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邂逅2

前回から間が空いてしまいました…遅筆で申し訳ありません。

今回は少し長めです。

 ガクガクと震えながら、少年はただただ顔を真っ青にしながら立っている。ちょっとした出来心だったのだろう。今になって自分が仕出かした事の大きさに怯えている。


 そんな少年に目線を合わせ、ルルーディアは語りかける。その瞳はどこか冷たい色をしていた。


「あなたは何歳かしら?」


「と、と、10」


「そう。ではしてはいけないことと理解できますわね」


「は、はい」


 一言一言返事をするたびに少年の瞳に涙が浮かぶ。俯いたまま震えていた。


「では、あなた。もしも、わたくしが、わたくしではなかったら、わたくしがどうなっていたか、お解りになりますか?」


 ルルーディアの問に少年は顔を上げ、首を傾げる。何を問われたのか全くわからないといった様子だ。


「もしもわたくしが裕福な家の者ではなく、どこかの貴族や商家の使用人で、この袋の中のお金が主人のものでしたら、どうなるか、分かりますか?」


 少年はキョトンとしたまま返事が出来ないでいた。ルルーディアは続ける。


「主人から預かったお金を無くしてしまったら、使用人は叱責されます。言葉で責められるだけならば良いでしょう。酷く折檻されることもよくあること、解雇されることもあります。わたくしの年頃で働きに出ている者の多くは身寄りのない者たちです」


「行き過ぎた体罰の行末、住み込みの働き口を失ってしまった少女の末路、あなたでもお分かりになるでしょう?」


 少年はハッとしてルルーディアを見る。そして青い顔を一層青くした。


「そして何より、盗みを見咎めたのが、質の悪い者たちだったらどうするのです?罪人だからと理由をつけ、暴力の捌け口にされるかもしれません。連れ去られ他国に売られるかもしれません」


「あなたの事情など関係ないのです。罪を犯した、その事実だけが全てなのです」



 ルルーディアが話し終えると、騒がしかった周囲も静まり返っていた。少年はその場にへたり込む。


 ダリウにとっては、国境の町などでは当たり前のように起こっている、取り立てて珍しいことではないが、少年にとってはよほど衝撃だったのか、ぼろぼろと泣き出してしまった。


「ねぇマリュエラ、そういえば、はずれの工房のおじさま、小間使を探していたわよね?」


 ルルーディアは侍女に問い掛ける。心得たとばかりに侍女は軽く頷く。


「じゃあ、この子を案内してくれる?しっかり働いて償っていただかなくては。頑張ればお小遣いくらいは頂けるのではないかしら」


 今までの冷たい視線が嘘のように、柔らかい笑みを浮かべ少年になげかけた。


 少年はピタリと涙を止めると、頰を赤く染めブンブンと首を縦に振った。ダリウには少し面白くない光景である。


 少年は勧められるがまま、侍女に連れられていった。


 周囲はいつの間にか人がまばらになっている。護衛の騎士達の働きもあるだろうが、バツが悪くなり去った者もいるのだろう。



 ルルーディアは一言も少年の生い立ちや現状に触れなかった。罪にのみ向き合わせるためだろう。

 施しを与えることもしなかった。お金を渡せば飢えはしのげる。感謝もされるだろう。しかし、根本的な解決にはならない。飢えればまた同じことをすると理解しているのだ。



 自分の選んだ人はなんと高潔で慈悲深い女性なのだろうか。ダリウは恍惚とした。にっこりと笑顔を湛えルルーディアに語りかける。


「お見事でございました。お嬢様」


「わたくしはなにも。偶然働き口を探している方に当てがあっただけですわ」


 ルルーディアは笑顔を浮かべるが、一瞬顔を曇らせ奥歯を噛む。このような現状を改善できないでいることに、王族として不甲斐なさを感じているのだろう。

 

「今日は本当にありがとうございました。改めて御礼を言わせてくださいませ」


 美しい礼をうっとりと見つめながらダリウは笑顔のまま礼を返す。


「こちらこそ素晴らしいものを見せて頂きました。また、お会いしましょう」


 ダリウの言葉に首を傾げながらも

「えぇ、また、街のどこかでお会いできるかも知れませんね。ではわたくしはこれで失礼致します」

そう言うとルルーディアは護衛と共に王城の方向へと歩き出した。


 その背中を見送ると、ダリウは反対の方向へと歩き出したのだった。







 


 1つ路地を曲がると、そこには二人の護衛騎士が待ち構えていた。ダリウは予想通りと驚くこともなく足を止める。


「お嬢様のお金を取り返してくれたことには礼を言う。しかし、姿を隠したような怪しい輩をそのまま帰すわけにはいかないのだ」


 護衛騎士の一人がそう言うと、もう一人はダリウの退路を断つように後ろに回る。



(簡単に釣れてよかったな)


 こんな怪しい男が()()などと言えば警戒しないわけがない。彼女の前に立つに相応しくなってから自ら名乗りたいダリウにとって、今彼女に知られるのは避けたかった。そのため、ワザとあのような言い方をしたのだ。要するに、口止めである。


 ダリウはゆっくりと外套を脱ぐ。真紅の髪が西日に輝いた。


「これでよいだろうか?貴殿らが警戒するのは尤も。しかし自分も騎士の端くれだ。第三王女殿下に危害を加えるようなことなどしない」


「な、なぜそのようなこと…!キサマ…」

一人が叫んだがもう一人がそれを静止し青い顔で尋ねる。


「し、失礼ながら、貴殿は第二騎士団副団長殿では…」


 恐る恐るといった様子の騎士にもう一人ハッとしてダリウを凝視する。


「名乗るのが遅くなって申し訳ない。第二騎士団副団長のダリウ・トランだ。楽にしてくれ。配属が違う、まして配属されたばかりの副団長など、知らなくとも仕方ない」


 いつもの無表情ででダリウは二人に話しかける。先程のルルーディアへの態度を見ていたのであれば一層冷やかに見えただろう。


 


 ダリウも知らないことだが、騎士団の中ではちょっとした有名人になっていた。初日の模擬戦以降、ダリウに師事している第二騎士団の者たちから噂になっていたのだ。その厳しさから、紅の戦鬼、正に鬼だと。



「私は休暇を頂いたため、周辺地理を確かめていただけだ。それにただでさえあんなことがあった後だ、第三王女殿下はお疲れだろう。ご負担は掛けたくはない。今回私が関わった事は王女殿下に伝える必要はない。内々に処理してくれ。頼んだぞ」


 ダリウがそう言うと、尤もだと頷き、護衛たちは頭を下げると逃げるようにルルーディアの後を追っていった。


 上手く行ったとダリウは息を吐く。




(また、またお会いしましょう。ルルーディア様)


 

 ダリウはそう嘯くと、紅に染まった王城に向かってゆっくりと歩き出した。

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