表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/30

第24話 システムに認められなくても

 朝、ナイ課にそれは届いた。


 中央分類監査局発――

 セレクター署名付きの、正式な監査通知書。


【通知:記録監査対象者に関する権限一時停止措置について】


 記録者コードの不一致により、分類記録の正当性に重大な疑義が生じました。

 本件記録者(瀬野晴真)による分類記録については、

 監査完了までの間、すべての記録作業を停止してください。

(対象記録の継続行為は無効化される場合があります)


 その文面は、冷たく、事務的だった。


 俺は紙面を見つめたまま、指先がわずかに震えた。


 最初に声を発したのは、ミカだった。


「……やっぱり来たか」


「これって……」


 テンヨウが眉を寄せる。

 一条は何も言わずに通知書を一読し、机に戻った。

 九重が苦笑する。


「まぁ、そうなるだろうとは思ってたよ」


「これって……俺の記録は、無効になるってことですか?」


「“今すぐ無効”ってわけじゃない。ただ、“保留”だ。

 監査が終わるまでは、正式な記録とは認めない――そういうことだろうな」


 九重はどこか割り切ったような声音だった。


 ***


 午後。

 ミカとテンヨウが、俺の代わりにログ管理に入っていた。


「晴真の記録が止まってる間、私たちで補助する。

 ……これは命令じゃない。“選択”としてやるから」


「ありがとう……」


 ログモニターには、断続的な波形。

 その中に、異常なパターンが浮かび始めた。


【ログ状態:断続的ノイズ/構造不安定】

【記録傾向:過去ログとの干渉/重複干渉】

【警告:記録錯乱(Overlap Echo)発生】


「……これ、ただのノイズじゃない」


 ミカが画面を指差す。


「過去に記録された“声”が、今のログに干渉してる」


 テンヨウが小さく息を呑む。


「まるで……過去の“消された記録”が、今、蘇ろうとしてるみたいだ」


 モニターには、聞き覚えのある断片が映った。


『……ぼく、は……ここに、いた……』

『……きみ、に……わすれられたくなかった……』


「これ……」


 俺は手帳を開いた。


 たとえ公式記録者ではなくなっても――

 俺は、そこにいた事実を、残したかった。


 ***


 夜。

 ナイ課には、静かな空気が流れていた。


 テンヨウが俺の隣に座る。


「晴真くん。

 記録ってさ、“誰の許可”がいるものなのかな」


「……」


「たとえ公式に認められなくても、

 君が“見た”こと、“聞いた”こと、“覚えてる”こと――

 それは、君だけの記録だよ」


 俺はページを開く。


 公式記録ではない。

 でも、確かにここに、“彼”の声がある。


【非公式記録:記録対象No.005(仮称ハルノ)】

【観測ログ断片:「……こえ、とどく……?」】

【記録者:瀬野晴真(私的記録)】


 システムに認められなくても、

 組織に消されても、

 それでも。


 俺はここにいた。

 君を見ていた。

 君の声を、聞いていた。


 ページを、そっと閉じる。


 それだけは、誰にも奪わせない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ