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戦場の聖女〜妹の代わりに公爵騎士に嫁ぐことになりましたが、今は幸せです〜【書籍化】  作者: 鬱沢色素


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105・膝枕

 …………。


 頭に柔らかい感触。

 ずっと包まれていたいような──。


 私はその快感に抗い、目を開けた。


「ようやく目を覚ましたか」


 すると、真っ先に目に飛び込んできたのは、微笑みを浮かべるレオンの姿が。


「レ、レオン!?」


 思わず、声を上げてしまう。


 徐々に状況が分かってくる。

 場所は自警団の詰め所から変わっていない。どうやら私は横になっているらしい。


 そして、どうやらレオンの膝枕をしてもらって……。


「すみません!」


 慌てて上半身を起こす。

 そんな私の様子がおかしかったのか、レオンが苦笑した。


「私、眠っていたんですか?」

「ああ。君は俺が目を覚ました瞬間、安心したのか、ぐっすり眠ってしまったんだ。気が張り詰めていたのもあるし、魔力を相当量使ってしまったからだろう。眠っていたのは、一時間くらいだろうか」


 一時間……そんなに眠っていたなんて。


「膝枕までしてもらうなんて……本当に申し訳ございませんでした」

「いや、別にいいんだ。あまりにもぐっすり眠っていたから、こちらも起こすのを躊躇ってしまった。それとも……余計なお世話だったか?」

「そ、そんなことありません! ですが、寝顔を見せてしまって……あの私の寝顔、見苦しくなかったですか?」

「見苦しい? なにを言う。とても──そ、そうだな。麗しかった。見苦しいなんて、とんでもない」


 そう言って、レオンは照れたように視線を逸らした。

 こういう彼らしい姿を見たら、くすりと笑いを零してしまう。


 しかし悠長に彼との会話を楽しんでいる場合ではない。


「い、いけません! まだ、街中には怪我人がいるはず。すぐに、みなさんの救護に戻らなくては──」


 立ち上がり他の方々の救護に向かおうとすると、レオンはそれをさっと手で制する。


「安心しろ。怪我人たちなら大丈夫だ。不安なら、周囲を見てみろ」


 レオンに促される。


 私はゆっくりと周りを眺めると──怪我人は変わらず多いものの、みんなの雰囲気はどこか安定したもの。


 治癒士の一人が、こちらに視線を向け、


「怪我人なら、アタイたちに任せな! 聖女様にあれだけ勇気を見せてもらったんだ。アタイたちも気合いも見せなきゃ、女が廃るよ!」


 と親指を突き立てた。


 それに呼応する形で、他の治癒士の方々も力強く頷く。

 どうやら私が眠っている間、詰め所にいた治癒士の方々が頑張ってくれたらしい。


「フィーネは一人でなんでも解決しようとする傾向がある。だが、忘れるな。俺を含め、君には味方がたくさんいるんだ。皆がこうして働いているのも、君が我が身を顧みず、俺を救ってくれたおかげだ」


 そう口にするレオン。

 みんなの力を感じ、私はただただ口元を押さえ、感動を噛み締めるしかなかった。


「……街の状況は、どんな感じでしょうか? 邪竜とシャドウは?」

「邪竜は変わらず、この街に顕現している。シャドウも同じだ。これ以上は兵の消耗になるため、現在は街に残っている人々を救護する者を除いては、一時休戦中だ」

「そうなんですね……街の結界も変わらずでしょうか?」

「られていない。やはり結界を破り、街の外に逃げる作戦はほぼ実行不可能だろう。出来たとしても、その間に人がたくさん死ぬ」


 人がたくさん死ぬ──。


 レオンからその事実を聞かされ、暗い気持ちになる。

 問題はなにも解決していないのだ。

 なんなら、状況が元に戻っただけ。


 俯いていると。


「そう暗い顔をするな。邪竜に抗う手段が、なにもないわけではない。これは君が目覚めるまで、俺たちが悠長にここで待っていた理由にも繋がる」

「え──?」

「ここからは私が説明しましょう」


 レオンの言ったことに疑問を覚えていると、詰め所の奥からアレクさんが現れ、私たちに歩み寄ってくる。


「フィーネ様、レオン様をお救いいただき、ありがとうございました。もっと礼を重ねたいところですが──今、その時間は許されていません。お疲れのレオン様に代わって、掻い摘んで説明させていただきます」


 そう言って、アレクさんは語り始める。


「まずシャドウについてですが、邪竜から生み出されたものだと考えられます。邪竜から魔力を補給し、実体化している形ですね」

「やっぱり……」

「そして、邪竜を倒さない限り、シャドウはいくらでも生まれてしまいます。これがいくら戦い続けても、シャドウがろくに数を減らしていない理由です」


 邪竜の力を依り代とするシャドウ。このせいで被害は街全体にまで及び、邪竜に接近することさえ至難の業という。

 今こうして話している間も、シャドウと戦い、傷ついている人々を想像すると胸が痛んだ。


「でしたら、シャドウを無視して、まずは邪竜を倒す必要があるんでしょうか? 邪竜の力を依り代としている以上、元を抑えれば、シャドウは自然と消滅するかもしれません」

「いいえ」


 しかしアレクさんは小さく息を吐き、首を横に振った。


「邪竜は傷ついても、周囲のシャドウを取り込んで、瞬時に回復していました。シャドウが残っている以上、いくら邪竜と戦っても無意味。決定的な一打になりません」

「そんな……」


 邪竜単体だけでも強いのに、シャドウによって回復する術も持っているのである。ほとんど反則的な強さである。

 邪竜の脅威に、私はさらに暗い気持ちになる。


「だが──一つだけ、ヤツらにとって決定的な一打となる方法がある」


 だけど、レオンはそんな私の暗い気持ちを払拭するように、こう口を動かす。


「フィーネ、バーバラのところで見た光景を覚えているか? 邪竜の力が漏れ、俺たちに襲いかかった時だ」

「は、はい、もちろんです。それがなにか……」

「あの時君は、俺を助けようとしてくれた。邪竜の力を振り払う術を持って──」


 邪竜の力を……振り払う術……。

 そう反芻すると、私もすぐに思い当たった。



 光魔法だ。



 あの際私は、レオンの胸に顔を埋めながら、光魔法を発動した。光魔法はレオンの剣に乗り移り、闇を斬り裂いた。


「ということは……邪竜には光魔法が有効……?」


 希望の光が生まれる。

 それに対して、レオンは「ああ」と深く頷き、


「もしかしたら邪竜の魔力は、闇魔法なのかもしれないな。だからフィーネの光魔法が効いたと考えると、辻褄が合う」


 と続けた。


「ですが、シャドウを光魔法で滅したとしても、邪竜によってまた生まれるんですよね? 邪竜に対しても同じで、すぐに回復してしまいます」

「その通りです。なので、邪竜とシャドウを()()()倒す必要がある……私とレオン様は考えました」


 そう言うアレクさん。


「とはいえ、剣や弓……もしくは生半可な魔法では、邪竜は倒せないだろう。シャドウなら倒せるがな。それは邪竜と実際対峙してみて、分かったことだ。仮にリベンジをしても、また無駄に怪我をするだけだ。今度は生きてる保証もない」

「唯一可能性があるとするなら、フィーネ様の光魔法くらいです」

「そ、そうかもしれません。ですが、邪竜とシャドウを同時に倒すことなんて可能なんでしょうか?」


 大机に広げられた、リファリオンの地図を思い出す。

 邪竜とシャドウによる被害を示す赤い点は、街全体にあった。邪竜だけならともかく、街全体にいるシャドウを同時に倒すなんてほぼ不可能だ。


「ここからは、君次第になるが……」


 少し迷った素振りを見せてから、レオンが続ける。


「街全体に光魔法をかけることは可能か?」

「やったことがないので、分かりませんが……やらなければならないのでしょう? そうでないと、人がたくさん死にます」

「そうだ」

「でしたら、たとえ不可能でも可能にしてみせます。ですが……」


 私は続けて、懸念を零す。


「せめて、街全体を見渡せる場所なら──。そんな場所でなら、街全体に光魔法を広げるイメージが湧きます」


 しかし、リファリオンは広い。

 それなのに街全体を一望出来る場所なんて、存在するのだろうか……。


「それなら心配ない」


 とレオンは断定する。


「街全体を一望出来る場所──俺とフィーネは一度、そこに立っているはずだ。竜神祭の夜会を、思い出してくれ」

「夜会……」



『竜神祭の名物、星架けの夜だ』



 夜会の最中。

 急に周囲が想像しなくなり、不安になっている私にレオンがかけてくれた言葉だ。


「執政官様の屋敷があった……あの丘なら……!」

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