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夢で、あらゆる存在の残留思念を視ることができるんだ。

「ううむ……」


 目を閉じたまま、険しい表情を浮かべるミーネ。


 現在、彼女は、都市内に潜んでいる魔族を探すため、魔力探知を、都市全体まで広げ、その最深部まで伸ばしている最中である。


 魔力探知は、使う者によって精度が大きく変わってくる。


 通常は、一定以上の魔力を宿している生き物や物体しか、探知することができないのだが、複雑な術式を組み合わせることで、その精度を飛躍的に向上させることができる。魔力探知の精度が上がると、本来は探知することのできない僅かな魔力や、空中で残滓となって漂っている魔力まで探知できるようになる。


 現在、ミーネは、超高性能魔力探知を駆使して、都市全体に存在しているすべての魔力に対して干渉を行っている。


 さすがは大魔導士。


 大雑把な魔力探知しかできない俺とは、まるでスケールが違う。


 魔法の才能がない俺とは、明らかにスケールが違う。


 施療院でのゴタゴタから、ようやく解放された俺たちは、とりあえず宿へと戻った。


 ベッドの上では、冒険者の少女が、すやすやと寝息を立てていた。その様子に安堵しながら、二人の冒険者に施療院でのことを話した。


 被害者は、すべて女性の冒険者で、全員が傀儡魔法(かいらいまほう)による魔力汚染で、完全に精神が崩壊していた。


「ぶはあっ!」


 ミーネは勢いよく息を吐き出すと、床の上にへたり込んだ。


「ここらが限界じゃな」


 魔力探知は、膨大な魔力を消費する。それを都市全体にまで広げ、超高性能モードで探知し続ければ、魔力の消耗も激しくなり、短時間で限界を迎えてしまう。実際、ミーネが魔力探知を行っていた時間は数分程度だ。


「どうだ? 魔族はいたか?」


「ダメじゃ、どこにもおらん。都市外れの貧民窟まで隈なく探したが、それらしい魔力は、まったく感じられんかった」


「じゃあ、犯人は魔族じゃないってことか?」


「そうとも言い切れん。上級魔族の中には、高度な魔力制御が得意な奴もおる。邪眼のバロールもそうじゃった。奴に関しては、勇者暗殺の機会を狙うため、半年以上も人間に扮して王都に潜伏しておったからな」


「魔族、恐ろしいな」


 つーか、そのまま勇者を暗殺してもらったほうが、世界のためだったような気がするが。


「それにしても、魔族ってのは、獣じみた魔物と違って、ずいぶんと策略家なんだな」


「魔族は、魔力は膨大じゃが、そもそもの絶対数が少ないからのう。数においては、人間や魔物に敵わないことを自覚しておる。しかも近年では、おぬしのように、やたらと魔力の高い異世界人も増えてきておるからのう。特に光属性の勇者なんかは、闇属性の奴らにとっては、とんでもない脅威のはずじゃ。じゃから目的を遂行する際は、高い魔力を駆使して、様々な策略を練って行動しておることが多いな」


 俺は違和感を覚えた。


「勇者は、魔族の天敵なんだよな?」


「ふむ、属性的にそうじゃな」


「だったら、天敵である勇者が、都市に滞在している中、しかも都市のど真ん中で、派手に魔法を使っているのは、どう考えても不自然だよな。仮に、都市の制圧、もしくは勇者の暗殺が目的だとしても、普通はもっと目立たないようにするよな? 正直、策略を立てているようには見えないんだが」


「うむ、確かにそうじゃな……」


 腕を組み、深く考え込むミーネ。


「いったい、何が目的なんじゃ……」


 謎が謎を呼び始めている。


「なあ、人間社会に潜り込むことができるってことは、魔族は人間に近い見た目をしているのか?」


 俺は、魔族を見たことがないので、どんな姿をしているのか、想像がつかなかった。


「人間に近い見た目をしている者もおるが、大半は、異形な姿形をしている者が多いな。じゃから、奴らが、人間社会に潜伏する時は、魔法で人間へと姿を変え、極限まで魔力を制御して、人間の中へと溶け込んでいくんじゃ。こうなると、視覚で探し出すのは、まず不可能といってもいいじゃろう」


 ミーネは眉間にシワを寄せ、続けた。


「じゃが、ワシの魔力探知にまったく引っかからないのも、不気味じゃのう」


「どういうことだ?」


「奴らが魔力制御しておっても、魔族特有の魔力は、僅かじゃが漏れ出ておるはずなんじゃ。ワシの魔力探知であれば、そんな微量な魔力も探知できるはずなのじゃが、まったくもって感じられんかった。実に不可解じゃのう」


 室内がしんと静まり返った。


 名探偵ミーネの推理も壁にぶち当たり、どうやら事件は暗礁に乗り上げたようだ。


「おう、そうじゃ、そうじゃ、話は変わるが、ルピナスの魔力も探知したぞ。中央広場から近い建物の中におったな。そこに、お前の言っておった知り合いの貴族とやらがおるのか?」


「あ、いや、そ、そうみたいだな」


 突然、話を振られて、とっさに動揺を隠す。


「どうやら、その貴族の屋敷には、勇者もおるようじゃな」


「そ、そうなのか?」


 勇者の前で、満面の笑顔を浮かべているルピナスの顔が思い浮かんだ。


 途端、胸が強く締めつけられた。


「あやつは、勇者への憧れが強いからのう。さぞ喜んでおるじゃろう」


「ああ、そうだな……」


 心臓の高鳴りが聞こえる。


 経験したことのない、嫌な、嫌な、高鳴りだ。


 俺は、ルピナスのことを頭から振り払うため、無理やりに話しを戻した。


「魔族の正体だが、俺の能力で分かるかもしれない」


「それは、どういうことじゃ?」


 怪訝そうにミーネが訊いた。


「今まで隠してきたんだが……」


 俺は続けた。


「俺は、夢で、あらゆる存在の残留思念を視ることができるんだ」

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