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王宮と王と王女と

今回は少し長めです。やっと少し物語が進みます。

 二十歳を迎え半年が経ち、師団長の仕事にも慣れてきた頃だった。


 今までの功績を称え騎士爵位が与えられ、それに伴い登城しろとの旨の手紙が届いたのだ。ご丁寧に王家の印の入った蝋封を見遣る。

 王家からの命を断れるはずもない。


 単純に自分のしてきたことで父と同じ騎士爵を得られるということは嬉しかった。

 この砦を離れ、嫌いな貴族連中の中に入っていくのは気が乗らないが、何年か経験を積んでまた戻ってくればいい。自分には男ばかりのむさ苦しい砦内が一番合っている。

 

 


 そんなふうに考えながら、馬に跨がり休憩を挟みながら5日、漸く王都内にたどり着いた。ダリウにとってこれが2度目の王都訪問である。

 

 

 幼い頃、父に連れてこられた王都は活気に溢れ、見るもの全てが新鮮で輝いていた。

 ……ように感じたものだが、今となって考えれば何も知らない子供だったのだ。


 国境の脅威など露とも知らない者たちの平和ボケした喧噪も、一つ外れた路地裏に潜む暗い影も、あの時には既にここにあった事実に気付きもしなかった。


(・・・全くうんざりする。身近な闇から目を背け、何も考えずとも平和を享受できる環境に居る者たちの守護も、それが名誉だとのたまう者たちと共に働くことにも反吐が出る)


 まだ王城にすら着いていないが、すでにダリウの意欲は底をつきそうだった。


 しばらく歩き、堀に架かる石橋を渡る。眼前にそびえる大門を見上げ小さく息を吐く。この国の中枢、王城の大門である。その脇に立つ兵士に手紙を見せると大門脇の扉から案内される。


 招かれたと言っても城に仕える騎士であるため客人ではない。城で働く者たちの通路を通り騎士団宿舎に案内された。


 簡素な作りだが男一人過ごすには不足のない部屋を見渡し、ベッドに腰を下ろした。

 一息ついたところにノックの音が響く。


 「ダリウ・トラン、入るぞ」


 騎士は絶対なる階級社会である。自分の名がこのように呼ばれるということは相手は上官だということだ。速やかに起立し、胸に手を当て「はっ」と短く答える。


 扉を開けたのは30歳前後の黒髪に青い瞳の体格の良い美丈夫であった。


 ダリウの身長は180cm以上と長身ではあるが、屈強とは言い難い体つきである。騎士の中ではというだけであるが、整った等身から細身に見えるくらいである。

 そんなダリウと比べると彼は一回りは大きく見える。 


「遥々ご苦労。私はアレクセイ・ランドル。第ニ騎士団の団長だ」


 威圧感のある風貌からは意外なほどの笑顔で握手を求める。ダリウは素直に応じ手を差し出した。 


「名声は聞き及んでいるよ。援軍の要請もなく、あの砦を守り抜けているのはキミの功績だと」


「ありがとうございます。私はただこの国のため剣を振るっただけのこと」

 事も無げにダリウが答えるとアレクセイは破顔して握った手に力を込める。 


「それがいかに難しいことか。これからもこの国のために尽力してくれ。()()()()()()()()殿()

 


 ダリウはアレクセイの言葉に耳を疑った。暫し反応できずにいるとアレクセイは快活な声で続けた。


「キミは王太子殿下付きの第ニ騎士団の副団長として配属される。私の補佐としてよろしく頼む」


 そう言ってアレクセイはニカッといたずらっ子のように白い歯を見せて笑った。

 


 王宮騎士団には、国王直属の第一騎士団、王太子直属の第ニ騎士団、その他の王族の守護を担う第三騎士団がある。その他王宮内の警備はそれぞれの団から持ち回りで配置される。

 王に近いほど優秀とされ、騎士の優劣が決まるようなものなのだ。


 そんな中、田舎の騎士爵ごときが第ニ騎士団、更には副団長に任命されるなどそうそうあることではない。アレクセイも侯爵家の次男と高位貴族だったはずだ。


「はっ、微力ながらお力になれるよう務めさせて頂きます」


 ダリウは些か混乱しながらも力強く答えた。


 明日の流れを説明し団服を渡すとアレクセイは早々に去っていった。今日は実質顔合わせだけだったのだろう。




(…面倒な事になった)



 ダリウが一番に考えたのはそれだった。


 騎士といえど役職を与えられるような立場であれば、必然的に軍事機密に関わることになる。しかも王太子の護衛となれば公務における機密や国家間の問題を扱う席にも同席する。

 

 そのような立場になってしまっては簡単に砦に戻ることなど出来ないだろう。しかもほぼ平民である騎士爵ごときにと、やっかみも増えるだろう。


 ダリウは一人になった部屋で深い溜息をついた。




 




 ダリウは美しい生地で作られた真っ白な団服に腕を通す。王宮騎士団の団服は白で統一されそれぞれの団で異なる色の腕章が着けられる。第一は青、第ニは赤、第三は黄色である。

 左腕には赤い腕章が、左胸には副団長を表すバッジが輝いている。白い団服が彼の赤髪によく映えていた。


 一夜明け、鬱々とした気分で重い足を前に出す。謁見の間で行われる騎士の任命式のためである。ダリウはそこで騎士の誓いと、叙爵の儀を受けることになっていた。



 荘厳な空間で十数名の騎士たちが跪いている。新兵と、少ないがダリウのような召集を受けた騎士たちである。ダリウは叙爵の件もあり最後に呼ばれるため最後列にいた。


 しんと静まり返ったホールに高らかな声が響いた。


「国王陛下並びに王妃陛下、王太子殿下、及び王子殿下、王女殿下の御入場で御座います」


 僅かな衣擦れとヒールの音と共に数人の王族が入場する。玉座に着いたようでまた静寂が戻る。


 

 騎士の誓いが始まり名を呼ばれた者が王に誓いを捧げる。跪いたまま数十分、やっと自分の名が呼ばれた。目を伏せながら王の御前へ上がる。再度跪き、許しを待った。初めて見る王様とはどんなものかほんの少し落ち着かない心地だった。


「面を上げろ」


 その言葉と共に王の顔を見上げた。

 美しい金色の髪に闇色の深い藍色の瞳には星が瞬くかのようなな輝きがあった。45も過ぎようとする歳であるのが信じられないほどの美男子であった。


 

 ――ふと、ダリウは不思議な感覚に襲われた。不敬だと思いながらも衝動のまま視線をずらす。





 ―――見つけた。





 王よりも淡くゆったりと広がるブロンドの髪。春の若草を写したような輝くミントガーネットの瞳。白い肌に淡く桃色に浮き上がる頬。薄っすらと赤く濡れた小さな唇からは、きっと天上の調べが紡ぎ出されるのだろう。


 王の末の娘、第三王女であった。


 年の頃は12、3歳だろうか。まだ幼さの残るその眼差しにダリウは心を奪われてしまったのだ。



 王が淡々と儀を進める。


「ダリウ・トラン。そなたはこの国のために、我に忠誠を誓うか」



――あぁ、誓う。彼女を手に入れるためならば絶対なる偽りの忠誠を。



「この国の民のため、剣となり盾となりその身を捧げるか」



――あぁ、彼女をくれるのなら俺の身体など、魂ごとくれてやる。



「これまでの功績を称えここに王宮騎士及び騎士爵位を与える!」


「は、有難き幸せにございます」

ダリウは、深々頭を下げる。




――本当に感謝する。彼女と共に存在できる喜びに。国王陛下(おまえ)だけが彼女を俺に与えてくれるのだ。



 狙いを定めたダリウは踵を返し颯爽と歩く。得も言われぬ胸の高揚と仄暗い感情を抑えながら。自分に宿った初めての感情を噛み締めながら…… 

遅い初恋は拗らせてなんぼ。それでこそダリウだと思います。

前話の冒頭のところです。

 

次話からはまた1500字前後だと思われます。

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