大地が躍動している。
ミーネから、落とし穴大作戦の全容を聞いた俺たちは、即座に、各々の持ち場に着いた。
ミーネとロルシュが先頭に立ち、俺とルピナスは、二人の後ろでスタンバイしている。
作戦内容は理解できたが、本当に上手くいくのか、そもそも、そんなことが可能なのか、正直、まったくイメージすることができない。
だが、他に良い案がない以上、この作戦に賭けるしかない。
「うむ、では、まずは目くらましからじゃ!」
ミーネが、隣でスタンバイしているロルシュを一瞥した。
ロルシュは嘆息した。
「まったく、君は、神様への祈りを何だと思っているのかな。ほっんと、天罰が下っても知らないよ」
「ワシは、ブルグント神聖教ではないから、問題はあるまい」
「これだから異教徒は……」
ぶつぶつ言いながらも、ロルシュは地面に片膝を突き、こうべを垂れ、手を組み、静かに祈りの言葉を紡ぎ始めた。
次の瞬間、天空から一筋の光が射し、ロルシュを眩く照らした。
「祝福の閃光」
ロルシュの全身から、幾条もの閃光が放出された。
無数の光の束が、激しく迸りながら、白一色に拡散した。
膨大な光の奔流に呑み込まれる赤帽子たち。だが、竜化している彼らには、神の光さえも届かない。
聖なる祝福の光も、彼らには、目くらまし程度にしか映らない。
が、今は、その目くらましが必要なのだ。
薄暗い森の中まで、光の洪水は駆け抜けていき、周囲を白く染め上げていった。
そんな中、ミーネはしゃがみ込み、両手を地面に当て、静かに詠唱を始めた。
すべての魔法を無詠唱で繰り出すことのできる大魔導士が、丁寧に、そして、慎重に、呪文を紡ぎ出している。
精霊たちの元へ、確実に届くように。
詠唱が進むに連れて、地面から呻き声のような音が聞こえてきた。
大地が躍動している。
大地にエネルギーが充満しているのが分かった。
ふいに、ミーネの詠唱が終わった。
「大地小人の暴走」
次の瞬間、大地が激しく横に揺れた。
立っていられないほどの大揺れだ。
光に包まれていた大地が、轟音を上げている。
唸り声を吐き出して、地面が裂けていくのが分かった。
「ふうっ、ごめん、ここらへんが限界だね」
ロルシュが、地面に尻もちを突いた。
爆発的に拡散されていた光の閃光が、徐々に薄れていく。
そして、消えゆく光の中に、巨大な地割れが、その姿を現した。
大地が豪快に引き裂かれ、その亀裂が、遥か地平線の向こうまで伸びていた。
まるで、一本の道のように。
その道は、一直線に、城門まで続いている。
「エイミ、行くわよっ!」
ルピナスが弓を構えて、地割れの中へ飛び込んだ。
「くそっ、もうやるしかないか!」
ルピナスを追って、俺も地割れの中へと飛び込んだ。