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戦場の聖女〜妹の代わりに公爵騎士に嫁ぐことになりましたが、今は幸せです〜【書籍化】  作者: 鬱沢色素


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105/107

103・だって、私は、軍医ですから

 視界が戻る。


「フィーネ様!」


 まず、一番先に目に飛び込んできたのは、アレクさんの心配するような表情。


「大丈夫ですか!? 急に魂が抜けたように立ち尽くしていましたが……まさか、あなたにも異変が──」

「いいえ」


 首を横に振る。

 もう、迷いはなかった。


「ご心配おかけして、すみません。ですが、私は大丈夫です。それよりも今は、レオンを助けなければなりません」


 そう言って、私は横になっているレオンの前に立つ。


 相変わらず、彼の状況は酷い。

 生きているだけで奇跡みたいなものだ。

 実際、今もレオンは生と死の狭間を行き交い、少しでも天秤が『死』に傾いてしまえば、二度と目を開けることはない。


 だけど、()()()はレオンから一切目を逸さなかった。


「無茶だよ!」


 先ほど、私を『聖女様』と呼んでくれた治癒士の女性が、すぐさま止めにかかろうとする。


「あんたも分かるだろ? 奇跡でも起こらない限り、もう手遅れだ──ってことくらい! それにさっき、魔力切れで倒れそうになったじゃないか! 魔力が完全に枯渇してしまった魔術師や治癒士の、末路は知っているだろう? 精神が崩壊し、最悪死に至……」

「構いません!」


 私が声を大にすると、彼女は驚いたように目を見開いた。


「私の体一つで、レオンの命が救えるなら安いものです! 助けを求める人がいたら癒す──それが私に出来ることです。だって私は──軍医ですから」


 怖がらせてしまったかと反省し、にっこりと微笑みかける。


 私は再度、レオンに視線を戻してから。


「みなさん! 私に力を貸してください! なんとしてでも、レオンの命を救います! 私が指揮を取ります。必ず彼は私が助けます!」


 この場にいる全員に発破をかける。

 悲観的な未来を、振り払うように。




「血圧が下がっています! 薬を投入してください! 治癒士の方は、治癒魔法をかけ続けて!」


 場は戦場のようにごった返している。


 動ける者たちが慌ただしく詰め所の中を動き回り、レオンを助けようとしていた。

 アレクさんもそんな中の一員でありながらも、ぐっと目の力を強いものとし、レオンの無事を祈っている。


「安心してください! 私はかつて聖女と呼ばれていたコリンナの姉です! 彼女には元々、類まれなる治癒魔法の力がありました。だったら──今の私だって、立派な聖女のはずです!」


 自分の胸を叩く。


 魔力切れ一歩手前で、治癒魔法を使い続ける──それは至難の道だった。しかも、少しでも手元が狂えば、その瞬間にレオンの命の灯火は潰えてしまうだろう。


 呼吸が荒くなっていく。頭痛と目眩もしてきた。両腕の感覚はとっくになく、治癒士としての本能で治癒魔法を使い続けている。


 少しのミスも許されない? だったら、ミスをしなければいいだけだ!


 精神が崩壊し、最悪死に至る? 上等だ。レオンを救えるなら、私の魂などいくらでもくれてやる!


 奇跡でも起こらない限り、もう手遅れ? 裏を返せば、たった一つの奇跡で、レオンの命を助けられるということじゃないか! 願いを叶える対価にしては安すぎる!


 だが、レオンは目を開けない。こうしていることが途方なんじゃないか──と、いけない考えを、舌を思い切り噛むことによって振り払う。


「レオン、目を開けて!」


 傍にいてくれるだけでいい──。

 愛がない契約結婚に戻るだけ──。


 そんなことはもう、絶対に二度と言わない!


 私は欲しいものは全部欲しいと言うことにしたのだ。


 贅沢になった? なにが悪い! 幸せのさらに上を求めて罰が当たるなら、それは神が間違っている!


「私にもう一度、『愛してる』と言って! あんな悲しい別れ方は、絶対にごめんなんですから!」


 私の叫びにレオンは答えず、ただ瞼を固く閉じていた。

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