まるで、この世界の呪いを映し出す鏡のようね。
巨大なスクリーンが広がっていた。
うんざりするほど見慣れたスクリーンだ。
俺は、スクリーンと向かい合う形で、椅子に腰を掛けていた。
座り慣れた赤い椅子。
「おかえりなさい」
隣で、クスッと笑うのが聞こえた。
「楽しませてもらったわ。随分と無謀な作戦だったわね」
俺から、少し離れた椅子に、艶麗な貴婦人が腰を掛けていた。
細く艶やかな長い銀髪に、光のない切れ長の瞳。そして、血の気のない白い肌。ひじ掛けの上に乗った華奢な腕は、それだけで絵になるほど美しい流線形を描いており、それはまるで、彼女の脆さや儚さを表しているように見えた。
「クリームヒルト……」
漆黒のドレスの中で、彼女はゆっくりと脚を組んだ。
「脳味噌をフル回転して思いついた作戦だったんだけどな……」
グリフォンを空中で仕留めるには、湖の上しかなかった。
ひっ迫した状況だったため、ルピナスとミーネ、そしてロルシュには、グリフォンの誘導しか伝えていなかった。それでも三人は、しっかりと意図を読み取り、湖の上までグリフォンを押し返してくれた。さすがは歴戦の猛者たちである。
グリフォンが、土壇場で咆哮を繰り出した時は、さすがに冷や汗をかいたが、ロルシュの機転により、何とかピンチを切り抜けることができた。
作戦は上手くいった。
上手くいったが、俺がここにいるということは、気を失っている最中なのか?
それとも――
「俺は、死んでしまったのか?」
すると、クリームヒルトが婉然と笑った。
「さあ、どうかしらね」
彼女は、スクリーンに視線を向けた。
「そろそろ、始まりそうよ、エイガ」
巨大なスクリーンが光り始めた。
何を見せられるんだ?
やけに胸騒ぎがした。
嫌な予感がする。
そして、予感は的中した。
スクリーンには、草原が映し出され、コバルトブルーの湖が広がっていた。
もう、いい……。
もういいから、やめてくれ……。
そう懇願しても、残酷な映写機は、嘲笑うかのように回り続けた。
コバルトブルーの湖の畔に、黄緑色の小さな竜が、気持ち良さそうに眠っていた。
眠り竜。
これは、グリフォンの残留思念だ。
猛烈な拒絶反応が襲い掛かる。
嫌だ、見たくない。
結末は、もう知っている。
最低最悪のバッドエンドだってことは知っている。
だから、見せないでくれ。
上映を中止にしてくれ。
フィルムを焼き捨ててくれ。
「随分と辛そうね」
クリームヒルトから、冷たい視線を感じた。
「ああ、これから、見たくもない映像を、無理やり見せられるんだからな……」
「そう」
感情のこもらない声が聞こえた。
「でも、このエイガカンって、本当に不思議な魔法ね」
クリームヒルトが、どこか皮肉交じりに続けた。
「まるで、この世界の呪いを映し出す鏡のようね」