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■7 皇帝


 私にこの国の案内を申し出てくれた彼は、ジェイクと言うそうだ。ハンターギルドと言うモンスター討伐専門の依頼を担っている組織の一員らしい。君は? と聞かれ、中々答えない私に「もしかして口が利けないの?」と気付いてくれた。良かった、説明する手間が省けて助かったよ。



「そうか……なら、筆談はどうかな?」



 文字は書ける? と聞かれ頷くと、彼は持っていたらしいメモとペンを出してきて私に手渡す。名前は? と聞かれて〝イヴ〟と答えた。


 彼が、私が「はい」か「いいえ」と答えられるような質問をしてくれて、頷くか頭を横に振るかで会話が成立していた。そうしているうちに、店に辿り着いた。


 ここは、さっきの店が取り扱っている服と同じようなものが並んでいるし、値段も手頃だよと教えてくれて。本当に助かる、ありがとうございます。


 中に入れば、確かに良いものが沢山並んでいる。さっきの店で選んで決めていた為、選ぶのは早かった。着ていく? と聞いてくれて、勿論と頷いたのだった。あぁ、やっとちゃんとした服が着れた……!!


 ではまずこっち、とがやがや賑わっている方へ進んでいった。露店が並んでいる場所や、今人気なお店など、あとハンターギルドの前も通った。何と洒落た建物が沢山並んでいる事か。それだけこの国が発展しているという事ね。露店を見回っては注意深く見ていたが、やっぱり日本より幾分か商品の値段は安いようだ。


 そして、お腹空いた? と聞かれ、空いてはいなかったがそんな時間になっていたみたいでおすすめらしいお店に入っていった。


 そこも結構綺麗な店で、メニューは……よく分からないけれど……それは食材だけで何とか注文、目の前に並んだお皿に乗っている料理は、見た目は見た事があるような料理だった。口を小さく開ければ牙は見えないだろうと思い気を付けて食べた。だが……


 __満腹感が、しない。


 味も感じる、美味しいと感じる、なのに、お腹がいっぱいにならないのだ。これも、吸血鬼となった為に起こっている事なのだろう。きっと血を飲めばお腹がいっぱいになるはず。現に、あのイケメンお兄さんの血を頂戴した時には、ちゃんと満腹感は得えられた。


 そう思ってしまうと、やっぱり、あのお兄さんに会いたいなぁ……ほら、お腹空いてきちゃったよ。



「……」



 じゃあ店を出ようか、そう言って代金は向こうが払ってくれた。こういうのは男が払うものだよ、と。案内とかしてもらってるし、お金もあるんだけど……ま、いっか。そして少し歩いた時、大通りから何かが聞こえてきた。出てみると、真ん中に馬に乗った人達の長い行列が出来ていた。その両端には、この行列を見に集まったのだろう人達だ。



「最近、この近くでモンスターの集落が見つかってね。あと、魔族の姿もあったらしいよ」


「っ!?」


「あれは、第二騎士団と第三騎士団、あと金で雇われたハンター達だ。これから討伐に行くんだろうな」



 モンスターの集落に、魔族、か……見つかったら即死刑、という事だ。一層気を付けなきゃいけない。そして、向こう側のものに目が留まった。あれは……



「あれ? あれは奴隷だ」



 ど、れい……? この国には奴隷制度というものがあるのか。首と両腕に大きな鉄の輪が通されていて、鎖で繋がれている。それが、7人全員列になるように繋がっている。その列が、あっちにもある。とても、傷ついていて着ている服も奴隷ですとでも言っているかのようなボロボロのものを着ている。



「つい最近、隣国のランドラル国に攻め込んだんだけど、その通り道となった集落の者達だと思うよ」



 何か拒んだのだろうか、戦争をしているらしいけれど、それと関係があったのだろうか。



「関係ないよ、あの人達は」


「っ!?」



 私の考えている事を読んだらしい、顔をローブから出していないのによく分かったな。でも、関係がないですって? でも、彼はその後に「この国の皇帝がそういう人なんだよ」と言っていて。



「この光景を見れば、とても良い国だと思うかもしれないけれど、それは太閤、皇帝の弟君がいるからだ。皇帝は、この国の外しか見ていない」



 成程、今の皇帝は他国を侵略する事しか頭にないという事か。そして、実質この国を治めているのは太閤。何と無茶苦茶な国なんだ。


 なら、公国の件も納得がいく。公国の事はよくは分からないけれど、小国と言っていたし、あの対応。きっと手に入れる事は簡単。だけど攻めて手に入れる事はおろか、わざわざ公国の公女様を迎え入れるなんて事をしたのは、その国を利用する為、使い勝手の良い駒として残しているという事になる。


 そんな時、視線を感じた。奴隷達の中にいる、若い男性。


 それは、一直線に私を見ていた。驚いた顔をしていて、そして、手を伸ばしていた。さも、助けてくれと言っているかのように。結局、ここは人が多いから他に行こうか、そう彼に言われてその場を後にした。


 離れる寸前で、ふとまたあの男の方を覗いた。髪の間から見える目、それは……絶望の目だった。


 周りに沢山人がいたのに、どうして、私を……?



 結局、彼に良さそうな宿を教えてもらいその日は幕を下ろした。


 だが、あの奴隷の男の目が、私の脳裏に焼き付いてしまっていたのだった。

 

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