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貴方は、一体、誰?

「カタリナさん、どう言うことですか?」


 魔導士が、僧侶に駆け寄った。


「今の魔法ですよね。どうして僧侶の貴方が、魔法を使えるのですかっ?」


 僧侶は黙ったまま、魔導士を見つめている。


「それに、あの魔法、明らかに、この国の魔法じゃありませんよね? 一体、何を信仰したら、あんな魔法が使えるようになるのですかっ? カタリナさん、答えて下さい! もし改宗したのであれば、すぐに教えて下さい!」


 僧侶は、一切として口を開こうとしない。


 無表情のまま、そして無感情のまま、魔導士を見つめている。


 すると、バトルアクスを肩に担いだ戦士が、疲れた様子を浮かべながら、二人の元に近づいて来た。


「なんだぁ、どうしたんだ、セシリア? いつも冷静なお前が、やけに感情的だなぁ?」


「カタリナさんが、魔法を使いました……」


「ん、ああ、そうみたいだな。それが、なんか問題でもあるのか?」


「カタリナさんは、ブルグント神聖教を信仰する聖職者です。聖職者は、宗教上、異端の能力である魔法を使うことはできません。代わりに、神から与えて貰った奇跡を、祝福という形にして使うことができます」


「そうだったんだな。オレはさ、戦士だからよ、そこらへんのことは、さっぱりだもんな」


「改宗しない限り、聖職者は、魔法を使うことはできません」


「いやあ、オレはてっきり、カタリナも、魔法を使えると思ってたんだけどな……」


「どうしてですか?」


「ほら、この前、勇者さまを奇襲した冒険者を追いかけた時、貧民街で、お前に氷漬けにされたオッサン覚えているか?」


「はい、もちろん。私のミスですから覚えています」


 魔導士が表情を曇らせた。


「お前が怪我して現場を離脱した後、カタリナが駆けつけてくれて、オッサンの氷を魔法で溶かしてくれたんだよ。だから、てっきりカタリナも魔法は使えるもんだと……」


 魔導士が頬を引きつらせたまま、硬直した。


「う、嘘、ですよね? 私の魔法を相殺したのですか? あの魔法には、かなりの魔力を注ぎ込みました。それを相殺するとなると、同等、もしくはそれ以上の魔力を注がねばなりません。仮に、カタリナさんが、改宗していたとしても、私と同等のレベルまで魔法を習得するには、数年……いや、十数年は掛かるはずです」


 魔導士は、得体の知れないものを見るように、僧侶を睨んだ。


 僧侶は無表情のまま、そして無感情のまま、乾ききった目で、魔導士を見ている。


「貴方は、一体、誰?」


 その時、甲高い鳴き声が聞こえた。


 場面が変わり、黄緑色リーフグリーンの小さな竜が、映し出された。


 竜の背中には、バルムンクが突き立てられていた。


 滑らかで光沢のある黄緑色リーフグリーンの皮膚が、真っ赤な血で汚れていく。


 竜は苦しみながら、しきりに鳴き声を上げている。


「おらよっと!」


 勇者は、竜の横腹に足をめり込ませ、力任せに蹴り上げた。


 竜は、鳴きながら、ごろんと横向きに倒れ、全身を痙攣させた。


 背中に刺さっていたバルムンクの先端が、腹部から飛び出している。


 串刺しにされていた。


 おびただしい量の血液が、傷口から流れ落ち、瞬く間に、地面が赤く染まっていく。


 竜は苦しみ喘ぎながら、自らの血だまりの中へと沈んでいった。


「ん? どこいったんだ、アイツら、おーい、このカバ、殺したぞ、さっさと解体しろ!」


 勇者が叫ぶと、森の中に隠れていた解体屋たちが、ぞろぞろと姿を現した。皆、その手には、斧や鉈が握られている。


「くっ……」


 戦士が怒気を滲ませると、魔導士が、すっと手を伸ばし、彼女を制止した。


 一方、僧侶は、無表情を張り付けたまま、無感情な眼差しで、竜と勇者を見ている。


「ありゃりゃ、こりゃあ、可哀そうに。ちょっと勇者さま、まだ生きているじゃありませんかぁ」


 解体屋の男が言うと、勇者が舌打ちをした。


「どうせ、すぐに死ぬだろ」


 勇者が吐き捨てた。


「ああっ、クソがぁっ、あの鳥のせいで、予定が狂っちまった。さっさと解体しろっ! 俺は忙しいんだっ!」


「へいへい、分かりました」


 解体屋の男は、肩を竦めると、仲間たちに合図を送った。


 すると、竜の周りに、わらわらと男たちが集まって来た。


 そして、黄緑色リーフグリーンの小さな竜は、生きながらにして、バラバラに解体されていった。

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