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5.冒険者登録と装備品調達

 数時間後。

 あたしは城郭に囲まれた活気ある街『リュイティナ』の門を潜っていた。返り血をここに来る途中の川で拭ったが、隠しきれない殺気が漏れていたのかもしれない。

 門番の男たちが、あたしの姿を見て顔を強張らせていた。

 目指すのは門番の男たちに教えてもらった、街の中心にあるという冒険者ギルド。酒の匂いと、荒事師たちの熱気が混じり合う大扉を押し開ける。

 視線が一斉にあたしに突き刺さった。鎧を着込んだ屈強な男たち。魔法の杖を携えた女。彼らの目に映るのは、場違いな服を着た小柄で魔力ゼロの地味な娘だろう。

 あたしはそんな視線を送ってくる人間や獣人たちに対して目もくれず、受付のカウンターへと真っ直ぐに進んだ。


「冒険者の登録をお願いします。あとこれ。換金してください」


 あたしは布に包んだドラゴンの巨大な牙を、ドスンと音を立ててカウンターの上に置いた。ギルドの受付に置かれた巨大なドラゴンの牙に、周囲の喧騒が、水を打ったように静まり返った。


 カウンターの向こう側に座っていた若い女性の係員が、眼鏡を指で押し上げながらその遺物を凝視している。


「あ、あの。お客様……これって……」

「森で襲ってきたトカゲの牙ですよ。これ、お金になるんでしょう?」


 あたしは努めて淡々と、さも道端の石でも拾ってきたかのような口調で言った。受付嬢の顔がみるみるうちに青ざめていく。


「ち、茶色の鱗……この質感と魔力の残滓……。まさか、王都近郊を騒がせている『地響きの暴君』の個体ですか!? 騎士団が総出でかかっても手出しできなかったはずの……!」


 周囲の冒険者たちが、ざわめきを通り越して怒号に近い声を上げ始めた。

「嘘だろ」

「あんな小娘が」

「どこかで拾ってきたんじゃねえか」

 ざわめきとともに刺さるような視線を背中に感じながらも、あたしは眉一つ動かさないで話を進めた。


「素材の鑑定と、冒険者の登録。同時に進めてほしいんです」

「は、はい! かしこまりました! ではまず、こちらの魔力鑑定用の水晶に手をかざしてください。基礎能力と魔力適性を測定します」


 そう言われながら差し出されたのは、透き通った巨大な水晶玉だった。あたしは内心の動揺を隠し、その冷たい表面に掌を当てた。

 ドクンと一瞬心臓が跳ねる。水晶が目も眩むような黄金色の光を放ち、ギルド内を照らし出したからだ。

 だが、その光は一瞬で霧散し、水晶の中にぼんやりとした文字が浮かび上がる。


 【魔力保有量:0】

 【属性:なし】


「……え?」


 受付嬢が、今度は信じられないものを見たという顔で固まった。


「魔力、ゼロ……? そ、そんなはずは……。あれだけの光を放っておきながら、一滴の魔力も検出されないなんて。水晶の故障でしょうか」


 周囲からも失笑が漏れる。


「なーんだ、やっぱりハッタリだ」

「魔力なしの女か」


 あたしは自分の掌を見つめながら、もうこの状況を受け入れた頭で淡々と進めた。


「あたしの故郷じゃ魔力なんて誰も持ってないんですよ。珍しいことじゃないんです」


 あたしは肩をすくめ、迷いのない瞳で受付嬢を見つめ返した。


「それよりもう結果は出たんですよね? 魔力がなかったら冒険者登録はできないんですか?」


「い、いえ! そんなことはございません! ただ、あまりの例のなさに戸惑ってしまい……」


 受付嬢は慌てて書類にペンを走らせた。

 魔力がゼロ。それは、この世界においては「無能」の証。だったら格闘家として、この世界でトップまでのし上がってやる。


「登録完了です。……ようこそ、冒険者ギルドへ」


 手渡された銅板のプレートをあたしは強く握りしめた。もう不平等だと嘆く必要はない。

 このプレートが、あたしの新しい人生への入場券だ。



 ◇



 ギルドの受付で提示された換金額は、あたしの想像を遥かに超えていた。

 金貨が詰まった革袋の重みは、これまでの人生で味わったことのない現実味を持って腰にぶら下がっている。


「さってと。冒険者になるんだったらこんな薄着じゃいけないから……まずは形からよね」


 あたしはギルドを後にすると、教えられた通りに街の一等地に店を構える武具屋へと足を向けた。

 道すがら、街のショーウィンドウに映る自分の姿を見る。城から放り出された時のままの破れた現代服に、あの泥まみれのボロボロの靴。

 こんな格好で歩いていれば、また城から出たばかりの時みたいに路地裏の連中に目をつけられかねない。


「いらっしゃい。……ほう、随分と景気の良さそうな足取りだな」


 店内に一歩踏み込むと、焦げた炭と油の匂いが鼻を突いた。

 奥から現れたのは白髪混じりの短髪に、長年鉄を叩き続けてきたことが一目でわかる岩のような腕をした人間の男だ。あたしのボロ布のような服を一瞥しながらも、その職人らしい鋭い目はあたしの立ち姿から視線を外さなかった。


「動ける服と、靴を探してるんです。派手な装飾はいらないので……とにかく丈夫で、あたしの動きを邪魔しないものを下さい」

「ふむ、お前さんは素人じゃねえな。身のこなしでわかる。……そこの棚だ。冒険者が最初に揃える軽装の革鎧と、山岳踏破用のブーツがある。試してみな」


 あたしはまず、最も重要な靴から手に取った。

 王子から投げつけられた例のゴミを脱ぎ捨て、ゴミ箱へと放り込む。店主が勧めてきた一足に足を通し、靴紐を限界まで締め上げた。


(うん、いい感じね)


 牛革の硬さと内側の柔らかさが絶妙だ。あたしは数回その場でシャドーを繰り出した。シュッ、シュッと鋭い風切り音が店内に響く。


「いい靴ですねこれ。じゃあこれいただきます」

「おう、気に入ったなら何よりだ。次はそっちの鎧だ。魔物の皮をなめして魔力処理を施した業物だぜ。着てみな」


 あたしは頷き、しなやかなライダース風の軽装鎧を手に取った。腕を通し、自分の身体に密着させようとした……のだが。


 ――バチィィィィィィッ!!


 と、鼓膜を震わせるほどの激しい破裂音が店内に響き渡った。

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