げ、力強く羽ばたき始めた。
ふいに、場面が空の中に変わった。
スクリーン一面が、眩暈がするほどの群青に染まった。
突然の場面転換に驚いたが、優雅に空を泳ぐグリフォンの姿は、とても悠大で、かつ爽快で、たくましさを感じた。
まるで、空を飛んでいるような感覚に包まれる。
雲一つない群青色の空を、風を斬り裂きながら羽ばたく聖獣。
降り注ぐ太陽の光が、獣の巨躯を貫いた瞬間、そのシルエットが眩い黄金に輝いた。
その神秘的な姿を、俺は茫然と眺めていた。
刹那、黄金の輝きを放ちながら、聖獣が大きく旋回した。
その時、一瞬だけ、地上が映し出された。
俺は、目を張った。
広大な森の向こう側に、巨大な円形をした都市が鎮座していた。
見覚えのある大聖堂が映し出される。
そこは、ハーデブルク司教座都市だった。
「ハハハッ、起きろ、エイミ、朝、いや、もう昼だぞぉーっ!」
ハキハキした野太い声によって、俺は、スクリーンの前から、瞬時に現実へと引き戻された。
ベッドから飛び起きると、薄ぼんやりとした視界に、筋骨隆々の偉丈夫が映し出された。
ハヤトである。
「な、なんで、お前が、俺の部屋にいるんだ?」
混濁している意識の中、ハヤトが、ニカッと白い歯を見せて笑った。
「お客さんを連れてきたぞ!」
「はあ? お客さん?」
意味が分からず、頭を掻きむしる。
「ハハハッ、いいから、早く着替えて、居間に来いっ!」
そう言い放つと、ハヤトは笑いながら部屋から出て行った。
お客さん。
今まで、この家に、お客さんとして来たことがあるのは、ハヤトとシャルロッテだけだ。
一体、誰だ?
しかし、普段、スタイル抜群の美しいエルフの姫に起こされているため、急に、筋肉ムキムキのむさっ苦しいオッサンに起こされると、どうにも調子が狂う。
あれ、ていうか、ルピナスはどこにいるんだ。
お客さんとやらの対応しているのか。
思い当たる節がないまま、俺は、いつもの農民ファッションに着替え、大あくびをしながら、居間へと向かった。
すると、そこには、群青色の魔法式服に身を包んだ集団が立っていた。
俺は、実際に、その集団を見るのは初めてだったが、かつて、大魔導士ミーネが、その集団に属していたことを知っていたため、彼女らが何者であるかはすぐに分かった。
彼女らは、ブルグント魔導団だ。