継ぐもの
やっと訪れたひと時の休息。
目の前に並べられた久しく食べてないであろう、しっかりと味付けされた食の数々。視覚嗅覚聴覚を通し、ヤクモの食欲を駆り立てるそれをユックリと箸でつかみ、しっかりと口の中へ運ぶ。
一噛みすれば、肉汁が溢れ出し振りかけられていた香味と合わさりより一層の深みを出す。これが肉。これが焼き魚。これがスープ。なんて美味いんだ。なんて犯罪的なんだ。食べても食べても口の動きが止まらない。それどころか、もっとよこせと本能が駆り立てる。
そんなヤクモの姿を見たリュカは、頬杖を付きながら言った。
「おいおい。そんな急いで食ったら喉に詰まって死ぬぜ?」
「……ばっべヴまい」
「せめて呑み込んでから話せよ……。そうやあ、北方の島国にゃあ、魚をサシミ? ってぇのに加工して食べる風習があるって聞いたなぁ」
「サシミ?それはどんな食べ物なんだ?」
「そこまでは分からないなあ。ッと、まあこれからの話をしようか」
ヤクモは水を口に含み飲み込むと頷いた。
「改めて聞こうか。少年、君はどうしたい?」
「俺は……人生をやりなおしたい。そして……」
「そして?」
「リュカと話してて改めて思った事がある」
「ふむ」
「俺は知りたい。何故、親父が莫大な借金を抱えたのか……。何をしようとしていたのか。遺書の真意はなんだったのか。何故──何故、自殺をしなくてはならなかったのか」
「もし、だ。少年。父の死が実は自殺じゃなく他殺だったら?誰ものかがそう仕組み、誰かの手によって生涯の幕を閉じたとしたら、少年はどうする?」
不幸に落ちたのではなく不幸に陥れられたのだとしたら。たった一人の家族を。今までの苦労も悲しみも全て。
「…………」
「義を見て為さざるは勇無きなり」
「…………ッ!?」
「その反応、やっぱりそうか」
その言葉は、生前に父が言い聞かせてきた言葉だ。弱きを守る事こそが人が人である為の大切なこと。勇者とは武力や魔力が長けているものではない。
我が身をかえりみず、行動し。見返りを求めず他者に尽くせる。人のせいにせず責任を持ち──
「…………選択する事。リュカ、君はまさか」
「オレは──オレたちは、カルマ。いや、アルクル──君の父の意志を継ぐものだ」