銀貨の価値
「つー事でだ、少年」
「少年……って」
ヤクモの歳は今年で十七になる。間違いなく、目の前で何故だか勝ち誇った様な表情を浮かべる少女よりかは、年上のはずだ。
確かに、青く長い髪の毛先が掛かる胸は、幼子特有の慎ましさはない。大きくもなく小さくもないそれは、動くのに苦労はしないが、しかし、女性の魅力を発揮するには今のヤクモにとって十分過ぎていた。短パンから見せる足は程よい肉付きで、スラリと長い。ぴっちりとしたノースリーブから見得る体のラインも大人びてるし、匂いだって、柑橘系の爽やかでいて優──
「ちょ! 近っ!」
気が付けば少女が目の鼻の先に。女性と久しく話してないヤクモにとってそれはあまりにも刺激が強すぎた。一瞬にして悩みが消し飛ぶくらいには。
「んんん? なんだ少年。まさかオレに照れてるのか?」
まるでからかうように八重歯を覗かせ、少女はニヤリと笑みを浮かべた。
「別に照れてなんか」
「はははっ。可愛いヤツめ」
──不思議な人だ。
「で、少年はこんな所で何を思い悩んでるんだよ?神になんざ、縋るまでによ?」
「それは……」
きっとヤクモは誰かに話したかったのだろう。そう、話を聞いてくれるならきっと誰でも。それがたまたま彼女だったってだけだ。他意は無い。
「なるほどな。親父さんが作った借金のカタにねぇ。少年、一つ聞いていいかい?」
「いいよ」
「親父さんの事業ってなんだったか分かったりするのか?」
「いや……全く分からない」と、言うのも、父は寡黙な人だった。仕事には真面目で、皆からは口数がないのに慕われていた。ヤクモに分かるのは精々その程度。
「ふうん。なら少年の名前は?」
「俺はヤクモ=アルクル」
「──少年」
「はい?」
「オレと一緒にこないか?」
「何を急に」
「金がいるんだろ? 働いた分、オレはしっかり支払うぜ?それに、借金取りの大元はきっと」
「きっと……?」
彼女は何かを知っているのだろうか。父の事業の事や、なぜ借金をしてしまったのか。
「わっかんねぇや!」
「な!? は!?」
「はははっ。で、どーすんだ? 来るのか来ないのか?もし来るんだったら」
おもむろにポケットに手を入れて、何かを引っ張り出す。それはヤクモが、今のヤクモが喉から手が出る程に欲しかったものだった。
そして少女は全てを見透かしたように言った。
「エミル銀貨一枚をやるぜ?」
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