■24 君主としての、使命
ぱちり、と目を開いた。あ、宿の天井だ。バッと上半身をベッドから上げると、一瞬クラリと眩暈がして。耐えてから周りをキョロキョロしたけれど……誰もいない。外は……真っ暗だけど、何だか騒がしいような気がする。
「……こげ、臭い……?」
そして、目に入った。少し遠くに、見た事のないものが見えたんだ。……炎の、柱のようなもの。一瞬ではあったけれど、あんな大きなもの……そういえば、初めてアンディ達と会った時、アンディが魔法を使ってた。という事は、アレは魔法というわけだ。
でもさ、ちょっと火力強めじゃない? いや、焼けこげちゃうって。炭にする気ですか。
隣にいるはずのアンディ達がいない、音がしない。じゃあ、どこへ……
居ても立っても居られず、私は二階の窓から飛び降りた。こんなものあの崖じゃあるまいし朝飯前よ。さて、どうしたものか。
「見つけた」
聞いた事のある声が、私の足を止めた。……やば、二階から飛び降りたの見られちゃった……? ねぇジェイクさんよ、見ちゃった?
「ここに泊ってたんだ、探しちゃったよ」
……おっと、私今喋れない設定だったね。危ない危ない。でも今手元に貴方がくれたメモとペンないんだよなぁ、筆談が出来ない。
「イヴ、聞きたいことがあったんだ。でも、聞きたくはなかった。聞いてしまったら、終わってしまうと思ったからだ。でも、そうはいかなくなってしまったんだ。
__君、何者?」
一瞬呼吸を止めてしまった。それくらい、吃驚してしまった。けれど平常心を保つよう顔に力を入れてしまう。一体、何に気が付いた……?
吸血鬼?
魔族?
それとも……
「__君主」
「ッ!?」
「教えてくれたんだ。あの日、君と初めて会った時、君を一直線に見ていたあの奴隷が言ってたよ。本能でそう感じた、ってね」
大通りで兵士達の列を見ていた時、その外れの方に多数いた奴隷のうちの一人。若い男性が、私に手を伸ばしていた。そうか、今思えばあの人はきっと、ファラストメア国の子孫だったのではないだろうか。それなら納得がいく。
「さぁ、忘れられた王国、ファラストメア王国の新たな君主。君なら、どうする?」
「……」
「今、宮殿では皇族に刃を向けられている事だろう。簡単に言えば、謀反だ。そして、その首謀者たちは、ファラストメア国の子孫達だ」
……えっ。
この国の皇族に、ファラストメア国の子孫が……?
「この国、アメトリス帝国の皇族に恨みを持った、ファラストメア国の子孫達によって、ね」
恨みを持った、子孫達。
どうして、この国の皇族に恨みを持っているのかが分からない。何が、あったのだろうか。
「どうして、そう言いたそうだな。千年前、ファラストメア国は地図から消された。それは、このアメトリスの皇族によってだ」
「ッ!?」
「君は新たな王。そして、今国民達が立ち上がり先祖達の恨みを晴らそうとしている。君は、どうする?」
そうだ、私はあの日、エクスカリバーを抜き『忘れられた王国[ファラストメア]の新たな君主』となった。この世界に転生したばかりで右も左も全く分からない私が。そして、吸血鬼、魔族の私が。
でも、中身は人間だ。
エクスカリバーって、簡単には抜けない代物だって思ってた。だから、私がこれを抜くことが出来た、そもそも見つけることが出来た。それには、意味があったのではないだろうか。そう考えた。いや、そう思いたかった。それなら、理解できるからだ。
私は、収納空間からとあるものを出した。そして、指にはめる。
「__私は、止める」
初めて、彼の前で言葉を発した。それによって、私の口に大きな牙が生えている事がバレてしまったけれど、でも、それでも、口を塞ぐ事なんて出来なかった。
「恨みだけで、人を殺す事は間違ってると、そう思うから」
彼らの恨みは、怒りは、きっと私が思うよりもっと深いと思う。けれど、人を殺す事は、本当にあっているのだろうか。
「……君は優しい子だと思ってたけど、そこまでとはね。それに、人を殺す事を拒む吸血鬼ときた」
「牢屋にでも入れる?」
「いやまさか。むしろ味方でいたいと思ったよ。さ、おかしな吸血鬼。これは今の君に必要かな?」
私の手を掴み、少し歩いた先にあったのは一頭の馬だった。
「凄く必要!」
「ククッ、本当に面白い吸血鬼だ」
一人で乗れる? そう聞かれて、申し訳ない気持ちで頭を横に振った。じゃあ送ってあげるよ、そう、手を伸ばしてくれたのだ。
魔族に優しい人間が、身近にもう一人いた事に気が付けたのが、とても嬉しい。ここに一人で迷い込んだからなのか、こんなに頼もしく思った事は、たぶんないと思う。
「ありがとう、ジェイク」
「ジェイコブ」
「え?」
「ジェイコブ・トンプソン。これがほんとの名前な」
偽名だったって事ですか。でも、知れてよかったな。
……でも、ファミリーネームって……まさか……
私は、これ以上は考えない事にした。
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