異世界の奴らってのは、どいつもこいつも軟弱だな。
「げっ、なんだ、コイツ、スゲー小さくねえか?」
スクリーンから、憎々しい声が聞こえた。
森の中に、ぽっかりと浮かんだ緑の大地。そこにはコバルトブルーの湖が広がり、その湖畔に一匹の竜が眠っていた。
森の若葉を散りばめたような、黄緑色の小さな竜。
そんな竜を目の前に、一人の男が、がに股でふんぞり返っている。
チビで猿顔の日本人。
勇者である。
「コイツは、〝眠り竜〟って呼ばれていまして、その名の通り、ずっと寝ている変な竜なんですよ。ただ、とんでもなく希少価値の高い竜で、我々の間では、伝説の竜と呼ばれています」
解体屋の男が、勇者にすり寄り、恭しく言った。
「伝説の竜? このカバみたいな竜が、か?」
「はい、コイツは、こう見えて、膨大な魔力を宿しています。噂では、竜族でもトップクラスだと言われています。つまり、コイツを解体して、加工品を作れば、莫大な金額になることは間違いないってことです」
「マジか?」
勇者が子猿のように喜んだ。
「コイツの目撃情報は何度もあったのですが、どうも寝ている間は、魔力が消えるらしくて、ぜんぜん見つけることができなかったんですよ。ハーデブルクを訪れるたびに、魔力探知していたんですが、まったくダメでした。ですが、つい先日、ようやく魔力探知に引っかかって、こうやって、見つけ出すことができたってわけです」
「ふーん」
勇者が興味なさげに、眠り竜を見下ろした。
「つーか、わざわざ、オレが殺す必要あるのか? このカバ、べつに襲ってこないんだろ? だったら、バルムンク貸してやっから、お前が殺せよ」
「いやいやいや、俺なんかが、バルムンクを持ったら、一瞬で、魔力が枯渇してしまいますよ!」
解体屋の男が慌てて言った。
「ったくよ、異世界の奴らってのは、どいつもこいつも軟弱だな」
勇者は舌打ちすると、戦士に首を振って合図した。
戦士が、緊張に表情を歪めながら、背負っていたバルムンクを下ろし、魔封じの布を剥ぎ取った。陽光を浴びながら、黄金に輝く魔剣が姿を現す。戦士がよろめきながらも、バルムンクを抱え上げると、すかさず、僧侶と魔導士が助けに入り、三人でバルムンクを抱えた。
三人で抱えているにも拘らず、三人ともが足元をふらつかせている。
「おいっ、さっさと、持ってこいっ!」
勇者の怒声が響いた。
「さっさとコイツを殺して、あのクソエルフの女と、オレを殺そうとした冒険者どもを追いかけるぞ! アイツらだけは、絶対に許さねえ!」
勇者が、ぎりぎりと歯ぎしりしながら、苛立ちをあらわにしている。
どうやら、俺たちが、ルピナスを救出した日から、それほど時間は経っていないようだ。
しかし、俺から痛恨の一撃を食らい、さらには、ミーネから特大爆裂魔法を食らったにもかかわらず、勇者には傷一つ見当たらない。光属性の自己治癒機能は、想像以上の回復力なのかもしれない。
それにしても、このチビ猿。めちゃくちゃ怒っているな。ざまあみろ、このクズ野郎。
勇者は苛立ちながら、バルムンクをぶんどると、顔をしかめながら、刃を振り上げた。
刹那、上空で、咆哮がこだました。
その場にいる全員が、立ち竦んだ。
「あん、なんだぁ?」
次の瞬間、上空から、ミサイルのようなスピードで、何かが、大地に突っ込んだ。
地面が激しく揺れ動き、着弾地点に波紋状の亀裂が走った。
濛々と土煙が上がり、その中に巨大な影が映った。
「な、なんだぁ、コイツは?」
勇者が眉をひそめ、片目を大きく開いた。
土煙の中から、巨大な翼を広げた獅子が、唸り声を上げながら、姿を現した。
グリフォンだった。