■27 終結
移動するとすぐにガシャガシャと鎧が当たる音と足音が私達の方へ向かってきた。
「殺しちゃダメね」
「御意」
「……あの、それ本当に要らない」
え、何故? なんて顔を向けられてもこっちが困るんですけど。いや、普通でお願いしますよ。あっ敵が来ちゃったよ!?
さっき拾った石を、とりあえず投げた。いや、手加減はしたよ?だって私筋力MAXだし。殴るって選択肢はあったんだけど、相手は剣とか槍を持ってたからさ。武器を避けるスキルは持ってないんだわ。ぶっ刺されるのは勘弁して。痛いの嫌だよ。
オリヴァーは、剣で防いでから蹴り飛ばしたりしててマジカッコ良かった。え、私もそれやりたい。教えて。
進めば進むほど、兵の数が多くなってきた。きっとこの人達はファラストメア国の子孫の誰かに雇われたのだろう。あの人達は、オリヴァー含め髪と瞳の色が青色だったから。
そして、違う建物に差し掛かった瞬間、悲鳴が聞こえてきた。女性の悲鳴だ。確か……こっちっ!!
「殿下ッ!!」
聞こえてきたのは、とてもよく知っていた声。そして、廊下には数名の武装した大人。その者達が剣を向けている先は、不自然に作られた土の壁だ。何かを囲うかのようにして作られていて、大人達はそれを蹴ったり殴ったりして破壊しようとしている。
まさか、あの中に……そう思った時には遅かった。壁が崩れ、リンティ姫と、守るように抱き締められている小さな男の子が見えたのだ。さっきの悲鳴はやっぱりリンティ姫だったか。
気がついた頃にはもう石を投げていた。頭は狙っていないけど恨みたっぷりで向こうまでふっ飛ばした。
「ふっざけんじゃねぇ小さい子に剣向けるとか大人失格だろ、あ”ぁ”?」
「っ!?」
「だっ誰だっ!!」
「あ”?子供を守るれっきとした大人だよ」
あ、やっべ。つい本音が出ちゃった。子供にこんな残酷なシーン見せちゃダメだろって。ふざけんじゃ……ねぇッ!!
私の投げた石達は見事にクリーンヒット。ストライーク!! バッターアウトッッ!!
「ったく、教育に悪いっつの」
「も……もしや……イヴさん、ですか……?」
そちらで私達を見ていた、皇太子を守るリンティ姫。怖かったろうに、もっと早く来ていれば良かったんだけど……
「お怪我は?」
「あ、いえ……でも、ルカ殿下が……」
さっきの土の壁を作り出したのは、殿下の魔法だったようで。まだ4歳であんなの作り出せたのか、凄いな。でも、無理をしてしまったのだろう、気絶しているようだ。
リンティ姫は、色々と聞きたいことがあるような顔をしていたが、それを話すのには長ーい時間がかかる為、あとでという事にした。私達は急がなければいけないけれど、この方達をまず安全な場所へ連れていかなければ。
__そんな時、とても大きな、立っていられないほどの地響きがしたのだ。
何だ何だ、地震か……? と思ったけれど、その後に耳を押さえたくなるくらい大きな爆発音。魔法か何か? いやまさかこんな所にあの地龍みたいなでっかいモンスターいる訳ないし……
そして、気が付いた。あれ、この匂い……とっても良い匂い……いや、これはもしかして……
「オリヴァーさん、この方達を任せていいですか」
「ですが……」
「大丈夫です、ここから先は一人でいけます」
渋ってはいたけれど、言い張る私に折れてすぐに戻りますと二人を連れていった。さてと、あ、やば。お腹ぐーぐー鳴ってきちゃったんだけど。どんだけお腹空いてんのよ私。
本当は、知っていた。
アンディ、マクス、カシアス。三人は服は平民と同じものではあるけれど、不自然なくらいのとっても上等な剣を身に付けていた。依頼、と言っていたのは盗み聞きした事はあったけれど、彼らがどんな役職とか仕事なのかは全く言わなかった。
そして、エクスカリバーを探しにあの洞窟に来ていた。あんなに調べたけれど、エクスカリバーがどうなったのかは全く記されていなかった。なのに、紛失していて、あの洞窟を調べていたとなると、それだけの情報を手に入れる事が出来るだけの地位を3人の内誰かが持っている。
さっき、ファラストメア国民の子孫達が言っていた。エクスカリバーはこの国の当時の皇太子が持っていったと。じゃあ、なんで王宮にはないのだろうか。
ない事を、知っている。
なら、それを知っているのは限られた者達だけだ。
長い長い廊下を全速力で走った。どんどん強くなってくる、甘くて飲み過ぎると鼻血が出るらしい超絶品な飲み物の強烈な匂い。もう、地龍と追いかけっこした時よりもっと早く全力で走った。……見つけたっっ!!
廊下の先には、大きく開けた空間。
そして、男性二人を見つける。
一人は、もう一人に胸ぐらを掴まれ宙ぶらりんにされ剣を突きつけられている。あ、これヤバイ。地龍に追いかけられている時よりもヤバイ。すぐにシステムウィンドウを開いた。そして……
「おりゃッッッ!!!!」
私の手には石は何も残っていない、何を投げたか、そう、あの地龍さえも一発で倒す事の出来た恩人以上の素晴らしい方。その切先は今まさに刺さろうとしていた剣の真ん中あたりに当たりそれを砕いてその先の壁にぶっ刺さったのだ。
私、槍投げでオリンピック出れそうかもしれない。
「アンディッ!!」
そう、今まさに刺されそうになっていたのは、アンディだったのだ。そしてその相手は蒼髪蒼目の男性だ。きっとこいつがファラストメア国民の子孫、皇族を狙ったやつだ。そして、彼に剣を向けたという事は……
【 スキル:権力者の手 を使用します 】
そして、ぶっ刺さっていたエクスカリバーがブンッと手に戻ってきた。え、すっご、なにこれ。いや、それよりこいつだ。つかつかと速足で二人の元へ向かい……
【 スキル:絶対服従 を使用します 】
「おすわりっっっ!!!!!」
「ヒエッ…!?」
私のこの一言で身体が勝手に正座してしまった一人の男性。彼が掴んでいたアンディを支え床に寝かせた。何というボロボロ状態。……待って、何この火傷。大丈夫かこの人。
「も……えっ……く、くん、しゅ……!?」
「アンタは後!! アンディ大丈夫!!」
顔をぺちぺち叩いても全然起きてくれない。ちょっと呼吸してる!? 大丈夫なの!?
心臓の音小さくない!? え、死んじゃうの!?
ま、さか……ここ床抉れちゃってるんだけど……喰らった……? どんだけのもの喰らっちゃったの……?
「アンディ! ねぇアンディってば!!」
どんどん冷たくなってる……ねぇエクスカリバーの鞘持ってるんじゃなかったの! ねぇアンディってば!!
【推奨 眷属化】
……は? 眷属? 眷属って、まさか……
__吸血鬼に、しろと……?
アンディが……吸血鬼……
「そんなの駄目に決まってるでしょ!!」
魔族にするなんてそんなの絶対嫌だ!! 何ふざけたもん推奨してんのよこのアホシステムウィンドウ!!
【推奨 眷属化】
「嫌だって!!」
【推奨 眷属化】
「嫌だッ!!」
【推奨 眷属化】
「馬鹿ッ!! アホッ!! 嫌だってのが聞こえないの!!」
何度も何度も出てくる〝眷属化〟の文字を殴りたくなる。罵声を発していても、何も変わらない。アンディはどんどん冷たくなっていく。嫌だよ!! ねぇ誰か!!
【推奨】
「嫌だって言ってるで、しょ……」
【ホワイトムーンストーン】
眷属化、その文字は一つもない。ホワイトムーンストーン。確か、アンディが持って……あれ、私の首にある。いつ貰ったんだっけ……? 何も覚えが、ないんだけど……
「ま、さか……食わせろと……?」
え、ゲテモノ食いの仲間に入れろと。そういう事? ま、まぁ私それで今ここにいるわけだけどさ。あの魔王の卵だって破壊出来たし。……マジで言ってる? 瀕死の奴に宝石食わせるとか鬼畜過ぎない? 可哀想じゃない?
「……よし、食え」
そう、口に放り込んだ。こいつこんな状態で飲み込めるのかよって思ったけれどとりあえず何も考えずに放り込んだ。ほら食え、さっさと食え。何味だか分からないけど!! 食わないと死ぬぞお前!!
「ン……ンンッ……ゲホッゲホッ……」
「あ、生き返った」
目を見開き顔を青ざめて咽るアンディ。おい、大丈夫かお前。私食べた時は自分でだったからそんなに咽なかったけど、アンディは知らず知らずに放り込まれたからね。まぁ、死ぬよりは断然いいでしょ。感謝してほしい。
「何味だった?」
「ゲホッ……イ、イヴ……?」
「これ何本?」
一体なぜこんな所に? そう言いたそうだけれど、それは全無視で安否確認。ちゃんと2本と答えてくれたから安心。良かった、復活したようね。
けれど、私に向かって、本当にイヴか? と聞いてきた。え、私がお化けだと? そう言いたいの?
「いや、それ以外誰がいるって……」
「よかったッ!!」
「グヘッ……」
いきなり抱き締められて変な声が出てしまった。てかそれ、私のセリフのはずなんですけど、一体どうしてこんな事になっているのか全く分からないのだが。てか凄い火傷なのにそんなに動いていいのかこいつ。心配なんだけど。
「魔族に襲われてから……目を覚まさなかったから……」
「……そうなの?」
なるほど、確かに私あんな真っ白い場所で魔王の卵に縛り付けられてたからな。意識がなかったのも頷ける。なんか心配かけちゃったみたいですみません。
それから、何かに気が付いたのか、私を自分の背に置き近くにいたファラストメア国子孫に睨みつけた。あ、そっか。戦ってた最中だったか。なるほどなるほど、なら……と彼の肩をポンポン叩いて見せた。
「いや~放置しちゃってごめんね?__さ・て・と……何、してたの?」
「ヒェ……!?」
「何してたの?」
さっさと答えろやゴラ。私今結構機嫌悪いんだけど。アンディこんなにボロボロにしちゃって!!
【 スキル:権力者の眼光 を使用します 】
あ、やっべ。この人ビビっちゃってんじゃん。勝手にスキルが発動しちゃってたよ。肩を震わせて顔を真っ青にしてるんだけど。何? 恐ろしいものを見てるような顔ね。私がお化けか何かって思ってる訳? ぶっ殺すぞお前。
「ファっ…ファラストメア国の、民たちの、報いを……」
「今の皇族の人達を殺すって? お前頭おかしいんじゃないの?」
「ヒエッ」
ビビっている男性を無視し、言いたい事が多すぎて口から溢れ出るかのように出てくる。
「皆殺しにしたのは、1000年前の皇族であって、この人達は関係ないでしょ。血が繋がっているだけで、本人じゃないじゃない。そんな事も分からないの? 頭一回冷やせゴラ。いや、冷水じゃなくて氷水の方がよさそうね。
復讐なんて、したって意味はないのよ。したところで何も起こらないし何も帰ってこないんだから。先祖が、子孫が人殺しをしたって知ったらどんな顔をすると思う? もし、アンタの息子がアンタの為に人を殺したって聞いたらアンタどんな気持ちになる? それと一緒よ。もっとよく考えろ馬鹿」
起こってしまった事は戻せない、死んだ者達は戻ってこないんだ。じゃあ自分はどうすべきか、それが一番大切な事だ。
さっき会ったファラストメア国民の子孫だって、皆復讐をと声を揃えて言ってはいたけれど、それに囚われて自分の人生を無駄にしてはいけない。
「自分がした事、分かってるね」
泣き崩れていった、今は無き国の子孫。分かる、気持ちはわかるけれど、人殺しに持っていってはいけないんだ。
「アンディ」
「……分かった」
私の言いたい事を、分かってくれていたようだ。やってしまった事は仕方ない。でも、この人達は私の国の国民の子孫なんだから。
これからどうしたらいいのか、そして私もどう向き合って行けばいいのか。それは、これから考えていけばいい。
何か聞きたいことが沢山ありそうな顔。だけど、ね、それより……
「えぇと、それで、アンディ……あの、ですね……」
「え?」
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
「……そろそろ、死にそう、です……」
「……」
愉快な腹の音が鳴り、辺りがし~~ん、となってしまった。
いや、そこで黙らないで、余計恥ずかしいから。やめて。
「……ククッ、ハハッ……!」
……笑うなゴラ。
かくして、ファラストメア子孫達による謀反は幕が降ろされたのだった。
魔族であり、吸血鬼であり、忘れ去られた国の君主、彼らの新たな王である、一人の女性によって。
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