表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/132

クソみたいな映画。

 気が付くと、俺は、いつもの映画館にいた。


 そして、いつもの席に座っている。


 スクリーンが一番よく見える、最高の位置。


 いつもと変わらない上映前の風景。


 ただひとつ、そこに異物が紛れ込んでいた。


「あら、おかえりなさい」


 漆黒のドレスを身に纏った淑女が、俺を見て、婉然と笑った。


 クリームヒルトは、観客として座っていた。


 バルムンクを持っている限り、彼女は、俺の夢に現れ続けるのだろうか。


 俺は、ふうっ、と静かに息を吐き出した。


 すると、熱く燃え滾っていた感情が、急激に冷めていくのが分かった。


 不思議なことに、ここに来ると、不気味なほど、冷静に戻ることができる。


 クソみたいな映画ばかり見せる映画館だが、それでも、長年、通い続けると、実家のような安心感が生まれるのだろうか。確かに、異世界転移してから、すべての環境が激変してしまったが、ここだけは、子供の頃から何も変わっていない。


 皮肉なものである。


 俺は、深い溜息をこぼした。


「気絶するたび、ここに連れて来られるのは、もう勘弁してもらいたいな。さすがに今は、クソみたいな映画を見ている場合じゃないからな」


 あまりにもタイミングが悪すぎる。夢で冷静さを取り戻しても、やはり現実のことは気になって仕方ない。


「あらそうなの? 今回のエイガ、わりと面白そうよ」


「はあ、面白いわけないだろ。どっかの誰かのしょうもない残留思念ばっか見せられてよ。もういい加減にしてくれって感じだ」


 俺が毒づくと、クリームヒルトは口許をほころばせた。


「んで、今回は、誰の残留思念なんだ?」


「それは、見てからのお楽しみ」


 クリームヒルトが婉然と笑った。


 その笑みに、嫌な予感がした。


 なぜなら、今回、上映される残留思念は、奴の可能性が高いからだ。


 いつものように、何の前触れもなく、館内の照明が消え、スクリーンに映像が映し出された。


 最初に映し出されたのは、雲一つない快晴の空だった。


 群青色の空が、果てしなく続いている。


 そんな美しい空の下。


 悲鳴がこだましていた。


 スクリーンには、見覚えのある村が、映し出されていた。


 村を囲むように小さな畑がいくつもあり、その畑にそって、茅葺屋根の平屋が並んでいる。それら平屋の一番奥に、高く掲げられた十字架が見える。


 間違いない。


 竜骨回収に向かう途中、偶然立ち寄った廃村だ。


 映像は、徐々に村の中心部へと向かっていく。


 聞こえてくるのは、叫び声、泣き声、呻き声。


 それらは、徐々に大きくなっていき、阿鼻叫喚へと変貌した。


 とてつもなく嫌な予感がする。


 思わず、クリームヒルトへ視線を向ける。


 彼女は、ひじ掛けに頬杖をつき、微笑を浮かべながら、スクリーンを見つめている。


 映像が、村の中心にある広場へと到着した。


 そこには地獄絵図が広がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ