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桜の下、君を想フ

作者: 犬飼春華

私にはいわゆる『幽霊』というモノが見える。

気づいた時には見えていて、幼いころは『生きた人』との違いが分からなかった。

そのせいで気味悪がられたり、嘘つき扱いされたり。

今は何となく違いが分かるから、私は『見えない人』の中に紛れ込んでいる。


そもそも『幽霊』は言葉を発さない。


よく心霊番組で『幽霊が話す』というが、それは嘘。

彼らは言葉を持たない。

そしてほとんどの幽霊は『影』を持たない。

その違いが『生きた人』と区別する方法だ。


「……はあ」


満開の桜の下。

普通なら誰かがビニールシートを敷いて、花見をしているだろう。

しかしここには誰もいない。

さすがの『見えない人』にも感じるところがあるのだろう。

そこには1人の『幽霊』がいる。


『どうした?』

「いや、今日も絶賛美しいなと思って」

『私に美しいは似合わない』


喋る幽霊。

今まで遭遇した『幽霊』の中で、初めて声を発したモノ。

そしてこの人は『死んだ時の記憶』を覚えている。

服装は大正時代のものとほぼ一致。

本人も『大正生まれ』と言っているので、間違いない。

ただ色素が薄いので、異国とのハーフかも知れないと思っている。


「本当に美しいよ。今の時代に生きていたら、絶対モデルかアイドルになってる」

『それは楽しいのか?』

「どうだろ? 有名にはなれるよ」


私が彼と話すようになったのは偶然。

たまたま彼と目が合ったので、反射的に顔を背けた。

すると彼が『私が見えているのか?』と喋ったのだ。

今まで幽霊は話せないと思っていたからビックリ。

そして興味が湧いて、今に至る。


彼は名前は憶えていなかった。


見た目は金髪に近い茶髪で蒼い瞳。

本人の記憶によると、母親が金髪碧眼で父親は黒髪黒目。

恐らく大正時代の国際結婚だろう。


『……華に会いたい』

「それは恋人?」

『ああ。私の婚約者だ』


彼は家族のことは忘れても、恋人のことは忘れていない。

名前は(はな)さん。

2歳年下で、彼が結核で亡くならなければ結婚していたという。

この桜が華さんとの逢瀬の場所だったらしい。

だから憑りついて、華さんに会えるのを待っている。


本当なら成仏を願うのが正しい。


でも私は彼に恋をしてしまった。

だから少しでも長くいてくれるよう、毎日会話をしているのだ。

私に気持ちが向いてくれるかも知れないという、淡い期待もある。


『……華……』

「幽霊のままじゃ、会えないよ? いっそのこと幽霊の身分で新しい恋人を探したら?」


何度目かの説得。

しかし彼は首を縦に振らない。

ずっと1人を想い続けている。

私は華さんが羨ましいと思った。


初めてのタイプの『幽霊』に出会ってから、数か月。


桜は散り、青々とした葉が茂っている。

それでも彼の時は止まったまま、華さんを探し続けていた。

今日も私は彼に会うべく、例の桜へと足を運ぶ。


それはいつもの日になるはずだった。


桜の下には、彼がいた。

しかしいつもの悲壮に満ちた表情はなく、どこか生き生きとしている。

胸騒ぎがした。


「こんにちは」

『……華が迎えに来た』


私に見向きもせず、空を見つめる彼。

私は成仏した『幽霊』は見えない。

彼の視線の先には、きっと成仏した華さんがいるのだろう。

私は彼の腕を掴もうとする。

しかし私の手は捕まえられない。


「だめ、行かないで」

『ああ、華。やっと会えた……』


半泣きな私を、彼は見ない。

ずっと空を見上げたまま、うっとりとしているのだ。

――彼が逝ってしまう。

それは私と彼が『違う存在』という証拠。

彼の朧気な見た目がさらに霞んでいく。

空気に溶けるように透けてきている。


これは『成仏』のサイン。


過去に何度か見たことのある光景。

私は周りの人を気にせず叫ぶ。

しかし彼は私を見ない。


――もう、ダメなのか。


彼が手を伸ばす。

体がどんどん透けていく。

私は零れる涙を拭うと、空を見上げた。


「――二度と、彼を離さないで。お幸せに」


声が、聞こえた気がした。

それは優しい鈴のような、綺麗な音だった。


『華』


それが最期の言葉。

彼は陽炎のように揺らいで消えた。

そして完全に消える気配。


ああ、彼は成仏したのか。


きっと華さんを待ち続けるから、華さんが迎えに来たのだろう。

でも私だって彼が好きだった。

『幽霊』じゃなかったら、と、何度も思った。

でも彼の生きた時代に、私はいない。

私にできるのは、彼の幸せを願うこと。

空に溶けた彼の残像を見つめたまま、私は一筋の涙を零した。


「愛して、います」


その言葉に応える人はいない。

それ以降、私が『幽霊』を見ることはなくなった。

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