■1 ここはどこだ!?
私、根本彩羽は平凡な会社員。因みに25歳だ。平日は会社で働き、休日はアニメやゲームで楽しんでいた。そう、私はそう言った人種である。いやぁ、とっても楽しい人生であった。……そう、であったなのだ。
「一体ここどこぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
少し寒さを感じる真っ暗闇。ぽた、ぽた、と上から地面に出来た水溜まりに落ちる音が響き渡る。きっとここは外、そしておそらく洞窟の中だ。こんなに私って夜目が効いただろうか。
……というよりも、何なんだこの浮遊感、は……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
いきなりの降下、そして地面に落とされた。イタタタ……
「んぅ、ってなにこれっ!?」
手!? 手なのかこれって!? でも何でこんなに薄っぺらくてこんな形してるの!? こんなの、まるで……
まさか、と思いつつもパタパタと手を動かしてみる……と、身体が浮かんだではありませんか!! わぁ、空を飛ぶってこんなに楽しい事なのね!! そしたら、温かい天気の中風に乗って飛んでみたい!!
そうと決まればやる事は1つ!! この洞窟からの脱出だっ!! ……いやいや待て待て、それよりも一番に考えなくてはいけない問題があるだろう。
私、どうして飛べるのっっっ!!
これ羽根だよね、飛べたんだもん確実に羽根だよねっ!! じゃあどうしてこんなもの私に生えてるんだってなるよね!! 足も胴体もこんなだし、これ夢!? いやいやさっき落っこちてすごく痛かったし。
私の中で1つだけ思い当たる点があるけどさ。いやまっさかぁ、でもここに来る直前の記憶ないんだよねぇ。そういうのってトラックに轢かれたーとかナイフで刺されたーとかで死んで、ってのが普通じゃん。
でも今自分体験しちゃったし。まごう事なきあれじゃん。
「ステータァァス!!」
その呪文を唱えた。半信半疑ではあったけど。でも、当たりだった。
目の前に、出てきたのだ。半透明の四角いものが。ゲームとかで出てくるアレが。
「はい、認めます」
異世界転生、しちゃいました。ちゃんちゃん。……じゃないわ。
起こってしまった事は仕方ない。どれどれ、と目の前に現れたものをまじまじと見てみる。
STATUS
根本彩羽 Lv.1
種族:コウモリ
__________
飛行:Lv.1
吸血:Lv.1
治癒:Lv.1
うわぁ、ナニコレ。雑魚いというか何というか。ま、まぁ普通のゲームでコウモリなんてこんなもんよ。悲しいけれど、どうしてコウモリなんかに転生してしまったのだろうか。と言っても自分ではどうにもならない事なのだけれど。
さて、この世界で私コウモリはどんな位置づけなのだろうか。動物と言ってもスキルを持っているからなぁ。魔物、とか? 異世界ってそんな感じだよね。まぁ魔物と言っても危険視されないタイプだけどね。幸い、というか何というか。
「……何か、すっごくお腹空いた」
コウモリのご飯って何? 虫とか言わないわよね、止めて、ほんと。そんな空腹感の中パタパタと羽根を動かして洞窟の中を徘徊。……ん? 何だか良い匂い。身体が無意識にその匂いを辿ったのだった。
すると、何かが聞こえてきて。金属のぶつかる音、と……人間の声? それも複数。こっそりと、気を付けながら覗き込む、と……うわぁ、何あの怪物。尻尾と角のある大きな怪物と、それに剣を向け戦う男性2人。あと近くで座り込んでいる手負いの男性。おぉ、まさに異世界って感じ。
気が付いた、この良い匂いとは、あの怪我している男性からしていると。そう、たぶん血だ。ここに来てさっきまでの空腹感がより一層増す。
あぁ、飲みたい、飲みたい。
ちょっとだけなら、いいよね? 今弱ってるし、あと2人は戦ってるし。そんな事を思いながら背後から近づく。
「っ!?」
彼が気が付いた時にはもう遅かった。
傷に、口をあーんと開き噛みつく。手で払おうとして来たけど、くるっと避けてもう1つの傷にもかぶり付いた。彼が私を掴みに来たところで逃げたのだった。
自分の今出せる全速力でその場から退散。追ってこない、良かったぁ。
あーごちそうさまでした。何だか、フルーツジュースを飲んでいるような、そんな甘い味がした。これは癖になりそうだ。
【レベルが1上がりました】
目の前にそう書かれたウィンドウが現れた。血を飲んだだけでレベルアップ出来たなんて。まぁでもまだLv.1だ。レベルアップ出来る経験値が少ないのだろう。どれどれ……【レベルが1上がりました】……おぉ?
【レベルが1上がりました】
【レベルが1上がりました】
おいおいどういう事だ!? 何でこんなに出てきてるの!? ステータスっ!!!
STATUS
根本彩羽 Lv.5
種族:コウモリ
__________
飛行:Lv.5
吸血:Lv.5
治癒:Lv.5
一気に4つも上がった!? 何と美味しい経験値!! 血も美味しかったけど!!
そう喜んでるのもつかの間、いきなりもう一つウィンドウが私の目の前に現れた。
【吸血鬼への進化が1分後に行われます。54秒/1分】
えっ!? 進化ですかっ!? い、今から!? 拒否権とかないのね!?
慌てふためてるともう54秒なんてすぐに経ってしまっていて、白い光に包まれた。眩しすぎる、誰かサングラスを持ってきてくれ!! そんな馬鹿な事を思いながら耐えていると、少しずつ収まってきた。そして、やっと光が落ち着いたと思うと、今までの視野とは違った景色が広がっていた。
あれ、なんか背が高くなってない? さっきのコウモリの時の高さと全然違う……あれ、手!? 25年間慣れ親しんだ5本指の手が生えているではありませんか!! そうだよ、君だよ君!! 来てくれてありがとう!! 足もちゃんと生えてる!! ……いやちょっと待てよ、なんで……こんなに寒いんだ。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そんな女子力の欠片もない叫び声が洞窟の中に響き渡った。いやいや、そんなもの私求めてないから。え、何故? それはですね……服着てないんです!! 私!! 裸なんです!!
おかしいと思ったんだよ!! なんか素足だし!! 寒いし!! これどうすんじゃっっ!!
【警告】
「あ?何だこっちはそれどころじゃ……【モンスターが接近しています】……それどころじゃなかったっ!!」
えぇどうすんのさ!! モンスターなんてかわせないよっ!! さっき見たあんなモンスター倒せるわけないじゃん!! とか何とか言っている間にもう急接近されていた。目の前にまで来ていたんだ。こんな時ってスローモーションに見えてくるって言うじゃない、まさにそれよ。え、異世界転生して1時間しない内にジ、エンド? うーわ何それ。……って、思ったら。
「……え?」
どっかぁぁん!!
重たいものが上から地面に落ちる音。それに合わせて地面が少し揺れた。そっと目を開くと……急接近していたモンスターが後ろに倒れていた。そして、一部分がへこんでいたのだ。え? と不思議に思っていたら……【レベルが1上がりました】
【レベルが1上がりました】
【レベルが1上がりました】
え、何でこんなにレベルが上がってるのさ。3も上がっちゃったよ? 血も飲んでないし……と考えていると、あれ、まさか。まさかのまさか。
「私、そういえば殴ってたかも……」
確かに、手は出してた気がする。咄嗟だったけれど。え、それで倒したの? 私がこんなデカいモンスターを。一発殴ってモンスター倒すって……いいのか、こんなので。
STATUS
根本彩羽 Lv.8
種族:吸血鬼
__________
飛行:Lv.5
吸血:Lv.5
治癒:Lv.5
打撃:Lv.3
目利き:Lv.2
あら、ほんとだった。何この打撃って。ちょっとカッコいいな。只の25歳会社員のパンチだったんだけどな。ま、いっか。それよりも、気になる点が一つ。
「目利き?」
目利きって、あれだよね。野菜とかで美味しいの見極めるやつ。え、何に必要なのだろうか。……分からん。というより、ここは『鑑定』とかだよね。鑑定で此処がどこなのかとかそういう展開だよね、普通。何? ケチなの?
そんな時、音が聞こえてきた。足音だ。……足音ぉぉぉ!?
絶対あの男の人達だ絶対そうだ!! だってすぐそこにいたしこの足音は1人のものじゃないし!! どうするどうする、こんな裸な私を見られるなんて耐えられない!! 変態扱いされる絶対される!! それに何より私が恥か死ぬっ!! 生きていけないっ!! ……あっ。
何かに、足を取られた。さっき倒したモンスター? 違かった。どぼん、そう音を立てて水の中に。そう、近くに湖があったのだ。暗くて気が付かなかった。何とか持ちこたえて頭を水面に出した。あぁ、水泳やってて良かった。ほんと良かった。水に溺れて死亡とか嫌だよ。あ、さっきの人達だ。手負いのお兄さんもいる。
「さっき女性の声がしたと思ったのだが……」
「この先でしょうか」
「待ってください、このモンスター……」
あーららぁ、あの悲鳴を女性って思ってくれたのね。良かった良かった、じゃなくて。見つからないよね、大丈夫だよね。ここで見つかったら私殺されなくてもこの世界で死んだも同然な人生になっちゃうんだから。
………おや?何だかシステムウィンドウが出現してきたぞ?
【血液型:A型 酸味:★★ 栄養:★】
【血液型:O型 甘味:★ 栄養:★★】
いやいや、そんなのいいから。いらないから。これか、目利きのスキルは。え、何。この人の血は美味しいですよーって? いやいやいらない情報だから。……いや、待て、あの人……
【血液型:AB型 旨味:★★★★★ 栄養:★★★★★】
何あの人★5つとか最高じゃん!! じゃあ吸血鬼に狙われまくりでしょ逆に心配になってきちゃったよ大丈夫!?
待て、あの人ってさっき私が飲んだ血の人じゃない? あーあれかー、美味しかったな、超絶美味。うんうん、あの数値は頷ける。あとちょこっとだけ飲ませてくれないかなーとか思っちゃう。
さっき私が倒したモンスターをまじまじと見てるところを見ると、多分直ぐには立ち去ってくれないだろうなぁ。あ、やばいこっち見る。すぐに空気を思いっきり吸い込んで水の中へ。
さて、どうしたものか。あの人達が行ってくれないと私ここから出られないんだけど……ん?何あれ、あの奥底に光ってるやつ。
気になり、足を動かしその光まで進んでいった。……鞘?これ、剣を納めるやつだよね?うわぁ、結構手が込んでるなぁ。青にシルバーの細工がされててかっこいい。これ売ったらいくらになるんだろ。
まぁ、これは軍事資金として回収しておこうかな。
【推奨】
おぉっと、今度は何だねシステムウィンドウ君よ。
【スキル:収納空間】
へぇ、そんなのあるんだ。じゃあ、これは……あ、出た。収納空間と書かれたシステムウィンドウ。その中に思いつきで鞘を差し込んでみたらビンゴ。ウィンドウの中に入れたら向こう側に出てきてない。すごい、これが異世界の力なのね!!
……へっ!?
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○収納空間
・エクスカリバーの鞘
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エクスカリバー、だとぅ!?
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