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赤帽子の大移動だ。

 俺たちは、竜骨の回収を終えると、急ぎ、ヴィーネリント小教区へ向かった。


 幸い、小さい竜だったため、シュタイン抜きでも、短時間で回収することができた。


 問題は、赤帽子レッドキャップが、竜骨を持って移動しているということだ。


 しかも大移動だ。


 恐らく、赤帽子レッドキャップは、竜化したグリフォンによって、森を追われてしまったのだろう。グリフォンにとって、竜骨は、母親の遺骨であったため、赤帽子レッドキャップに貪られることが、どうしても許せなかったのだろう。


 だが、赤帽子レッドキャップも、竜骨を取り返すために、必死に抵抗したはずだ。森の中で串刺しになっている赤帽子レッドキャップの数を見れば、おのずと想像はつく。そして、激しい戦いの末、僅かな竜骨を奪って、逃走したのだろう。


 森の中に赤帽子レッドキャップがいなかったのは、これが原因だろう。


 たった一匹のグリフォンが、数千、いや数万の赤帽子レッドキャップを森から追い出したのだ。


 あの赤帽子の王(レッドロード)でさえ、撤退を余儀なくされている。


 だが、ここで一つ疑問が生まれる。


 赤帽子の王(レッドロード)とグリフォンの魔力差は、多くの人間の魔素を取り込んでいる赤帽子の王(レッドロード)のほうが、圧倒的に高いはずだ。つまり、グリフォンは、赤帽子の王(レッドロード)の竜属性を完全に相殺することはできないのである。だが、赤帽子の王(レッドロード)は、グリフォンよって森を追われている。


 ミーネいわく、どうやらここには、魔物と聖獣の相性が関係してくるようだ。


 グリフォンは、魔物特効の武器を隠し持っていた。


 グリフォンは、聖獣であるため聖属性が宿っている。対する赤帽子レッドキャップは、無属性だが、魔物に堕ちたことで邪属性になっているらしい。どうやら、異種族の魔素を取り込むと、体内の魔素が変質して邪属性になるようだ。これは多くの魔物に共通しているらしい。


 聖属性と邪属性は、相克関係にあるため、魔力差に応じて特効攻撃を与えることができる。よって、赤帽子の王(レッドロード)は、グリフォンに対して特効攻撃を与えることができた。しかし、グリフォンの嘴と鉤爪には、膨大な魔力が濃縮されているらしく、恐らく、その魔力量が、赤帽子の王(レッドロード)の魔力量を僅かに上回ったことで、グリフォンからの特効攻撃が有効となったようだ。


 竜属性が相殺しきれなくても、特効攻撃で、赤帽子の王(レッドロード)を撃退したのである。


 こういった特性は、光属性や聖属性を宿す聖獣や、闇属性や邪属性を宿す魔獣などに見られる特殊な機能で、嘴、鉤爪、あと牙や刺などに魔力が濃縮されていることが多いらしい。ドワーフ族によって、これらを利用した、特効効果の武器や、耐性防御の防具などが作られているようだが、いかんせん希少な産物であるため、ほとんど世に出回ることはないらしい。


 もし、これらが竜鱗鋼に使用されていたら、仕事が、かなり楽になったに違いない。


 魔物に対して、特効武器を持つグリフォン。


 かくしてグリフォンは、赤帽子レッドキャップにとって最大の天敵となった。


 そこに加えて、あの咆哮を放たれたら、さすがに勝ち目はない。


 グリフォンの咆哮は、魔法ではないため、魔力差に関係なく、ダイレクトに襲い掛かって来る。つまり、どんな相手であっても、一時的に動きを止められてしまうのだ。


 やはり聖獣は、竜と同様に、遥かに格上の存在なのだろう。


 まともに戦って勝てる相手ではない。


 奇跡である。


 奇跡的に、バルムンクを持っていたから、勝つことができた。


 今回ばかりは、神へ、お礼を言わなければならない。


 だが、そんな感謝も束の間、事態は加速度的に悪い方向へ進んでいる。


赤帽子レッドキャップどもは、人知を超えた力を手にした。もはや、人間を恐れる必要がなくなったと言うことじゃ。そうなれば、棲み処を奪われ、森を追われた奴らが、どこに行くのか、おのずと分かるじゃろう」


「人間の生存域を奪いに来るってことか」


 赤帽子レッドキャップの大移動だ。


「すでにハーデブルクは陥落した。奴らの次の狙いは、間違いなくヴィーネリントじゃ!」


「シュタイン、大丈夫かしら……」


「もし、ヴィーネリントへの侵攻が始まっていたら、シュタインは巻き込まれているかもしれない」


 赤帽子レッドキャップとの戦闘に巻き込まれたとしても、髭の生え揃ったシュタインであれば、万に一つも苦戦するようなことはない。


 苦戦するはずがない。


 が、どうしても不安が消えることがなかった。


 敵には、赤帽子の王(レッドロード)がいる。


 奴は、規格外の魔物だ。


 シュタイン一人で、勝てる相手ではない。


 頼むから無事でいてくれ。


 俺は、必死で願い続けた。


 鬱蒼とした森の中、荷車を引く車輪の音だけが、けたたましく聞こえる。


 先頭は俺が引き、右側をルピナス、左側をミーネ、そして、後ろをロルシュが押している。


 辛うじて草が倒れている程度の獣道だ。そこら中に朽ち木が転がり、地面は酷くぬかるんでいる。竜骨を詰んだ荷車は、重量が増えているため、そう簡単には、前へ進まない。それでも全員が、残った魔力を駆使して、必死で荷車を押している。


「そろそろ、平原に出てもいいんじゃないのかい? 赤帽子レッドキャップに見つかったとしても、こっちには、バルムンクがあるし、何なら、ノートゥングも二本ある。まあ、僕のやつは、ボロボロなんだけど、赤帽子レッドキャップを斬るぐらいの刃は残っているよ」


 ロルシュが辛そうな声で言った。


 負傷している彼にとって、この獣道は辛いに違いない。


「雑魚は僕たちで引きつけるから、君はバルムンクで赤帽子の王(レッドロード)の相手してよ。いくら化け物でも、バルムンクがあれば、簡単に倒すことができるでしょ?」


 ロルシュが、俺に向かって言った。


 それが最善の策であることは分かっている。


 分かっている。


 分かっている、が。


「いや、今は、森の中におったほうがよいぞ」


 ミーネが、ロルシュに告げた。


「どうしてなんだい?」


 ロルシュが、疲れた溜息を吐いた。


 ミーネは険しい表情を浮かべ、黙っている。


「どうかしたのか?」


 俺が訊くと、ややあって、ミーネが口を開いた。


「おぬし、勇者は、赤帽子レッドキャップに攫われたと言っておったな」


「ああ、奴が攫われていくのを、夢でハッキリと見たからな」


 ミーネが苦虫を噛み潰した。


「奴はもう、赤帽子レッドキャップに喰われておるかもしれんぞ」

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