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落とし穴大作戦じゃ!

 傀儡魔法かいらいまほうを受けた時、俺が感じたのは、手足に〝糸〟が絡みついたような感覚だった。


 〝糸〟と言っても、よく漫画やアニメで、敵をバラバラにする鋼鉄の糸ではなく、絹糸のような柔らかい糸だった。よって、力を込めれば、簡単に引き千切ることができた。


 だが、ミーネは、荒縄で縛り上げられているような感覚だと言っていた。ルピナスに限っては、鎖で雁字搦めに絡みとられているような感覚だったと言っていた。


 魔力の差によって、ここまで感じ方が変化するとは驚きである。


「じゃが、厄介なことに、傀儡魔法かいらいまほうは、その距離に応じて、強制力も大きく変わってくる」


 敵との距離が、近くなれば、近くなるほど、傀儡魔法かいらいまほうの強制力も強化されていく。


「いくらおぬしでも、赤帽子の王(レッドロード)から、至近距離で、傀儡魔法かいらいまほうを受ければ、確実に、肉体は支配されるじゃろう」


「そりゃあ、勇者以上の魔力を持つ化け物だからな。俺の魔力抵抗でも厳しいだろうな」


 赤帽子の王(レッドロード)は、凄まじいドーピングにより、俺の魔力量を完全に凌駕している。つまり、俺にとって唯一のチート能力が、まったく役に立たないのである。


「でも、エイミじゃなきゃ、赤帽子の王(レッドロード)に近づくことができないのよね?」


 ルピナスが、険しい表情を浮かべた。


「ううむ、どうにかして、不意を突くしかあるまい」


 眉間にシワを寄せ、ミーネが唸る。


 つまり、赤帽子の王(レッドロード)に見つからないように近づき、不意を突いて、一撃で仕留めなければならない。


 不意打ち攻撃は、俺の十八番だが、敵は、あのアホ勇者よりも、遥かに賢く、警戒心も強い。バルムンクを持った人間を、そう簡単に近づけさせはしないだろう。


 明確な答えが出ないまま、俺たちは、戦場への距離を縮めていっている。


 重なり合うように密集していた木々が、徐々に、その隙間を広げていく。


 平原が近い証拠だ。


 その時、木々の向こうから、人々の怒声や悲鳴、そして、魔物の奇声や叫び声が、耳朶を打った。


 俺たちは、慌てて荷車を止め、声のする方へと走った。


 森の終わり。


 緑の平原が広がり、その遥か先に、巨大な城壁が、地平線に沿って伸びている。


 城壁の向こうは、ヴィーネリント小教区だ。


 屈強にそびえ立つ城壁に、赤帽子レッドキャップの大群が押し寄せていた。


 宗教騎士団テンプルナイツたちが、必死で応戦しているが、赤帽子レッドキャップの物量攻撃によって、成す術もなく、地面にひれ伏していっている。


 絶望的な状況に、戦慄が走る。


「こりゃあ、ヤバいな……」


 俺たちは、森の中で足を止めた。平原に出れば、間違いなく赤帽子レッドキャップどもに気付かれてしまう。


「おいおい、赤帽子レッドキャップの魔力が高いのは分かるが、竜鱗鋼で武装している宗教騎士団テンプルナイツが、一方的にやられているぞ。どうなってんだ?」


「恐らく、赤帽子の王(レッドロード)が、傀儡魔法かいらいまほうを繰り出しているのじゃろう。あの至近距離ならば、魔力の高い騎士であっても、一瞬で、肉体と精神を抉り取られるじゃろう」


「マジかよ……」


 あんな無敵の化け物を、斃すことなんてできるのか。


 近づいただけで、ジ・エンドだろ。


「このままじゃ、ヴィーネリントが、赤帽子レッドキャップに攻め込まれるわ!」


 ヴィーネリント小教区が陥落すれば、大量に保管されている竜骨が、赤帽子レッドキャップの手に渡ってしまう。そうなれば、この世界は完全に終わる。


 俺は、ミーネを一瞥した。


 彼女は、口をへの字に曲げ、険しい表情を浮かべたまま、黙り込んでいる。


 赤帽子の王(レッドロード)を斃さない限り、この状況を打開することはできない。だが、奴は、勇者を超える魔力を宿している上、傀儡魔法かいらいまほうを操る完全無欠の化け物だ。


 奴を斃せるビジョンが、まるで浮かばない。


「くそっ、どうすりゃいいんだ。そもそも、奴は、どこにいるんだ?」


 俺は、魔力探知を城壁まで伸ばした。


 すると、城門の付近で、強大な魔力を探知した。


「コイツは……本当に魔物なのか……?」


 おぞましく、獰悪な魔力が、暴風となって激しく渦を巻いている。


 異世界に転移して初めてかもしれない。


 魔物に対して、これほどまでに恐怖を感じたことは。


 と、その時、城壁周辺で、高い魔力を探知した。


 城壁の上に目を凝らすと、多くの人影が、しきりに動き回っていた。


「あれは、ブルグント魔導団か?」


 次の瞬間、城門付近で暴れ回っていた赤帽子レッドキャップの影が、忽然と消えた。


 俺は、何が起こったのか分からず、目を瞬かせた。


「ん? 何が起こったんだ?」


 すると、隣にいたミーネが、突然、大声を上げた。


「うおおっ、その手があったか、さすがは我が弟子じゃ!」


「ケイさんたちが、何かやっているのか?」


 ミーネが、嬉々として頷いた。


「あれは、魔法で穴を作っておるんじゃ!」


「穴? 落とし穴みたいなもんか?」


「そうじゃ、どうせ奴らには魔法が通用せん。じゃから、穴に落っことして、足止めしておるんじゃろう」


 落とし穴を作る魔法。


 普段は、まったく役に立たなそうな魔法だが、この状況下においては、最善とも言える魔法だ。


「ふふふっ、思いついたぞ……」


 ミーネが不敵に笑った。


「名付けて、落とし穴大作戦じゃ!」


 実に、安直な作戦名だ。

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