■3 ふざけんなっ!!!
「ふぅ、上手くいったかな。てか重っ……」
え? 何でこんなにピンピンして生きてるのかって? それは、彼らと別れる為に崖から飛び降りたわけだけど……擬態でコウモリの姿に戻った訳だ。因みに、さっきまで着てた服達は私が今背負っている。てかめっちゃ重い。いでよ! 収納空間! えいっ!
あの時なんかめっちゃ名前呼ばれて心が痛かったけれどね、でも太陽にこんがり焼かれるのだけは嫌なんだわ。
まぁ、この服達とかはあの鞘でお礼って事にしたから大丈夫よね。絶対に手放しちゃダメだからね、★5つお兄さん!! あ、あとちょっとだけ血を分けて頂けたらもっと良かったかも。ほんっと美味しかったんだよねぇ~♡
さて、これからどうしたらいいのか。さっきは、今の私のレベルでは、って書かれていたからレベルをもっと上げればここから出られるって事だよね。なら……この中にいるモンスター達を狩らなきゃいけないって事……?
「……マジ?」
あんな化物たちに立ち向かうだけの度胸が私にあると思う?まぁ打撃スキルはあるけど……接近しなきゃいけない訳でさ。嫌だわぁ……でも太陽に焼かれるのも嫌だわぁ……
とりあえず着替えよ、と擬態を解き服を身に着けた。こんなに大きいの貰っちゃってさ、何か彼シャツみたい……まぁ、恋人なんて人はいなかった訳だからした事ないけどさ。
「やった、辿り着いた」
入口から通ってきた道を何とか戻って、そして私が落ちた湖に辿り着いた。え、どうして戻ってきたのかって? それはね……ここ、エクスカリバーの鞘を見つけた時、微かだけど何かが見えたんだ。ルビーみたいな、そんな装飾品が光って見えていた気がする。
「エクスカリバー本体? いや、もしかしたら他の何かかもしれない」
気になって気になって仕方なく、大きく息を吸い込んで湖に飛び込んだ。
やっぱり真っ暗で見えづらいけれど、夜目が利くから何となくだけど見える。確かこっちに……あった。ほら、赤く光ってる。近づいてみたら……壁? この湖の端か。石の壁に埋まっているこの装飾品だったのか、私が見ていたのは。
この、石に刻まれた文字……読めないな。日本語ではないし……さっきお兄さん達と喋れたのは、日本語だったからだ。だから、文字も日本語だと思っていたんだけど……あ、もしかしたら古い文字だったり?
ちょっと息が持たなくなってきたからいったん戻ろう、そう思っていたその時、上がろうと蹴った場所から音がした。え? そう思っていた時にはもう遅かった。ひゅぅぅぅぅ~と音を立てて吸い込まれていって。やばいやばいと暴れれば暴れるほど息が続かなくなってくる。私は、目をつぶった。
「ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ……」
やっと空気を得る事が出来た。地上に出てこれたのだ。呼吸を整え、入っていた湖から周りを見渡す。あれ、私が入った所と違う場所だ。確かさっき、壁が開いて吸い込まれていって……
ここは、やっぱり洞窟の中だ。とても広いけれど、出入口がない。
そして、一番目に入るもの。それは……
「うわぁ、なにこれ」
地面に置かれている、大きめな石。そして、それに剣が刺さっている。はい、もうわかるよね。……マジかよ。
これこそ、彼らが探し求めていたものである。エクスカリバー、それだ。湖から這い出て、服を絞りつつ、近づいた。うげぇ、外国の美術館に展示されているんじゃないかってくらいの装飾が施されてるんですけど。
けどさ、やっぱりこういうの見ちゃったら、やりたくなっちゃうよね。うんうん分かるよ、抜きたくなっちゃうよね。誰か手袋持ってきて。指紋付けちゃったら悪いしなんか警察に捕まりそうだしさ。ここの世界のそういったあたりってどうなってるんだろ。まぁいいや、あとで拭こう。
「んじゃ失礼して……せぇ……のっ!!!!」
ぐぬぬぬ、抜けないぃぃぃぃ、まぁ当たり前だけどさ。……って、あ。
「あ、動いた………数センチ」
これ、頑張ったら抜けちゃったり、する? 頑張ってみる? ここまでやったら頑張るしかないよね? 大丈夫、どうせここには私しかいないんだから。
「ふんっっっっ!!!!!!」
思い切りいった、ら……勢い有りすぎて後ろへ倒れ尻もちをついてしまった。という事は……
「抜け、ちゃった……」
わぁお、マジか。……吸血鬼の私が抜いて良かったのか? 魔物は触れないだとか何だとかってなかったの? ま、まぁでもこれが抜けたところで勇者だのなんだのってなる気はないし。
「すご、錆びてない」
長年石に刺さっていたはずなのに、全然錆びどころか刃が欠けてすらいない。さすがアーサー王の愛剣。と感心していた時、いきなりガタンッ!! と音がした。え、何だ何だ何だ。
エクスカリバーが刺さっていた石の後側の壁の岩、それがいきなり開いた。そして、何かが雪崩のように溢れてきたのだ。その雪崩に巻き込まれそうになった私は、重い……いや、全然重くない。そんな剣を持って後ずさってしまう。
少しして雪崩が収まった、けど……私は目を疑った。それは……
「……金?」
金、金、金。そして宝石やら何やら。ここはまさか盗賊達の宝物庫だったのか。いや、だったらエクスカリバーはこんな所にあるわけがない。吸血鬼である私がこんなに簡単に抜いちゃうことの出来る代物なのだから。
「こ、れは……逃げる? って、えっ!?」
何もなかったことにしようと剣を石に戻そうとしたけれど……刺さっていた場所がもう既に塞がってしまっていて。横に置いてみる? と思ったけれど……いきなり消えたのだ。剣が。そして、さっき大量に雪崩れてきた宝物達も。私、悪い事しちゃった? とも思ったけれど……違った。それは、今表示されたシステムウィンドウ。
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○収納空間
・エクスカリバーの剣
・23,198,349,998Fal
・忘れられた王国[ファラストメア]のレガリア
王笏、王冠、宝珠
・忘れられた王国[ファラストメア]の君主の指輪
・ロイヤルブルームーンストーン
・ラピスラズリ
・アクアマリン
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……は?
……………は? なにこれ? 遂にシステムウィンドウさんバグった? 何もしてないのに勝手に収納空間に転移してるし、しかも書いてあるものが凄すぎて顎が外れそうなんだけど。まずこのFalって何よ。どこの通貨だっつの。
それに、一番聞きたいのはこれよ。忘れられた王国ってやつよ。レガリアってあれでしょ、王の象徴ってやつでしょ。何でそんな大切なものがこんな所にあるんだって言いたい。てか、返しに行くべき? あ、でも私泥棒扱いされちゃう?
「……何で、全部ここから出せないのよ……!?」
戻そうとしたのに、収納空間から出せないのはどうして!? これを私が持ってろと!! そう言いたいの!?
……これ、どうすべき?……ちょっと待て、私のステータスもバグった?
STATUS
根本彩羽 Lv.8
種族:吸血鬼
称号:忘れられた王国[ファラストメア]の新たな君主
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飛行:Lv.5
吸血:Lv.5
治癒:Lv.5
打撃:Lv.3
目利き:Lv.2
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権力者の手:MAX
権力者の眼光:MAX
絶対服従:MAX
な、なん、なん、で……新たな君主ぅぅぅぅぅぅ!? 何これ何これどういう事!? どういう事なの!?
「こっこれ消去とか出来……」
【おめでとうございます】
【本日から、貴方様はファラストメアの新たな君主でございます】
「はぁぁぁぁぁ”ぁぁあぁ”ぁぁぁぁぁあ”ぁぁぁ”ぁぁぁぁ!?!?」
ふざけんな!! 何がおめでとうございますだ!! 要らないっつのっ!!! 取り消せ!!!
かくして、私の転生ライフへの第一歩がこうして始まったのである。……何事もなく、平凡に生きたい。そんな願いがかなうかどうかは分からないが。
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