■6 ではまたどこかで。
それから数日後。
ほら、見えてきましたよ。あれが[アメトリス帝国]です。そう言って隣にいたお付きの人が指をさす。その先には、外壁だと思われる壁がびっしりと横に並んでいるものが見えた。
いやぁ、ここまで結構長かったんだよ。モンスター何匹倒したかな。お陰でレベルが4も上がったんだから。しかも一番大変だったのは食事!! 頑張って牙隠して食べたんだから!! 口ちぃ~っちゃく開けて食べたんだから!! バレてない? バレてないよね?? まぁ皆さんの反応だとたぶん大丈夫だと思う。いや、思いたい。
城門、かな。結構並んでるなぁ。あ、あれって何か自分を証明するものが必要になってくるのでは……?? マズったなぁ、そういうの持ってないし……本当の事知られたら追い出されちゃうだろうし……何か魔法道具とかってあるのかな。どうしよう……
「こういった所は初めてですか?」
う~んと考えていた私に、馬車の窓から顔を出した姫様が声を掛けてきた。こういった所、とはどういう意味を指しているのかよくは分からなかったけれど、そんな質問に私は頷いて見せた。
「あそこは検問所です。ここは他より厳しいですが、こういったものを見せれば通してもらえますよ」
説明してくれたお付きの騎士さんが、懐から四角い銀色のプレートを出してきた。会社とかで首にかけるあのプレートみたいなものだ。これを見せるだけで通れるとは。
それに、あの初めて会ったイケメンさん達やこの人達も私を見て吸血鬼、魔族だという事は見破れなかった様子だ。だから見た目では吸血鬼だってバレる事はないだろう。まぁ見破れる方法はどういうものなのか分からないしそこら辺も調べなきゃ。
プレートはお持ちですか? という質問に私は頭を横に振った。そうですか……と考え込んでいた所、次は姫様が話しかけてきた。私、証明書を書きましょうか、と。
「私はこう見えて公国の第三公女ですから、公国民として証明書を書けば大丈夫でしょう。私のサインも入れれば完璧です!」
お、おぉ。さすが姫様なだけある。驚きつつ、ありがとうございます、の意味を込めて頭を下げた。だがしかし、お名前は……と聞かれて、困ってしまう。声は出せないし、文字は通じるかどうかわからないし……
どうぞ、と名前を書く欄にサインをしてくださいと渡されるが……気が付いた。あれ、これ読める。解読スキルとかって持ってなかったよね? まぁいいや、サラサラっとサインをしてOKサインを貰った。
この書類を渡せば発行してくれますからと渡してくれた。今回の報酬のアメトリス帝国の通貨10,000,000Gも一緒に。一体どれくらいの価値があるのかは分からないけれど……まぁ中に入ればわかるだろう。
一般人は向こうの門ですよと教えてもらい、ではまたどこかでお会いできる日を楽しみにしておりますね。その姫様の一言を頂き別れたのだった。
一般人用の城門には、大体20人くらいの人の列が出来ていて。私はその最後尾に着いた。皆さん荷物を沢山持っていて、普通の人はシステムウィンドウの空間収納を使えないようだ。私も気を付けよう。と言っても、収納されているのは絶対に出しちゃいけない物ばかりだしなぁ。
そうすると、今の私の持ち物はさっき書いてもらった証明書とここの通貨一千万Gのみ。バッグは持っていないから、貰ったローブの中に着ているイケメンお兄さんの上着のポケットの中にお金は入っているわけだ。何と不用心な。
それと、早くちゃんとした服を購入したい。今の私は、ローブを脱ぐと素足が出てしまうからだ。確かにイケメンお兄さんの上着はサイズがデカい為に膝まであるが、そこから下はないのだ。
因みに靴もナシ。お兄さん達があの時靴を脱ぎだしたが要らないと何度も拒否した。そこまでは、ね。遠慮しなきゃでしょ。
私が並んだひとつ前の人達、お爺さんと息子なのかな。その二人がうわさ話をしているのが聞こえた。ここから少し遠くに、もう一つ城門が見える。さっきまで私が一緒にいた姫様達の馬車が通る城門である。そちらを見て話しているらしくて。
「あれだろ、ミトルア公国の姫様が乗ってる馬車は」
「そうだろうなぁ。可哀想に、4歳になられる皇太子の側室にだなんてねぇ」
……え、4歳!? 14歳の姫様の嫁ぎ先は、4歳の子供!? 10歳差って、いいの!? ま、まぁ日本でもそんな歳の差で結婚する人っていたにはいたけれど……こんな小さい子がもう嫁ぎ先が決まってて嫁がされるってないでしょぉ。
側室で、しかも国はなんか良い扱いされてないみたいだし……心配しまくりだよ。大丈夫か。……と言っても、他の人の心配していられないんだけどさ。私も大丈夫かって不安しかない。取り敢えずこのローブは外さない、口も開けない。これ絶対。命がかかってるようなもんだ。
そうして、何とか無事に検問を突破。さっきのお付きの人が見せてくれたプレートと色違いで銅色のものが手に入った。発行に2,000Gって言われたけれど、それだけで済んで良かったぁ。
城壁内に入ったけれど、人が多いな。昼間だししょうがないか。見た所……茶髪緑目が多いな。私は銀髪だからなぁ、出すと目立つだろうし気を付けなきゃ。取り敢えず服だ服!
幸い文字は読めるから、服屋は意外と簡単に見つけられた。ふむ、どういったものがいいか。ここには女性ものはワンピースが多い。でもなぁ、出来たらズボンが良かったんだけど……仕方ない、メンズとレディースどっちも買おう。あとバッグは……これでいいや。
それを会計に持ってきたら、随分と小太りのおじさんが立っていた。凄くやりたくなさそうな、そんな感じ。さっさと済ませて帰ろう。と思っていた時、こっちをジロジロ見てきて。気付かないふりして姫様から貰ったお金を置いた。
「……おい、これじゃ足りないぞ。半分にしかならねぇ」
……はぁ? ちゃんとタグ見て計算したのに。こいつ頭馬鹿なの? あぁ、喋れない設定のせいで言い返せない……
【56歳男性 血液型:B型】
渋味:★
おい、食レポ書いてないし、栄養すらないじゃない。どれだけまっずい血なのよ。というか、こんな表示されてなかったとしても食事に選ばないわこんな男。
「あんれ、おかしいな」
丁度私の背後から、声がかけられた。ずいっと後ろから手が伸ばされてきて、小銭に触れ並べる。
「俺には、ピッタリに見えるんだけど……じいさん計算すら出来なくなった?」
「ッ……」
君、本当にこれ欲しい? と言われ顔を覗かれてしまう。あ、やべ。そう思った時、俺がもっといいお店を紹介してあげるよと手を掴まれて半強制的に店から出されてしまったのだ。
「あーいう人の店の服は着たくないだろ? 良さそうな店知っているから、連れていってやるよ」
おぉ、何て強引。まぁ言われてみれば、確かにあんな見た目で判断して詐欺をする人が営んでいる店の服は着たくはない。
【20歳男性 血液型:AB型】
甘味:★★★ 栄養:★★★
塩味:★★★
酸味:★
旨味:★★★
計算づくされた完璧な味の中に、隠れた酸味を感じられます。
まだ何人かとしか関わってきていないけれど、この味でその人の性格が分かる気がする。姫様は甘味があって凄く優しかった。甘味は優しくて、旨味は良い人って事なのではないだろうか。お付きの人達にも他の味のした血を持つ人もいた。
甘味:優しい人。
旨味:親切でいい人。
酸味:真面目で照れ屋。
辛味:厳しい人。
塩味:素っ気なく愛想のない人。
まぁ、大体こんな感じか。まだあの人達とは数日しか一緒にいなかったから合っているのかどうかは分からないけれど、これを参考に人に対応していけばいいだろう。
となると、この人は計算高くて一人一人に態度を変えてくるって事になる。こういった人には気を付けたほうがいいだろう、色々とバレてマズいことが私にはあるからね。
「君はこの国初めて?」
たぶん、私の恰好を見てそう思ったのだろう。ローブをずっと着ていて、ずっとモンスターと戦っていたから少し小汚い。遠い場所からここに来たのだと思ったのかな。取り敢えず、頷いて見せた。なら、案内してあげようか。そう言われてしまった。困った事になってしまったな。
まだここの事は私は知らないからありがたい申し出ではある。けれどバレてしまうのはだいぶマズい。私は魔族、吸血鬼だ。きっとバレたら最悪殺されるかもしれない。
私がここに来た理由は、まずは服などの日用品を揃える事。そして寝床などちゃんとした生活が出来る場所が欲しかった。外に出たら野宿、しかもモンスターが来る心配もあってなかなか落ち着けなかった。だから一番手っ取り早いここに来たのだ。幸いお金はたんまりある。さっきのお店を見て、私が住んでいた日本より少し物価が安いくらいだった。
あとは、徹底してバレないよう変装するだけ。だけど今は、只フードを被っているだけだ。この世界で吸血鬼はどういった容姿なのか分からない為、瞳の色と髪が見られていいのかどうかも分からない。
まぁ今は、こんな炎天下の中で外を出歩いているわけで。システムウィンドウはレベルが高くないと陽の光に焼かれるって言っていた。だから、こんな外を出歩ていればまず吸血鬼だとは疑わないだろう。
苦渋の決断で、頷いたのだった。
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