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料理は、練習すれば、それなりに上手くなるもんじゃよ。

 この世界には、大きく分けて二種類の魔法がある。


 一つが、自らの想像力によって生み出す精神魔法。そして、もう一つが、自然界の精霊によって生み出す精霊魔法だ。


 世間一般に多く利用されているのは、精神魔法だ。


 精神魔法は、想像力の魔法とされており、人間が無意識に抑制している能力を一時的に覚醒させる魔法だ。想像力と詠唱によって、抑制されている能力の枷を解除し、体内の魔素を組み込んで、魔法に転化している仕組みだ。


 人間の脳は10%しか使っていないと聞いたことはあるが、恐らく精神魔法は、人間の潜在能力を覚醒させる超能力のようなものなのだろう。


 人間の潜在能力を覚醒させることで、自己治癒能力を向上させる治癒魔法や、筋力を向上させる身体強化魔法などが使えるようになる。ちなみに魔力探知魔法も精神魔法の一種だ。


 ちなみに、この世界の人々は、ほとんどが精神魔法しか使うことができない。なぜなら精霊魔法は、精霊の加護がなければ使うことができないからだ。精霊の加護を得るためには、精霊と交信し、彼らと契約を結ばなければならない。だが、この世界において、精霊と交信できる人間は、一握りもいないのが現実である。


 この世界は、地水風火の四つの元素から成り立っており、それぞれに精霊が宿っている。地の精霊は小人老人(ノーム)、水の精霊は水女神(ウンディーネ)、風の精霊は風乙女(シルフ)、火の精霊は火蜥蜴(サラマンダー)といったファンタジーでは、お馴染みの精霊が宿っている。


 精霊魔法は、体内の魔素を、精霊の宿る元素へと整え、自然界へと放出し、詠唱によって、その内容と方向性を定め、精霊との意思が同期し、共鳴した時に発動することができるのだ。


 何とも複雑な発動方法だが、例えるならば、精霊に自分の作った料理を振舞い、その食事のお礼に、仕事を手伝ってもらう、といった感じだ。そして精霊は、出された料理が美味しければ、最高の仕事をしてくれるが、料理が不味ければ、それなりの仕事しかしてくれない。つまり一流の魔導士ほど料理上手というわけだ。


 ちなみに精霊の加護は、一人の魔導士に、一体の精霊の加護が基本だが、稀に、二体の精霊から加護を受けている魔導士がいる。そんな彼らは、世間から大魔導士と呼ばれている。


「あやつは、水女神(ウンディーネ)風乙女(シルフ)の加護を受けておる大魔導士じゃ!」


 ちなみにミーネは、小人老人(ノーム)火蜥蜴(サラマンダー)の加護を受けている大魔導士だ。


「どう考えてもヤバいよな」


「ああ、とてつもなくヤバいのう。今のワシでは、奴の精霊魔法を退ける術はない」


 精霊魔法への対策は、対立する精霊で応戦することだ。水と火、風と地は、対立関係にあるため、互いの魔力量によって、その勝敗が決まる。水で火を消火することもできるし、火で水を蒸発させることもできる。風で地を吹き飛ばすこともできるし、地で風を跳ね返すこともできる。


「ううむ、おぬしが真面目にコツコツと精霊魔法を学んでおれば、まだ勝機があったかもしれんが。くっ、今になって悔やまれるのう。もっと、おぬしに発破をかけておくべきじゃったわ!」


 俺は、異世界転移した時点で、四大精霊すべての加護を宿し、加えて、膨大な魔力も有していた。その魔力量は、大魔導士を遥かに凌駕するものだと聞いている。つまり俺が、精霊魔法を極限まで使いこなすことができれば、奴の精霊魔法など造作もなく消し去ることができるのだ。


 が、しかし、現実はそう上手くはいかない。


「悪いが、俺は、料理下手なんだ」


 致命傷である。


 そんなやりとりをしていると、上空から、がなり声が轟いた。


 凄まじい殺気に、俺とシュタインは、反射的に、その場から飛びのいた。


 直後、俺たちがいた場所に、轟音を上げて何かが落下した。


 猛烈な土煙が上がる。


 俺は息を呑んだ。


 濛々と立ち込める塵埃の中、巨大な影がむくりと起き上がった。


 地面には、巨大なバトルアクスが突き刺さっている。


 巨大な影は、こちらを睨みつけ、地面から勢いよくバトルアクスを引き抜いた。


 その姿は、夢で何度も見ていた。


 ビキニアーマーをまとった筋骨隆々の美女。


 戦士。


 勇者パーティーの戦士だ。


 戦士は、獰猛に息を吐き出し、鬼の形相でこちらを睨みつけた。


 すると、魔導士が冷え切った視線で、小さく口を開いた。


「貴方たちが、勇者さまを襲撃したことは分かっています。私たちは、勇者さまの命により、貴方がたを捕縛し、勇者さまの元へ連行しなければなりません。申し訳ありませんが、私たちと一緒に来て頂けませんか? 素直に応じて頂ければ、武力の行使は致しません」


 丁寧かつ冷淡な口調で、魔導士が告げた。


 いやいや、もうすでに、がっつり武力の行使してんだろうが。


 つーか、勇者が命令したってことは、奴は、もう復活しているのか。


 俺の渾身の不意打ちと、ミーネの極大爆裂魔法を食らってから、まだ一時間も経っていないぞ。


 咄嗟に、周囲へと視線を動かす。


 もう一人のパーティーメンバーである僧侶の姿が見えない。


 勇者の治療に当たっているのだろうか。


 とにかく、僧侶がいないことは、不幸中の幸いかもしれない。奴が回復やサポート要因として加われば、こちらは完全に詰んでしまう。


 いや、もうすでに、詰んでいるような気がするのだが。


 それにしても、あの鬼畜ゲス勇者、タフすぎるだろ。やっぱりとんでもない化け物だった。


 ミーネが嘆息した。


「料理は、練習すれば、それなりに上手くなるものじゃよ」


 俺も嘆息した。


「そうだな、練習すれば、それなりに食えるぐらいにはなるだろうな」


 だが、遅い。


 後悔、先に立たず。


 絶体絶命には変わりはない。


「どうしました? 私たちの言う通りにすれば、痛い目にはあいませんよ」


 俺は黙り込んだ。


 仮に、ここで降伏して、勇者の元に行けば、そこで待っているのは、間違いなく地獄だろう。


 俺とシュタインは拷問の末に殺され、ルピナスとミーネは凌辱の果てに殺されるだろう。


 あの鬼畜ゲス野郎に、慈悲など存在しない。


「分かりました」


 魔導士が続けた。


「沈黙は拒否と判断します。申し訳ありませんが、強制的に捕縛させていただきます」


 そう言って、魔導士は冷笑を浮かべた。

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