■10 お前よっわ
私は吸血鬼だ。
そう、魔族。
だからこそ、この事実は誰にも知られてはいけない。
そうすると、必然的に人気のない場所を選び宿に戻る事になるのだ。
「今日の餌けってー、お前美味そう」
巷で噂の、こいつと遭遇する確率がぐんと上がるという事だ。
黒髪、そして闇夜に光る赤い瞳。そう、鋭い牙を持った、吸血鬼。
住宅街の外れの建物の屋根からそんな声が聞こえて、いきなり私の目の前に勢いよく降りてきたのだ。突然の事ではあったが、ちゃんと私は捕まることなく後退し距離を取った。そんな私の行動に、首をかしげる吸血鬼。
「お前、女の癖してそんなに動けんのか。……捕まえがいのある奴だ」
「貴方、数日前にこの近くで人を殺した犯人?」
「殺した……あぁ、あの男か。ありゃマッズかった」
正解だ。こいつだ。こいつがやったんだ。
「……待てよ、お前、その匂い……」
くんくんと匂いを嗅ぎ始めた。ちょっと、何してるのよ。変態だなこいつ。そんな性的嗜好があるって事? なぁんて思っていた時、奴はいきなり高笑いをしてきた。なぁんだ、そう言って私を見てくる。
「同族かよ、お前」
いや、お前と一緒にしないでほしいんだけど。それに何より吸血鬼ではあるけれど見た目とか全然違うし、昼間も外に出られるし。アホかよ。
「人、殺さないで」
「はぁ? お前、同族の癖に何言ってんだ。人間だぞ? 餌だぞ? 残さず完食するのが食事のマナーだろ」
いやいやいや、それはちゃんとしたテーブルマナーだから。残さず食べましょうとか、それはご飯の時のマナーだから。お前ホント馬鹿だな、こっちが心配しちゃうわ。こんな奴と同じ吸血鬼って分類されるのマジ癪に障るんだけど。
「人、殺さないで」
「だぁかぁらぁ! 食事だってんだろ。文句言うんだったらさぁ……」
いきなり、その場に立っていた奴が消えた。そう、間合いを詰めてきたんだ。2秒くらいの時間だったか。そして、彼の手は、私の首を鷲掴みしようとしていたのだ。
その手を、私は払った。そして、もう片方の手で拳を作り、殴った。恨みたっぷりで。マジふざけんなっつの。そんな怒りやら何やらを全部拳に乗せて。そんな思いが大きすぎたのだろう、殴った奴は吹っ飛び壁にめり込んでしまった。あっちゃー、やりすぎたか。
幸い、建物ではなく頑丈な煉瓦の壁だったから安心。さてさて、奴は……あ、気絶してない。
「てッ……めぇッ……」
「私はそんな名前じゃないよーだ。お前弱すぎ。そんなんじゃ彼女出来ないよー」
あ、その顔は図星か。まぁ彼氏いない歴=年齢の私が言える立場じゃないのは分かってるけどさ。
ちょっと脅し入れようかな、そう思い立ち上がれない奴の目の前に仁王立ちした。そして、暴言を吐いてやろうとした。のに……何故か、心の中に誰か一人いるような、その人が私の口を使って言葉を発しようとしているような、そんな感覚が襲ってきた。
「お前のような、人の血を貪り吸い尽くすような奴に、人を襲う権利は微塵もない。
__孤独の中で、餓死して死ね」
奴の首を引っ掴んだ。奴は震え、私の腕を掴めずにいて、顔は……まるで恐ろしいものを見たかのような、そんな顔だ。
私は、空目がけてぶん投げた。その方向は……静寂の森だ。
今のは何だったのだろうか、だが今の私はそれを気にする気分ではなかった。ま、いっかと流したのだ。
「さ、帰ろっ!」
【 スキル:権力者の眼光 を使用しました 】
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