副団長の資格とは2
「お前、これ仕組んだだろう」
胡乱げな眼差しでコールはアレクセイに歩み寄る。
「まぁ、こうなるだろうとは予想していたが、仕組んだわけじゃあないさ。だが、実力を示すのにはこの方が手っ取り早いだろう?」
アレクセイはにやりと笑い、腕を組みながらこれから始まる模擬試合を眺める。
「して、どう見る?」
そんなアレクセイにコールは並びながら問いかける。
「どうとは?」
「どちらが勝つかってところだよ」
「はっ、勝負にもならんだろうよ」
あっさりとそう言い捨てるアレクセイに視線だけ向ける。
「それほどか。アレクならどうだ?」
「そうだな…なぁ、お前はダリウの戦い方をどうみる?」
訓練場ではダリウとジョシュが模擬刀を手に持ち向かい合うところだった。
その周りを団員がそれぞれの後ろに控える形で左右に分かれて見物している。あの中の何人がダリウの本質を見抜いているだろうか。
初めから平民と見下し、田舎者と見縊っている者たちに、本当の実力を図ることなど出来るはずもないだろうが。
「あの長身からくるリーチと、瞬発力を活かしたカウンタータイプかな」
コールはダリウを眺めながらそう呟く。コールも決して弱くはない。少し見ればダリウが優れた騎士だというのはすぐにわかる。
「…外れだ。超速攻の攻撃型だ」
見ていろとアレクセイは中央を指差す。
――――キィーッン
開始と同時にダリウが距離を詰める。構えた剣を弾いた勢いのまま、ジョシュの首に切っ先を突き付けた。まさに瞬きの間の出来事であった。
ほらな、とアレクセイは笑う。
コールは唖然としながらアレクセイの顔とダリウを交互に見る。
「先ずあの初手が防げなければ相手にもならない。騎士団でも打ち合えるのはそれぞれの団長くらいだろうな。それでも勝つのは難しい」
団長クラスですら敵わないのであれば、いち騎士など赤子の手をひねるようなものだろう。
(俺が相手することになんなくてよかった。ほんとによかった)
勝負のついた二人に向かって歩き出したアレクセイの背を追いながら、コールは苦笑いを浮かべるのだった。
ダリウは、目の前の騎士をじっと見据えながら終了の合図を待つ。ジョシュと呼ばれる騎士は喉元に剣を充てがわれたまま動かない。何が起きたのかわからないといった様子だ。
「そこまで!」
その合図と共にジョシュが膝をつく。ダリウはカチャリと剣をしまうと一歩下がり礼をした。
周りの騎士たちは呆気にとられたまま動けないでいた。しんと静まり返った訓練場にアレクセイの声が響く。
「さて、決着は着いたな。」
その言葉にはっとしてジョシュはダリウを見る。そして額を擦りつける勢いで頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。私の完敗です。上官を侮った罰、いかようにも!」
鬼気迫った様子にダリウは一瞬瞠目したがすぐに破顔する。
「頭を上げて頂きたい。貴方の不満は最も。私も副団長など身に余ると思っています。皆不信に思っても仕方ないことです。しかし騎士の配属は王命です。拝命したからには命を賭して全うする覚悟です」
ダリウはジョシュに手を差し伸べる。
「敬語を使うのもこれが最後だ。素直に自分の非を認められる者は好ましい。これからは至らない私を支えてくれ」
一気に引き上げ、ジョシュを立たせるとダリウはニカッと笑う。若干二十歳ではあるが、それ以上に幼く見える。
あぁ、この人は実力が、いや、器が違う。平民というだけで侮っていた自分が情けない。
「…はい、副団長!」
へニャリと笑い、ジョシュは自然と礼を執っていた。
「さて、他に異を唱える者はいるか?」
アレクセイの言葉に皆気まずそうに視線を落とす。
どんなに不満があろうとも最初から覆すことなど無理なのだ。そもそも王に剣を捧げ騎士となっている我々が、今回のような不満を持つことすら烏滸がましいと言うものだ。
だいたい騎士爵といっても正確には平民のダリウが、副団長に抜擢されたというだけでその実力を察するには余りあるだろう。
(これだから貴族のお坊ちゃま方は…)
はぁと小さくため息を落とし、アレクセイは首を振る。
「さあ、諸君の疑問も晴れところで、今日は新兵と副団長の交流も含めて全体で模擬戦をしよう。皆副団長の胸を借りるといい」
バッと振り返り、ダリウはアレクセイを睨む。そこまでは聞いてません、面倒です、と感情がはっきり見て取れる。
そんなダリウにアレクセイはウインクを投げる。溜息を付きながらも、ダリウは団員たちの中に歩み入る。
ジョシュの件でみな弾みが付いたのか、次々と対戦を申し込んでいく。腐っても騎士だ。向上心は尽きない。
その日は一日、ダリウと騎士たちの総当たり戦にもつれ込んだのは言うまでもない。
そしてこの日、ダリウに大敗を期した騎士が、ダリウにとってなくてはならない側近になるのはもう少し後の話である。
少し間が空いてしまいました。
今後も不定期更新です。申し訳ありませんm(__)m