■14 アンディside
彼女と、初めて会ったあのヒュードルア洞窟。その湖から出てきた、銀色の髪の女性。
女神だと思った。
いや、馬鹿馬鹿しいと思うが、本当だったんだ。
こんなの、初めてだ。とても、彼女に心惹かれたんだ。
そして、連れて帰りたいとも思った。彼女は、頷いてくれて、本当に嬉しかった。けど……直前で彼女は洞窟を出る事を拒んだ。
「あの……!!」
口を利くことは出来ない、と思っていた彼女がいきなり声を発した。俺の服を掴んで。そして、何かを取り出した。細長く、銀の装飾がされたもの。
「お礼です。これ、貴方が持っていてください。絶対に手放さないで、肌身離さず持っててください」
どういった意味だったのかは分からない。でも、手放したくないのは君だと言いたかった。だが、彼女は……崖の上から飛び降りてしまったんだ。
彼女が渡したのは、俺達が探していたエクスカリバーの鞘の方だ。どうして彼女がそれを持っているのかは分からない。本体は? とも思ったが、最初に聞いた時には知らないと頭を横に振っていたのも覚えている。
彼女は言った、絶対に手放さないでと。
エクスカリバーを探してこいと言ったのは陛下だ。だけど、それでも、これを手放すことは出来なかった。
「イヴ……」
この名前を付けたのは俺だ。付けさせてもらえた事がとても嬉しく思う。だからこそ、また彼女に会ってこの名を呼びたい。ずっと、ずっと、そう思っていた。
そして、また会えた。
どうしてこんな所に、と思うより何より、嬉しさが勝って。そして、抱き締めた。あぁ、イヴだ。夢を見ているんじゃないかと思った。けど……それから、彼女は俺の首に牙を刺したんだ。いや、最初は分からなかった。ただ、首に痛みがあっただけで。気が付いたら彼女が噛みついていたことに気がついた。
どんどん俺の血が彼女の口に流れていく。何が何だか分からなかった。だがこれを止めなければと思ってはいても、彼女の何処にそんな力があるのかと疑うくらいの途轍もない強い力で押さえ付けられ、離すことが出来ない。
「……えっ」
そして、かかっていた力が急に無くなり彼女はずり落ちてしまった。
__信じたく、なかった。
「アンタさぁ、本当にいいのか?」
「言っただろ、俺が責任を持つって」
「……まぁ、アンタがいいならいいけど。けど忘れるな、あの子は吸血鬼なんだって事を」
それは分かってる、俺が一番、分かってる。襲われた張本人なんだから。
でも俺は、生きてる。襲われたが、殺されてはいない。
もし、何かあっても……いや、させない。俺がさせない。イヴを人殺しになんてさせない。
最初から、俺は魔族は全員殺すべきという陛下のお考えには賛同していない。何の罪もない魔族を、ただ魔族だからと殺すのは間違っていると俺は思っている。
だから、絶対そんな事はさせない。
「あぁ、そういえばあの吸血鬼事件」
あぁ、調査中のあの事件か。吸血鬼、イヴが吸血鬼だと知った時、全く疑わなかった。容姿からして違うんだ、しかも襲われたのは成人男性。彼女が太刀打ちできるはず……
「あれ、彼女がやっつけたんだと」
「……えっ」
「静寂の森まで投げ飛ばしたって聞いた。あとでそっちに人回すな」
……マジか。イヴが、吸血鬼を……まぁ、何となく理解はできそうだ。あの押さえつけられた凄まじい力。あの時は全然身体が動かせられなかった。吸血鬼だから、という事か。なかなか結び付けられない。
「……それより、どうだった」
「あぁ、調査結果な。メッド家、ソルトス家、そして最近、トンプソン家も秘密裏に奴らと会ってる」
トンプソン……あぁ、あの子爵か。確か、ハンターギルド長もしていると聞いたな。あそこは、情報が入りやすい。だから奴らはトンプソン家当主を味方につけたのだろう。こちらとしては厄介だ。
「引き続き、頼む」
「りょーかい。あ、イヴちゃんもご飯食べるってさ」
……ん? イヴも?
「……誰の」
「ん? マクスが」
……は? マクス? あいつのか? 名乗り出たか、彼女が選んだのか……?
「ぷっくくっ……」
「おい、本当のことを言え」
「え? だぁかぁらぁ、ご飯食うって言ってんじゃん。血、なんて一言も言ってねーぞー」
あ、期待してた? と言ってくるその顔を無性に全力で殴りたくなった。
吸血鬼は普通の食事も出来るけど、お腹は満腹にはならないらしい。でも、今はお腹はいっぱいだそうだ。
それを理解した時、段々恥ずかしくなって、顔が熱くなってきた。
お腹いっぱい。…………俺のか。
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