この世界の連中は、なんだかんだ言ってたくましい。
「なんじゃ、もう戻って来たのか?」
酒場に戻ると、ミーネがとろんとした目でこちらを見た。
真っ赤に染まった顔を見る限り、もうかなり出来上がっているようだ。一方、シュタインは、顔色一つ変えることなく、エールをぐびぐびと流し込んでいる。
「ルピナスには会えたのか?」
一瞬、俺は口ごもった。
「ああ、会ってきた」
思わず視線を反らすと、ミーネが目を細めた。
「一緒に戻って来んかったのか?」
「あーなんか、知り合いの貴族とばったり会ったみたいで、今夜は、その貴族の屋敷で開かれる晩餐会に参加するって言ってたな」
「ほう、そうか……」
怪訝そうな表情を浮かべるミーネ。
が、すぐに蜂蜜酒を飲み干し、豪快にゲップを吐いた。
それ以上、ミーネが追及してくることはなかった。
まあ、大人同士のいざこざだ。当人同士で解決するのが筋である。ミーネとシュタインも、その辺りは理解している。だから、あまり突っ込むような真似はしない。
二人とも何事もなかったかのように、酒を煽り続けている。
煽り続けている。
煽り続けている。
煽り続けている。
いや、飲みすぎだろ、お前ら。
ミーネとシュタインは、呆れるほどの酒好きだ。
仕事の後は、二人とも、たらふく酒を飲む。シュタインは、異常なほど酒に強いため、どれほど飲んでも、酔っぱらうようなことはない。だが、ミーネは、異常なほど酒に強いが、しっかりと酔っぱらう。しかも、酒の量が増えれば増えるほど、どんどんタチが悪くなってくる。
ミーネは、すこぶる酒癖が悪い。
竜骨回収クエストを始めたばかりの頃、彼女の酒癖の悪さを知らずに、好き放題に飲ませた結果、周囲の客にさんざん絡んだあげく、滅茶苦茶な因縁を吹っかけて、そのまま激しい乱闘となり、最終的には、特大の爆裂魔法をぶっ放して、酒場ごと吹き飛ばしたことがある。
翌朝、とんでもない額の損害賠償を請求されたのは言うまでもない。
俺たちのいる酒場は、宿屋と一体化しているため、もし爆裂魔法で吹き飛ばされたら、今夜の寝床すら失ってしまう。
よって、ミーネの意識が正常なうちに、強引にでも、お開きにしなければならない。
「さーてと、宿に戻るか。お前らも、明日の朝は早いんだろ?」
酒で喉をくびくび動かしながら、えーっ、まだ飲み足りない、といった目で抗議する二人。
そんな酔っ払いどもを無視して、俺はチェックインのため、カウンターへと向かった。
カウンターに近づくと、店主と従業員が慌ただしく、動き回っていた。
店は、今までに類を見ないほどの大盛況だ。
マズい酒とマズい飯が、次々と、テーブルへ運ばれていっている。
お忙しいところ、大変申しわけないのだが、これ以上、ミーネが酔っぱらって暴れ出すと、店に多大な迷惑をかけてしまう。しかも、店には貴族の従者もいるため、店が吹き飛べば、損害賠償だけは済まなくなる。
俺は、決意を固め、店主を呼び止めた。
すると、なぜか店主も、申しわけないといった表情になり、足早に近づいて来た。
「すみません、実は今日、一人部屋が開いていないんです」
「はあ、マジで?」
「遠方より訪れた貴族さまたちで、もう埋まってしまっています」
「うわぁ、サイアクだ」
こんな安宿に貴族が泊っているのか。確かに、都市の中は狭いため、宿屋には限りがある。こんな安宿でも野宿するよりはマシなのだろう。
「四人部屋でしたら開いています。ただ、他の冒険者さまと、相部屋になりますが……」
「四人部屋で相部屋? その冒険者は何人いるんだ?」
「三人です」
「三人? ベッドは四つしかないんだろ?」
俺たち三人と冒険者が三人。
合計、六人。
「はい、ですから、どなたかは、お二人で休んでいただくことになります」
つまり、一つのベッドを、二人で使わなければならないということだ。
「マジかよっ!」
俺は、テーブルへと視線を向けた。
ミーネとシュタインは、急ピッチで酒を煽り続けている。
うげぇ、あの酒臭い二人のどっちかと一緒に寝るのか。
俺は心底げんなりした。
まあ、ミーネは、年齢はババアだが、見た目は幼女であるため、一緒に寝るのは倫理的に問題がある。よって必然的に俺とシュタインが、一緒のベッドで眠らなければならない。酒臭い毛むくじゃらのオッサンなのかガキなのか分からん奴との添い寝である。安眠などできるわけがない。
ただでさえ、安眠できない体質をしているのに、この仕打ちは、あまりにもひどすぎる。
このことを二人に告げたら、特に驚いた様子もなく、普通に納得した。
俺は、深い溜息を吐いた。
この世界の連中は、なんだかんだ言ってたくましい。