■26 続きのお話
辿り着いたのは、凄く静かな宮殿だ。誰もいない。
「やるべき事を、してくるね」
「ここで待ってるよ」
馬から降ろしてくれたジェイコブが、手を振ってくれる。どうしてこのまま送り出してくれるのだろうか。付いてくると思ってたんだけど……あ、巻き込まれたくなかった?
「終わったら、この前の約束果たしてな」
「え?」
約束……約束……いつしたっけ? あ、そういえばメルテルス領で出くわした時、以前一緒にいた店の新商品を食べに行こうって誘われたっけ。返事はしてない気がするんだけど……
「分かった」
そう言い残して、宮殿の中へ入っていった。
宮殿の中に入った途端に漂う、人間の血の匂い。欲しいとか、よだれが出そうとか、そういうのはなかった。けど、ただ一つだけ。これを、自分が君主となった国の民の子孫がやったと思うと、とても、心が締め付けられた。
複数の足音が、こちらに向かってきて。見えたのは、武装した者達。待って待って、石とか持ってないんですけど!? 来ないでぇぇぇぇぇ!?
……と思っていたら、全員が跪いたのである。……あ、もしかして……
「「「「君主!!!!」」」」
あ、はい。正解でした。
「君主、お待ちしておりました」
「きっと来てくださると、信じておりました」
今こそ、奴らに先祖達の苦しみを味わわせる時です! とか、憎きアメトリス帝国の皇族達に死を! とかと言ってくるが……一体君達に、この皇族は何をしたんだ。そう思ってしまう。私は、知らないんだ。
「__これでも、私を君主と呼びますか」
口を開けた事によって現れた、鋭く大きな〝牙〟
これが生えている。その意味を、彼らはよく分かっているはずだ。
だけど、彼らは手を前に出して組んだ。まるで、祈るかのように。
「つい最近、我々の中から数名魔法の覚醒をした者達がいました。ファラストメア国の血を色濃く引き継ぎ生まれてきた者達です。一度に覚醒した、という事は……新たな君主が誕生したという事。そして何より、我々の魂が、貴方を君主だと訴えてきます」
つい最近、というと……私が君主になった時と重なる。やっぱり、私が君主なんだ。やっと実感が湧いたような気がする。しかも魂が訴えてるとかって、あの日のオリヴァーの時と同じやつ? 彼の場合は、よく分かってはいなかったらしいけれど……
それから、とある一人の男性が語ってくれた。つい最近君主となりまだ何も知らない私に、どうしてこうなったのかを。
あの劇で知った、1000年前、魔王を倒したお話。あれには続きがあった。
ファラストメアの民であった勇者は、約束であった退魔の剣、エクスカリバーを水神へ返すはずだった。だけど、共に戦った当時のこの国の皇太子がそれを奪ったのだ。そして、その国の宝、魔法を使用する為に必要な〝マナ〟を手に入れる事が出来るアクアマリンも飲み込み逃げた。
それに激怒した水神は、当時の皇族全員に苦痛という名の呪いをかけ、消えていった。
それにより、栄えていたファラストメア王国は枯れ果て、アメトリス帝国皇帝は苦痛を与えた水神の国ファラストメアの民を皆殺しにした。
その時生き延びた者達が、この者達の祖先なのだとか。
「今こそ、祖先達の報いを受けさせる時です」
「どうか、刃をお取りください」
「憎きこの国の王皇族を、君主の手で」
彼らは、この国の皇族を殺せと言った。
全員、殺せと。
……けれど、私はこう思う。
「__それは、違う。刃を向ける相手が、違う」
どうしてですか、そう反論してくる者が殆どだった。だけど、違うんだ。
《 今すぐ、この争いを止めなさい 》
その言葉は、この場に澄み渡るかのように響いた。
自分が言ったのか、誰かが言わせたのかが分からなかった。言わせたのだとしても、きっとその人物と気持ちは一緒だ。
何故、そう言いたそうな顔を向けられたけれど、今は時間がない。
【 スキル:絶対服従 を使用します 】
「行け」
「ぎょっ御意っ!!」
「かっ畏まりました!!」
よし、私も行かなきゃ。あ、石拾ってからね。私の武器ですもの。
「君主ッッ!!」
おっとっと、次は誰じゃ……って!! あの日のオリヴァーじゃないですか!! また跪かれる!? もう勘弁なんですけど!!
「ずっと、ずっとお待ちしておりました……」
「あ……」
彼の手には、見覚えのあるハンカチ。あ、そういえば貸してそのままだった。図書館にいつもいるからと言って全く行かなかったんだっけ。なんかごめんなさいね。
私が喋った事によって、驚いた顔はしたけれど、何も言わなかった。きっと、さっきの人達と一緒だろう。……って、膝ついてハンカチ渡すのやめてもらえます?
「お供いたします」
「……いいの?」
「はい、主を守ってこその騎士です」
なんか、かっこいいな。騎士ですか。確か……第三騎士団副団長だっけ。え、強そう。エクスカリバーを雑に使う私が恥ずかしいんだけど。
「ねぇ、この地響きって?」
「皇帝と、亡くなった事になっていた皇帝の弟君が交戦しているようです。彼らは魔法を使用できますから」
魔法……確か、皇族が使えるんだっけ。あぁあと、さっき言ってたファラストメア国の血を色濃く受け継いで、魔法覚醒をした人達か。魔法かぁ……なんか怖いな。いきなり飛んできたらどうしよう。
……待てよ、アクアマリンって言ってたっけ……アクアマリンを食べて今の皇族が魔法を使えてるって……なぁんか、デジャヴってるのはどうして……? あ、でも私は魔力項目に×が付いただけだったし、魔法とかっては書いてなかったような。魔力がマナによって抑えられてるって事……? まぁいいや、これは後だ。
「とりあえず……皇太子ってどこだかわかる?」
「申し訳ございません、正確な位置は……ですが皇太子殿下のお部屋にならご案内出来ます」
「じゃあ、お願い」
「御意」
……あの、それやめてもらえません? 御意、って。テレビとかでしかそれ言ってるの見た事ないんだけど。まさか自分に言われる未来が待っていたとは微塵も思ってなかったよ。
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