黄緑色の小さな竜。
うーん、これは誰の残留思念なのだ。
俺は、いつものように、スクリーンの前に座っている。
スクリーンには、鬱蒼と生い茂る木々の隙間を、一匹の大きな鳥が、ふらふらと、身体を引き摺りながら歩いている。
ずいぶんと弱っているように見える。
大きくて立派な翼は、左右に折れ曲がったまま、酷く毛羽立っているため、羽ばたくことは難しいそうだ。
一見、大きな鷲のように見えたが、獣のように四本脚で歩いており、長い尻尾が上下に揺れていた。
頭は鷲で、身体は獅子の姿をしている。そして背中からは、巨大な翼が生えていた。
俺は、その姿に見覚えがあった。
グリフォンだ。
だが、ハーデブルクの上空を飛んでいたグリフォンとは、明らかに大きさが違っていた。
映像に映っているのは、恐らく、子供のグリフォンだろう。
薄暗い森の中を、一匹の子供のグリフォンが、ふらふらと、身体を引き摺りながら歩いている。
どこか怪我をしているのだろうか。
密集している樹木の隙間から、暗く澱んだ赤い光がいくつも点滅した。
魔物の目玉だ。
この森には、多くの魔物が棲息しているようだ。
魔物たちは、グリフォンを興味津々で見つめている。
だが、不思議と襲ってくる様子はない。
魔物たちの不気味な視線を浴びながら、グリフォンは必死に森の中を進んでいく。
すると、急に光が降り注いだ。
森の外へ出たのか。
俺は、スクリーンの光景に目を見開いた。
森の中に、コバルトブルーの美しい湖が広がっていた。
そんな湖のほとりに、一匹の竜がいた。
それは、森の若葉を散りばめたような、黄緑色の小さな竜だった。
竜は眠っているようだ。
グリフォンは、懸命に湖へと近づいていき、竜の傍らまでいくと、湖に頭を突っ込み、夢中で水を飲み始めた。
そして、水を飲み終えると、そのまま力尽きるように、地面に倒れ込んだ。
すると、眠っていた竜の目が、ゆっくりと開いた。
美しい翠玉のような瞳。
優しげな大きな瞳。
竜はゆっくりと起き上がり、グリフォンの元に近づくと、その傍らで静かに寝そべり、グリフォンの身体を優しく包み込んだ。
そして、グリフォンの羽根を、細い舌先で、何度も何度も舐め続けた。
優しく、そして柔らかに、グリフォンの傷ついた羽根を癒していった。
ふいに、グリフォンの小さな鳴き声が聞こえた。
「はあ、あきれた、本当に毎日寝てすごしているのね」
その声に、俺は目を覚ました。
窓から差し込む容赦ない日差しに、思わず目を細める。
「もうお昼よ。いったい、いつまで寝てんのよ!」
ぼんやりと揺らいでいた意識が、徐々に覚醒していくに連れて、光の眩しさにも、視界が慣れていく。
燦々と降り注ぐ光の中、一人の美女が、腰に手を当てて立っていた。
長く艶やかな金髪が、窓から流れる風で、ふわりと揺れた。切れ長の大きな瞳は、碧瑠璃のように美しく輝いている。尖った耳に、通った鼻筋。淡く薄い唇。透き通った純白の肌。そして、しなやかなで瑞々しい肢体は、彫像のように美しく、無駄なところが一つとしてない。
絶世の美女が、そこに立っていた。
そんな見慣れた絶世の美女に向かって、俺は、大きなあくびで返事をした。
その返事に、ルピナスは、大きなため息で返した。