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乙女ゲーの悪役令嬢に転生したのでフラグ管理で生き残ります。

 令和5年11月10日に事件は起こった。


 新型ゲーム機薄型PSSの発売に合わせて発売された乙女ゲーの『リルティア王国物語R』。


 この乙女ゲーはわたしが高校の頃大好きだったゲームの『リルティア王国物語』を最新技術を用いて復刻させたリメイクで、携帯ゲーム機のスティックやボタンが潰れるほどやり込んだゲームなんだ。


 リルティアの重鎮の後継者となる令息令嬢たちが国の最高学府である水晶学園の学園生活の中で繰り広げる恋と青春のストーリーで、貧乏下級貴族の令嬢である主人公『マリエル・オービタル』が自身の持つ才能と人柄に引き寄せられた生徒たちと繰り広げる恋と青春の物語に胸ときめいたものよ。


 勉強そっちのけでやり込んでたからわたしのリアルな高校生活はしょっぱかったけど、全ルートの分岐フラグを暗記するほどほどやり込んでたから、10年ぶりのリメイク発売と聞いた瞬間速攻で店舗特典のドラマCD付特装版を予約してゲーム機本体まで買い込んだってわけ。


 4Kフルポリゴン化に新ルートがいくつか追加されるって聞いてリルティマニアのわたしが買わない訳が無いでしょ!


 で、ゲームの特装版を買って帰る途中に浮かれてたわたしは駅の階段を踏み外してあの世に旅立ったってわけなのよ。


 そりゃないよ……。


 このゲームをやり込むために仕事を頑張って、1週間の計画年休を取って会社を休んで新ルートを攻略する気満々だったのにパッケの中の匂いも嗅がずにあの世行きなんてあり得ないよ。


 今すぐ生き返らせて!


 お願いだから生き返らせてよ!


 せめてゲームが終わるまででいいから!


 今すぐに!


 薄れゆく意識の中、わたしの悲痛な心からの叫びが届いたのか普段の行いが良かったのか知らないけれど、わたしは生き返った。


 *


「いたたたたた」


 階段から落ちて気を失ったわたしが目を覚ましたのは青空の下だった。


 あれ?


 おかしいな。


 さっきまで駅の構内に居たのになんで青空の下?


 階段を盛大に転げたとこをスマホで撮られて面白映像として動画サイトにアップロードされないか心配しつつ起き上がるけど、今心配しなくちゃならない事はそんな事じゃない。


 転んで投げ出したドラマCDが壊れていないか……。


 PSSとリルティアは壊れていても買い直せばいいけど、店舗特典のドラマCDにヒビが入っていたらもう手に入れることが出来なくて泣くどころじゃすまない。


 辺りを見回してみてもリルティアの特典ドラマCDを探しても影も形も無い。


 嘘でしょ?


 どこに消えたの?


 転んだ勢いでどこかに吹っ飛んで行っちゃったの?


 わたしが血相を変えてリルティアを探していると、背後から同じく血相を変えた声が掛かった。


「お、お嬢様! だ、大丈夫ですか?」


「お嬢様?」


 振り返ると声の主は銀髪長髪で整った顔をしている同い年ぐらいのメイドだった。


 わたしはその顔を見て驚きを隠せない。


 なぜなら、乙女ゲーム『リルティア王国物語』の中に出てきて、主人公のわたしに何度も嫌がらせをしてくる悪役メイドの『アイ』だったからだ。


「アイ? なんであなたがここに?」


 考えなくても解る。


 ここはリルティアの世界。


 リルティマニアだったわたしは攻略対象の趣味から好きなことはもちろんの事、サブキャラからイベントキャラ果ては宿屋の受付のモブキャラまで全キャラ把握済みだ。


 わたしは駅の階段を転げた拍子でゲームの中の世界に迷い込んでしまったらしい。


 アイはきっとまた嫌がらせをしてくるんだろう。


 アイとの最初の出会いだから……水晶学園に入学して一年目のイベント。


 水晶学園の散歩道でつまづいて転んだわたしにインクをかけて制服をダメにするイベントか?


 制服をダメにされると、その後に学園のオリエンテーションに参加できなくなる上に、制服の作り直しの費用を稼ぐためにアルバイトをしないといけなくなって面倒なのよね。


 そうはさせるか!


 わたしは飛び退きアイとの距離を取るがアイも負けずにわたしを追いかけ続ける。


「お嬢様!」


 お嬢様ってなによ……わたしが農耕しか地場産業のない貧乏貴族の生まれだから、今まで『平民貴族』と散々(ののし)って来たのに……。


 わたしは必死に逃げるけど、アイはそれ以上に死に物狂いの形相でわたしを追ってくる。


 そんなに必死になるって事は、わたしの制服にインクを掛けないと首謀者の主人にとんでもない罰を与えられるんだろうか?


 それならそれで、わたしにも手がある。


 ここは人通りのある水晶学園の散歩道(プロムナード)なんだから、大声で首謀者の名前を叫んで目撃者を作ってやる。


「あんたの主人を知ってるわ! アイビスでしょ!」


 でも、アイは平然と答えた。


「そうですよ」


 主人の名前をいい当てられても全然狼狽えてない!


 おまけに普段はカップルで人通りの多いメインプロムナードなのに今日に限って人通りが全く無いのよ?


 ならば、さらに大きな声で目撃者を集めるのみ。


 わたしは精一杯の大声を出して目撃者を呼び寄せる。


「男女平等、身分平等の水晶学園でそんな凶行は許されません! 『アイビス・コールディア』のメイド『アイ』!」


 わたしの魂からの叫びを目の当たりにしてもアイは狼狽えない。


 むしろ、頭の弱い子を見る様な目でわたしを見つめてくる。


「頭、大丈夫ですか?」


 そう言いつつ、わたしの腕を握りしめた。


 うげっ!


 凄い強い力で腕を握りしめられて1ミリも動かない。


 もう逃げられやしない。


 このまま制服にインクを掛けられてバイトルートに突入か……学園のオリエンテーションに参加したかったな。


 あのオリエンテーションに参加しないと、友だちを作りそびれて夏休みまで攻略対象と出会う切っ掛けがないんだよな……。


 そんなことを考えているとアイはわたしに治療魔法を使った。


 アイは敵じゃないの?


 正直、驚きを隠せないわたし。


 こんなルートは見たことない。


 もしかしてリメイク版で追加された新ルートなの?


 でも新ルートって物語後半の個別ルートに入ってからの話じゃないの?


「なんで悪役令嬢のメイドのあんたが、わたしを治療するのよ……」


 アイは心配そうな顔でわたしを見続ける。


「アイがお嬢様を治療するのは当然です。さっきも水晶学園とおっしゃってましたし、階段から転げて記憶が混濁こんだくしているようですね」


 アイはわたしを治療しつつ瞳孔どうこうを覗きながら聞いてくる。


「お嬢様、わたしが誰かわかりますか?」


「アイでしょ?」


「そうですね」


 アイは更に質問を続ける。


「では、ここがどこかわかりますか?」


「水晶学園よね?」


「水晶学園はまだ入学さえしてないですよ」


「えっ?」


 確かに辺りを見回すと、水晶学園のメインプロムナードとはどこかが違うというか、ここの方がずっと豪華だ。


 アイはこの場所を教えてくれた。


「ここはお嬢様のお屋敷です」


 いやいや、主人公のマリエルの家は学園の下町の宿屋に毛が生えたぐらいの家で、こんな豪華な庭のある家じゃなかった筈だけど……。


 となると、わたしはマリエルじゃない?


 アイがわたしの事をお嬢様と呼んでいるんだから自ずと答えはでる。


 わたしはアイに恐る恐る聞いてみた。


「わたしって、もしかして『アイビス・コールディア』なの?」


「そうです、お嬢様! そしてアイはアイビス様の専属メイドです」


 アイはわたしがアイビスと認識したことでホッとした表情をする。


「転んだ拍子にお嬢様に別の人格が乗り移ったみたいでアイは心配しました」


 アイは自分の事が一時的にせよ大好きな主人わたしから忘れられたことを酷く悲しんだ。


 リルティアの中では主人公のマリエルに嫌がらせばかりしてくる嫌味なアイがこんなにも素直でご主人様ラブな一途な性格とは知らなかった。


 アイ可愛い!


 アイビスになれたことで今まで知らなかったアイの一面を見れたことは嬉しかったけど、大きな問題がある。


 わたしは悪役令嬢の『アイビス・コールディア』になってしまったことだ。


 ぶっちゃけ、このアイビス・コールディアは主人公マリエルと攻略対象の好感度を上げる噛ませ犬でしかない。


 どの攻略対象のルートに進んでも、攻略対象に退治されだけの存在で永遠の噛ませ犬でしかない。


 大商人の息子に国外追放されるのならまだいい方で、王子や王子の弟、大司教の候補、他国から留学してきている王子、錬金術師の不評を買い処刑される未来しか待っていない。


 そんな未来だけは嫌!


 わたしはこのゲームの知識を生かして全力でバットエンドを回避することにしたのだった。

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