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いずれ世界は、終焉に向かうじゃろう。

 赤帽子(レッドキャップ)


 彼らは、ゴブリン族の近縁にあたる侏儒族(こびとぞく)だ。


 見た目はゴブリンとさほど変わりはないが、皆が揃って、赤い帽子をかぶっているのが特徴だ。


 そんな彼らは、ゴブリンとは比べものにならないほど残虐で、しかも人間の血を好み、その血で自らの帽子を染め上げるといった奇異な習性を持っている。赤帽子(レッドキャップ)という名前の由来は、人間の血で赤く染まった帽子という意味だ。その習性ゆえに、彼らは率先して人間を襲うため、侏儒族(こびとぞく)の中でも、かなり早い段階で、魔物に堕ちたと伝えられている。


 ただし、戦闘力はゴブリンと大差はなく、さらには臆病な性格でもあるため、危険視されてはいるが、それほど警戒されていないのも事実だ。


 しかし、ゴブリンよりも知能が高い分、非常に狡猾な面も持ち合わせているため、人間を襲う際は、自分たちよりも非力な人間を狙うことが多い。結果、犠牲者の多くが、女性や子供、老人ばかりで、その中でも、特に魔力の高い貴族や聖職者が狙われることが多い。そのため、貴族や聖職者の多い都市では、常に赤帽子(レッドキャップ)の討伐クエストが出されている。


 ちなみに赤帽子(レッドキャップ)の討伐クエストは、ゴブリンの討伐クエストと並んで、新人冒険者の登竜門となっている。


 トンネル内部は、赤帽子(レッドキャップ)で溢れかえっていた。


 けたたましい金属音が、トンネル内で重なり合って反響している。


 暗闇の中、燃えるように赤い目玉が、炯々と輝いている。醜悪な老人のような表情に、下顎から突き出た鋭い牙。不気味にうねる黒く長い髪は、やたらと湿っており、肩や背中にべっとりと張りついている。手には斧や鉈が握られており、やたらと大きい金属製の長靴を履いている。トンネル内に反響し続けている金属音は、奴らの長靴の音だろう。


 暗闇の中を、獣のように走り抜けていく赤帽子(レッドキャップ)たち。すれ違う俺たちには目もくれず、ひたすらにトンネルの出口を目指している。


 魔力の高い俺たちを無視して、通り過ぎていく。


 手負いの俺たちを無視して、通り過ぎていく。


 竜骨のとんでもない魔力に、うすら寒さを覚えた。


「うへぇ、都市はもう、大混乱じゃろうな」


 ミーネが呆れた様子で言った。


「仕方ないだろ。こうでもしないと、俺たちは捕まって、勇者のところに連れて行かれたんだ。あの勇者のことだ。何をされるか、だいたい予想がつくだろ」


 ミーネは嘆息した。


「まあ、あの魔導士と戦士がおれば、赤帽子(レッドキャップ)どもも、そう簡単には貧民窟から出れんじゃろう。あと、おぬしが蹴り飛ばした竜骨も、司祭どもが、すぐにその魔力に気付いて、急いで回収に来るじゃろう」


「竜骨の魔力を封じれば、この混乱も治まるからな」


 ミーネは頷くと、また嘆息した。


「にしても、あの勇者は、実に厄介な存在じゃのう」


「ああ、とんでもなく厄介だな。もういっそ、魔王が攻めてきたほうがいいんじゃないのか?」


 その言葉に、一瞬だけルピナスが反応した。俺はまずいと思い、口を噤んだ。


「ふむ、じゃが、どういうわけか、魔王は、イースラントを征服してから、一向に動く気配が見られん。どうやら、今も、イースラントの北部で停滞しておるようじゃ」


 イースラント王国は、大陸の遥か北にある島国だ。


 五年前、魔王によって滅ぼされたルピナスの故郷だ。


 魔王は闇属性を宿しており、闇耐性が付与されている。闇耐性は竜耐性と同じく、物理攻撃と魔法攻撃を無効化する効果がある。そんな完全無敵の闇属性を相殺することができるのが、勇者が宿す光属性だ。魔王と勇者が争えば、互いの属性が相殺されてしまうため、正真正銘のガチンコ勝負となる。つまり、魔王と勇者は、互いに天敵同士なのである。


 破滅の象徴である魔王に、この世界の命運を託すなど、まさに世も末である。


「やっぱ、俺たちでどうにかするしかないのか……」


 勇者は正真正銘のチートだ。一端の冒険者でどうにかなる相手ではない。


「ああ、そうじゃな。それも早急に何とかせねばならんな」


 ミーネが走りすぎていく赤帽子(レッドキャップ)たちを一瞥した。


 竜骨の甘美な魔力に魅せられ、完全に自我を失っている。


 本能の赴くまま、竜骨へと吸い寄せられていっている。


 もし、彼らが竜骨を齧り、自らを竜へと変貌させたならば、その時点で、剣も魔法も通用しなくなる。


 竜へと変貌した魔物には、剣も魔法も通用しない。


「このまま、《竜骨生物群集帯(ドラゴン・フォールズ)》が増え続ければ、いずれ世界は、終焉に向かうじゃろう……」


 ミーネが、自虐的な笑みが浮かべた。


 そんな絶望と諦めが漂う暗闇の先に、ぼんやりと明かりが射しこんでいるのが見えた。


 おぼろげな月の光。


 トンネルの出口だった。

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