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貧民窟に向かうぞ!

 勢いよく地面に着地すると、全身を凄まじい衝撃が駆け抜けた。筋肉と骨が軋みを上げ、痺れと痛みで呻き声が吐き出た。


 魔法で筋力強化していても、ルピナスとミーネを抱えた状態で、二階の高さから飛び降りれば、さすがにその衝撃は大きい。ちなみに、ガニ股で踏みしめている地面は、派手に陥没している。


 俺は、痺れと痛みを強引に振り払い、手を振っているシュタインの元に駆け寄り、とりあえずミーネを預けた。


 中庭の騎士たちは、今や完全に恐慌状態に陥っている。謎の敵の襲来に加えて、突如として起こった夜空の大爆発。もはや冷静さを取り戻すことは困難だろう。


 逃亡するには、持ってこいの状況である。


 俺たちは、騒ぎ立てている騎士たちの隙間を、流れるようにすり抜け、アメルリーヒの屋敷から脱出した。そして、そのまま中央広場へと飛び出した。


 中央広場でも、突然の大爆発によって、混乱状態に陥った騎士や警使たちが、慌ただしく走り回り、方々で騒ぎ立てていた。


 すると、シュタインが、何かを思い出したかのように、ミーネを抱えたまま、どこかへ走り出した。


「お、おい、どこ行くんだ?」


 シュタインが、地面に落ちていた何かを拾った。


 俺は、それが何かを思い出した。


「うむ、無事、竜骨も回収したな。よしっ、おぬしら、このまま都市を出るぞっ!」


 シュタインは、魔力封じの袋に竜骨を押し込むと、石畳を蹴り上げ、弾けるように中央広場から、市街地へと駆けて行った。


「ちょ、ちょっと待て!」


 シュタインを追って、俺も全力でダッシュする。


 ドワーフ族であるシュタインの身体能力は、人間を遥かに凌駕している。そこに魔力が加わるため、その瞬発性は爆発的なものになる。魔力量は俺よりも遥かに少ないが、瞬間的な膂力や敏捷性には、どうあがいても敵わない。


 それでも必死で、シュタインの小さな背中を追いかける。見失いそうになれば、魔力探知を使って位置と方向を確認して追いかける。いつもならば、身体能力の差はあれど、ある程度の距離まで詰めることができるのだが、いかんせん、今はルピナスを背負って走っているため、なかなかスピードに乗ることができない。


 ルピナスの身長は、俺よりも少しだけ高く、加えて、手足がやたらと長いため、とんでもなくおんぶしにくいのである。ちょっとでも背中からずれ落ちると、爪先が地面に擦れてしまうため、その都度、背負い直しながら、走らなければならない。スタイルが良すぎるのも、考えものである。


 と、その時、背中で小さく掠れた声が聞こえた。


「ごめんなさい……」


 一瞬、心臓が高鳴った。


 俺は、小さく嘆息した。


「まったく、世話の焼ける奴だ」


 俺が毒づくと、ルピナスはまた、消え入りそうな声で「ごめんなさい」と言った。


 いつもは高圧的で暴力的なエルフのお姫様が、突然、殊勝な態度へ変わると、どうにも胸がむず痒くなってしまう。なるほど、これがギャップ萌えか。つまりこれが、ツンデレというやつか。生まれて初めて経験したが、確かに悪くはない。流行るのも分かる。


 そんなことを考えながら、そして、背中全体でツンデレお姫様の柔らかさを感じながら、俺は、何度も狭い路地をすり抜け、ようやくシュタインに追いついた。


 目の前には、巨大な城門が立ちはだかっている。


 城門の周りは、騎士を中心に、従卒や傭兵たちでごった返しており、城門は固く閉ざされていた。


 城壁に設けられた塔の上からは、騎士たちが次々と矢を放っている。すでに竜骨は回収済みだが、城門の外には、まだ赤帽子(レッドキャップ)がたむろしているのだろう。


「まいったな、これじゃあ、都市から出るのは難しいな」


「竜骨の回収は済んでおるから、直に赤帽子(レッドキャップ)どもも退散すると思うんじゃが……」


 シュタインに、お姫様抱っこされたミーネが言った。


「どうするんだ? さすがに、このまま都市にいるのはまずいだろ」


「ああ、勇者を半殺にしてしまったからのう。この混乱が治まれば、本格的な犯人捜しが始まるじゃろう」


 あの勇者は、プライドがクソ高い分、異常なほど執念深そうだ。復活したら、間違いないなく、血眼で俺たちことを探すだろう。現状、勇者やその仲間たちと、まともにやり合っても、勝ち目はない。


 この都市からとんずらすることが、俺たちに残された唯一の道なのである。


「仕方あるまい」


 ミーネが眉根にシワを寄せた。


「貧民窟に向かうぞ!」

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