106・リファリオンを救う方法
夜空に浮かぶ満天の星を思い出しながら、私はそう声を漏らした。
「そうです! あそこからなら、光魔法を全体まで行き届かせ──邪竜とシャドウを同時に倒すことが出来るかもしれません」
「だが、これはフィーネ頼みの戦法となってくる。無論、あの丘に行くまでに邪竜やシャドウの妨害が入るだろう。しかし……君の道は、俺が必ず切り開く。だからフィーネ……俺と共に戦ってくれるか?」
そう言って、レオンは私に手を差し出す。
私は迷わず、彼の手を取った。
「はい……! もちろんです。私にみなさんを救う助けをさせてください」
今までの私だったら怖くて、一歩を踏み出すことが出来なかったかもしれない。
しかし、今の私は少々欲張りなのだ。
邪竜とシャドウを同時に倒し──リファリオンを救う。
そしてみんなと笑い合って、エマさんやゴードンさんが待つ大切な居場所に帰る。
全部全部叶えてみせるために、私は前を向く。
「ありがとう」
ほっと安心したように、表情を柔らかくするレオン。
「アレクにも付いてきたほしいが……まだ街中では、シャドウに襲われている者もいる。アレクは自警団に加勢し、街中に残っている人の救護にあたってくれるか? お前がそうしてくれると、俺も安心してフィーネとあの丘に向かえる」
「承知しました。レオン様がいない間、私は自分の職務を全うしてみせましょう」
仰々しく、アレクさんは一礼する。
私たちが移動している間、街中の状況が気になるところだったけど……アレクさんに任せておけば大丈夫だ。彼の強さは、私も分かっているからね。
「行くぞ、フィーネ。嫉妬に狂う竜を、我々の手で鎮めてやろう」
「はい……!」
レオンの手を強く握り返す。
大規模な光魔法の発動など──本当に可能か分からない。
だけどレオンと一緒なら、もうなにも怖くなかった。
私たちは、あの丘を目指して走る。
先ほどから走りっぱなしで、足が棒になりそうだ。魔力も回復しきっていなくて、頭がクラクラする。
しかし、立ち止まるわけにはいかない。
私たちの両肩には、リファリオンの──そして国の未来がかかっていて、なにより隣には愛する人がいる。
こんなところで、弱音を吐くわけにはいかなかった。
「──俺には、邪竜が悲しみで泣いているように聞こえるんだ」
不意に。
私の手を引きながら、レオンがそう口にする。
「泣いて?」
「ああ」
頷くレオン。
こうして走っている間にも、邪竜の咆哮が街中に響き渡っている。それは邪竜の存在を誇示し、恐怖の象徴となった。
とてもじゃないが、悲しんでいるようには──とても思えなかった。
「邪竜の狂気は、本当に、嫉妬が原因だろうか」
レオンが空を見上げながら、呟く。
「バーバラやマルスランは、嫉妬で狂ったから、邪竜は人の記憶を喰っているという」
「そして今、この街を破壊しようとしていますね」
「そうだ。だが……仮にも竜神と呼ばれている存在が、そのような負の感情に囚われるだろうか? 俺もフィーネのことを忘れ、愛を失ってしまったから分かる。邪竜セリオンは──」
レオンがそう言葉を続けようとした時、私たちの行く手を阻むように人型の影が現れた。
シャドウだ。
数は六体。素通りさせてくれそうにない。
「ちっ……もう少しで、あの丘に辿り着けそうだというのに」
忌々しそうに表情を歪めレオンが舌打ちし、剣を抜く。
「レオン、私も戦います。シャドウには、私の光魔法が有効なんでしょう? 怖いけど……あなた一人に、戦わせるわけにはいきません」
ただでさえ、レオンは一命こそ取り留めたものの、まだまだ予断を許さない状況だ。
本来なら、しばらく絶対安静。戦うなんて、もってのほか。
だけどこうして動けているのは、レオンの精神力の強さといったところか。
「いや……フィーネは力を温存してくれ。君には、大仕事が待っているんだ。街を一望出来る丘に辿り着く前に、魔力が枯渇してしまったとなったら話にならないだろう?」
しかし一歩前に踏み出そうとする私を、レオンが制した。
「……良い度胸だ。一度俺から記憶を喰らい、街を壊そうとするだけでは飽き足らないか」
両手で強く、剣を握るレオン。
「だが……フィーネに危害を加えようとする者は、誰であろうと許さない。剣の錆となれ──っ!」
レオンがシャドウに斬りかかっていく。
彼の見事な手前で、シャドウは両断され、消滅する。
だが──無駄だ。シャドウは邪竜がいる限り、何体でも生み出される。
次から次へとレオンはシャドウに斬りかかっていくが、その度にシャドウは数を増やしていく。
とはいえ、活路は生まれた。
「フィーネ! 隙が出来た。行くぞ!」
「は、はい!」
息を荒げながらも、私たちは再び走り始める。




