■12 再会
お腹が空いた。
それは、私にとっては長く長く続くものだ。
まるで、一人砂漠に取り残されているような。
喉は渇いて渇いてしょうがない。そして、身体の中のすべての体液が沸騰しそうなくらいに熱い。とても速いスピードで、身体の中のありとあらゆる血管に流れていく、だれか、だれかこれをとめて……
__そして、見つけたのだ。
私がずっと、ずうっとほしかったもの。頭の中ではそう思っていなかったけど、身体が、本能が、ずっと探し求めていたもの。
「……イヴ? イヴなのか……?」
そんな、私を呼ぶ彼の声は、今の私には聞こえない。手を伸ばして、彼の大きな身体を抱きしめた。
「会いたかった、けど、どうして……ここ、に……!?」
彼が、私のおかしな行動に気付くのが一歩遅かった。もう、私の牙は彼の首元に刺さってしまっていた。
そう、これ。これが欲しかった。
欲しくて、欲しくて、たまらなかったもの。
吸う度に喉が潤い、身体の中に染みわたる。暴れまわっていたものが。次第に落ち着きを取り戻して、きて……
それから、私の記憶は途切れてしまった。
目が覚めた。
口元と、手足に違和感がある。……ベッドの上に、転がされている……? ……私、どうしたんだっけ。
口の中に残る、あの、最上級の血の味……あの人の、血だ。
あぁ、そうだ。昨日、夜に見かけた途端に体の中が熱くなって、そして……待て待て、もしかして私、あの人襲った? 記憶はあいまいだけど、この状況からしても、可能性大じゃない……?
やっちまった……でも、止められなかったんだからしょうがなくない? しかもこれ初めてだし。それより、お兄さんの方大丈夫かな。あの日、別れ際に渡したあのエクスカリバーの鞘、失血しない魔法がかかってるらしいけど、持っててくれてたかな。私、人殺しとか勘弁なんだけど。あ~も~安否確認させて!!!
でもここ、どこなんだろう。見た所、宿の一室みたいだし……というかこれ、手足押さえてるこの拘束具! 地味に痛いんですけど!! 私が魔族だから、気持ちはわかるけど!! でももう少し痛くないのありません!! ……ん? ちょっと待て。
何で私、生きてるの……?
だって、退魔のエクスカリバー探してた人達だし、人間達にとっては敵というポジションでしょ? なのに何で私魔族で襲ったのに今生きてるの? わざわざこんなの付けて捕らえてるの? まぁありがたいんだけどさ、これ考えるとだいぶ背筋が凍る。
そんな時、この部屋のドアが開けられた。拘束されていて見えづらかったが、あの三人だった。私が起きていた事に気付き二人が剣を向けるが、アンディに剣を降ろせとキツく言われ、渋々鞘に納めていた。
それから、アンディが私の顔の方まで近づいてきたのだ。その行動に二人は驚くが、彼は無視。そして私の口の拘束具を解いたのだ。
「イヴ、君は本当に吸血鬼なのか」
確かに他の吸血鬼とは違う所が多い。だが、私に牙がある事はこの人は良く知っている。襲われた張本人なのだから。だけど、こう聞いてくるという事は、信じたくないという気持ちがあるからなのだろう。けれど、私が吸血鬼である事実は本当の事なのだ。頷く私を見た彼は、とても悲しい顔をしていて、その感情が私に伝わってくる。
彼は、「そうか」の一言で黙ってしまった。
私は、これからどうなってしまうのだろうか。私は、死刑対象なのはよく分かっている、勿論私は死にたくはないに決まってる。でも、どうしてだろう。
__この人になら、殺されてもいい。
そう、思ってしまうのだ。血が格別だったから? とても美味しい血を飲ませてもらったから? 分からない。
__吸血鬼としての、本能。
うん、そうかもしれない。
「ごちそうさま…でし、た……」
彼に向かって、笑って伝えられた。どういった意味でこう言ったのか、まで伝わっただろうか。
彼は、泣きそうな声でこう言った。
「ごめん」
その謝罪は、どういった意味で言ったのか。その答えはすぐに出た。
「アンディ!!!」
何かを唱え始めるアンディ。手足の拘束具が光り出し、ガシャンと音を立てて外れてしまった。魔法道具の様なものだったのか。けど、どうして魔族の私を……? その瞬間、抱き締められた。しっかりと、絶対に離さないと言っているように。
会ったのは、これで二度目。なのに、情でも湧いたのか? それとも、エクスカリバーが目的か? でも、それなら普通聞くのが先だ。
「アンディ、私情ですか」
「責任は俺が持つ」
その言葉に、二人は長い溜息をついた。でも、笑っているようで。慣れているように見えるのは間違いか?
「君、どうしてここに?」
マクスが、以前は洞窟にいただろう、と聞いて来て。ちゃんとした生活がしたかった、が正解ではあるが……それだと何か怪しまれる気がする。ならここは……
「会いたかった」
うん、これもまぁ正解っちゃ正解か。本能的にこの人捜しちゃってたし。だが、次の瞬間、アンディが顔面真っ赤にしていた事に気が付いた。おっと、これはどういう意味なのかな? 二人もまた、溜息ついてるし。
【28歳男性 血液型:AB型】
甘酸っぱさ:★★★★★★★★★★★★★
栄養:★★★★★★★★★★★★★★★
旨味:★★★★★★★★★★
鼻血が出るほどの甘さです。飲み過ぎには気をつけましょう。
わぁお、バグった。壊れたぞこの人。進化しすぎだろ。大丈夫かよ、心配するレベルだぞこれ。1、2、3……甘酸っぱさ★13ですって! 鼻血出るほどって、甘酸っぱいチョコレートかよ。
【STATUS】
根本彩羽 Lv.87
わぁお、こっちもだった。遂にシステムウィンドウが壊れたぞ、修理しなきゃ。誰に頼めばいい??
いや、まさか。と半信半疑で顔を覗いてみた。アンディの。けど……慌てて背けられた。え、マジ? マジなの? 二人は呆れてるし。だって、二回よ? 二回しか会ってないのよ? マジですかぁアンディさんよ。まぁこの顔整っているとは思うけどさ。でも……えぇ~?
ちょっと意地悪心も入れつつ、確認の意味を込めて笑顔で抱き着いてみた。
「ッッッ!?」
……いや、驚きすぎだって。茹だりそうよ? 大丈夫? そっちの二人笑い堪えてるよ? あ、やべ、うつりそう。
「ぷ……くくっ……」
あーやば。私も顔に出ちゃった。でも、つい、よ? 決して馬鹿にしているわけではない……が、彼はそう思っているようだ。そう、視線を送ってくる。だが顔は真っ赤なまま変わっていない。
こんなに心から笑ったのはいつぶりだっただろうか。日本でも、働き詰めで余裕はなかった。あはは。だから、とても心地いい。
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