人はどうも冷たい
黄昏が闇に染る一歩手前。涼やかな風が秋の訪れを囁く中で、一人の青年は玄関の前で立つ、黒ずくめの男達に頭を下げていた。
高圧的な態度を取り、頭を下げる青年を見下しながら足を踏み鳴らす彼等は借金取りだ。父が生前残した借金を今も尚、こうやって取り立てに来る。
「払えませんじゃ困るんだよなぁ!? 期日はとっくに過ぎてんだよ!!」
語気を荒らげる男性は今にも飛び掛りそうな雰囲気を漂わせる。しかし、そんな姿を見ても通りすぎる人々は青年に冷ややかな視線を送るのみだった。
「でもそれは親父が」
「はあ?親父はおっちんじまったんだろ? んなら払うのは息子の役割だよなぁ!?」
そう。親父は三年前に自殺をした。遺書に「ごめん」だけを書き殴ったように遺して──
「全く。他の事業なんか手を出さず、刀鍛冶だけやっとけば良かったってぇのによ」
「…………」
「とりあえず支払えないってーんじゃ……お前ら」
「はいっ」
目の前の男が部屋に視線を送ると、ほか三人がズカズカと作業場の中へ入っていく。
「ちょ!? 何をする気ですか?クザさん!」
「何って、そりゃあ差し押さえだろーが」
「差し押さえ!?」
「金目になりそうなのは馬車に詰め込め」
「この刀なんかは」
「んなボロボロのナマクラなんか一銭の足しにもなりゃしねぇよ。そこら辺に捨てておけ」
「ちょっと! 道具だけは勘弁してくださいよ!!」
クザの両腕を掴めば、下卑た者を見る目で青年を見て舌打ちをする。酷く悪意の籠った舌打ちが青年に懇願の無意味さを叩き込んだ。
「よし、あらかた詰め込んだな?」
「はい」
「じゃあこれを売り飛ばして足りない分は三日後にまた取りに来る。用意できなかったら次は家を譲ってもらう事になるからな?しっかりと準備しとけよ」
クザ達が立ち去り、一人唖然と立つ青年は工場を見てへたり込む。
「どうしろってんだよ……」
道具を買うお金もなにもない。このままだと住む家もなくなってしまう。唯一残された父の形見である刀を見ながら、青年は苦渋の決断をした。
それは──体一つで稼げる職業、冒険者。