モズノハヤニエ
「何とかするって、いったい、どうする気なの?」
ルピナスに訊かれ、俺は、迷うことなく答えた。
「俺が、囮になる」
周囲が静まり返った。
「いや、無茶よっ! あのグリフォンに捕まったら、一瞬で串刺しにされるわ!」
「いや、串刺しにされる前に、俺が、このバルムンクで仕留める」
ロルシュが、溜息をこぼした。
「無理だね。奴の咆哮を聞いただろ。奴は、あの咆哮で、獲物の動きを止めてから、捕らえて、空に持って行くんだ。地上に引き付けて倒すことなんて不可能さ」
「ああ、それは、分かっている」
ミーネが、鋭い視線を向けた。
「もしかして、おぬし、空中で仕留める気か?」
「ああ、そうだ、俺が囮になって、わざと捕まってから、空で、奴を仕留める」
ルピナスが怒気をあらわにした。
「ちょっと、そんなことしたら、グリフォンと一緒に、エイミも落ちて、ただじゃ済まないわよっ!」
ミーネも苛立ちをあらわにしている。
「ワシの魔法で、落下するおぬしを受け止めるにしても、そこにグリフォンが絡んでくれば、さすがのワシでも、受け止めきれんぞ!」
俺は、かぶりを振った。
「俺を受け止める必要はない」
ルピナスとミーネが、同時に眉をひそめた。
「ただ、ルピナスの弓とミーネの魔法で、あのグリフォンを、竜骨がある方向へと誘導して欲しい」
ミーネが怪訝そうに目を細めた。
「おぬし、何を考えておるのだ?」
「竜骨のある場所に行けば分かる」
すると、ルピナスが不安そうに、近づいて来た。
「エイミ、信じて大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。俺を信じてくれ。さすがに、異世界まで来て、〝モズのはやにえ〟で死ぬのは、ごめんだからな」
ルピナスが、小首を傾げた。
「モズノハヤニエ? なによ、それ?」
どうやら、異世界にモズはいないようだ。
「戻ったら、教えてやるよ」
俺が、笑みを浮かべると、ルピナスも笑みで返してくれた。
それは、俺の大好きな、優しい笑みだった。
「絶対に教えてよね」
「ああ、約束する」
「絶対よっ!」
その時、どこからか溜息が聞こえた。
「あのグリフォンを、竜骨のところまで誘導すればいいのかい?」
地面に座り込んでいたロルシュが、ふらつきながらも立ち上がった。
「そうだ」
ロルシュが、柔和な笑みを浮かべた。
「なるほど、君の考えていることが、何となくだけど、分かったよ。いいよ。僕も手伝ってあげる」
「えっ? でも、大丈夫なのか? 怪我しているみたいだが……」
「ああ、これかい? こんなの、かすり傷だよ。木の枝が折れてくれて助かったよ。そうじゃなきゃ、僕も今ごろは、あんな風に串刺しにされていたからね。悲しいけど、昔から悪運だけは強いんだよね」
ロルシュは続けた。
「部下を皆殺しにされたんだ。この落とし前は、きっちりとつけないと。それに、このまま逃げ帰っても、教皇さまに、どう顔向けすればいいのか分からないしね」
痛みに顔を歪めながらも、ロルシュからは闘志が漲っていた。
「分かった、よろしくたのむ」
あっ、そう言えば、コイツには貸しがあったよな。
コイツに燃やされて、消し炭となったブルグント魔導団の魔法式服。
この落とし前は、きっちりとつけてもらわなくてはならない。
すべてが終わったら、莫大な損害賠償を請求してやる。