■21 私の名は……
静かだ。
静かで、真っ暗で、そして、寒い。
まるで、深い深い深海に落とされたような、そんな感覚。
私は吸血鬼、魔族である。
人とは違い、牙が生えて、食事も違う。
そう、周りの人間とは違うんだ。
私が欲してやまない、アンディの血。
彼の血はまるで……〝毒〟
中毒にさせるかのように、飲めば飲むほど欲しくなる。
そして、飲めば飲むほど、私の中に魔力が溜まっていく。
……まるで、中途半端だった魔族が、本物の魔族になっていくみたいに。
私は、魔族であっても中身は人間だ。
そのはず。
だけど、魔力が増えていくにつれて……だんだん、浸食されていくかのように、飲み込まれていくかのように……
〝私は、本物の魔族になっていってしまう〟
『__イヴ』
ピコンッ……
突然鳴った、何度も何度も聞いた事のある音。そして……
【 根本彩羽 Lv.87 】
……あっ。
【 根本彩羽 Lv.87 】
「ねもと、いろは……」
そうだ、私の名前は、根本彩羽。
あの日、小さな男の子が道路に飛び出して、トラックに轢かれそうになっていたのを助けようとして……
私の今迄の人生で、楽しかったことはあっただろうか。
小さい頃に両親を亡くし、親戚の家を盥回しにされた。引き取っても、やっぱり面倒が見られない、そう言われて。やっと学校を卒業できて、良さそうな会社に入社して。けれど、人生はそう上手くはいかないとだいぶ思い知らされた。そして、トラックに轢かれて、生まれ変わったんだ。
それからの私は……まぁ辛いこともあったにはあったけど、楽しかった。魔族であることを隠してはきたけど、でもそれを知ったアンディは私を殺さなかった。マクスもカシアスも、悪さをしなければいいって言ってくれた。
あの吸血鬼は、人を殺していた。それが当たり前だと、そう言っていた。あの魔人は、魔王を誕生させようとして私に卵を食わせた。アイツも人間を恨んでいるような言い方だったし、魔族の全盛の時代を、だなんてきっと人殺しもするはずだ。
けれど……私は絶対、そんな事はしたくない。
その気持ちは、絶対に変える事は無い……!!!!
気が付けば、真っ暗闇だった辺りが一気に広がるかのように明るくなってきたのだ。
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