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レアスキル

「分かった。どうせ俺には後戻り出来る道なんかのこっちゃいない。これが神の導きなら従うまでだ」


 そう言って銀貨を取ろうとしたもんなら、ヒョイと上手く躱される。


「ちょ! なんだよ!」

「神の導き? 違う。これは少年の選択(・・)だ。逃げ道を作っちゃ駄目だ。逃げ道はいざと言う時の甘えになる。弱さになる。今から進む道に弱さは要らない。強くあれ、少年ッ」

「分かった。これは俺の選択」

「よく言った。えらいぞー」と、少女はごわごわと頭を少し強引に撫で付ける。


 この時の感情は非常に複雑なものだった。何年も人に認められることも無かった。温もりだって。ただそれでも、強引に言葉を付けるなら──


「恥ずかしいから手を離してくれ」


 動揺を悟られないように、冷静に務めてそういった。火照る頬を見られぬように若干俯きながら。


「おっと失礼。じゃあ行こうか」

「まえ……」

「え?」

「名前を教えてくれないか?」

「ああ、私の名前? 私はリュカ。リュカ=マクベス」

「リュカ、か。よろしく」

「ういういっ」


 こうして二人はもう一度ギルドに向かった。不思議だったのは、表通りに出た途端、リュカが備え付けのフードを深く被った事。まるで何かから身を潜めるかのように。その時頭をよぎったのは、ザザのあの言葉だった。


「今日はやたら騎士が多い」


 まさか彼女がその原因なのではないか。とは言え、リュカ一人に騎士が大勢動くとも思えない。思い違いであり思い込みに違いないと、ヤクモは思い込む事にした──のは、数時間前の話だ。


「ひゃははは! はぁ、本当に面白いな少年」


 その悩みを消し飛ばすような笑い声が食事処で放たれた。まるで小悪党だ。


「そんなに笑わなくてもいいじゃないか」

「だってよぉ、これから冒険者として生きていく人間がよぉー? 攻撃スキルも魔法スキルも持たないなんてよぉ?笑うしかないだろ!」


 そう。そうなのだ。ヤクモは確かにギルドへ向かった。堂々と受付に向かい、躊躇いもなく銀貨をテーブルに置いてこう言ったのだ。


「登録、お願いします」と。


「で、だ。少年、お前さんが開花させた──つまりは、潜在的に秘めてたスキルはなんて名前だったっけか?」


 目尻から涙を流し、腹を抱え引き笑いを苦しそうにするリュカに若干の苛立ちを覚えたがらも、ムキになるなと言い聞かせ口を開く。


劣化無効(クレーロス)

「クレーロス。オレはかれこれ長い年月生きてきたが、聞いたこともない!はぁ実に愉快だ」


 長い年月って。まるでエルフのような発言をするじゃんかなど、内心で突っ込みを入れながらも──


「でも受付の人、曰くレアスキルだって。効果、相乗効果も分からないって」

「それってつまり、使い道が未だ分からないポンコツってことじゃねぇかよ、おい!ハハハッ」

「そこまで笑うか?」


 溜息混じりに苦言を呈すれば、涙を拭きながらリュカは悪びれた様子ひとつ見せずに口を開いた。


「わりぃわりぃ。ただ俺の予想がまさかこんな形で外れるとは思ってなくてさぁ?」

「そらありがとうございます」

「まあそう怒んなって! ほらあれだ! 未知なるスキルって事は夢いっぱい希望いっぱいだ! これから何があるか分からねぇじゃん?」

「無理やりフォローするなよ……。そもそも、ここまで落胆させたのはリュカ、お前のせいだぞ……」

「分かった分かった」


 何を分かったのだろうか。


「もうクソ使えねぇスキルでも笑わないからさ! ほら、食べようぜ!美味い飯が冷めちまう!な?!」


 何を言っても駄目な気がしてならない。ヤクモは短いため息を吐き捨ててから頷いた。


「ああ」

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