怪盗の所以
第4話です!
創太達がいよいよ異世界へとやってきます。果たして世界を救うことができるのか?
それでは本編をどうぞ!
「着きましたよ。創太さん、弥生さん」
「ここが?…って何だこれ!?」
「酷い…」
俺達の目の前に広がった景色に俺と弥生は絶句する。
建物は崩壊しており、辺りに人の気配がまるでない…おそらく何かの街だったのだろう、崩壊している建物からは食べ物やアクセサリーのようなものが見え隠れしている。
「コア、この世界は一体…?」
「この世界は所謂ファンタジー世界です。それも勇者と魔王が戦う王道的な世界ですよ。おそらくこの街は魔王軍によって破壊されてしまったのでしょう」
「クローザーじゃないのか?」
「違います。クローザーは物語の亀裂ですから、物語の重要なポイントに潜んでいることがほとんどです」
「じゃあ、ここが重要なポイントだったりもするんじゃ…」
「私がクローザーを観測したのは勇者と魔王の戦いの場面ですからね…つまり、消えてしまっている未来は勇者が魔王に勝利し、世界が救われるハッピーエンドということ。この場所はさほど重要なポイントではないでしょう」
「だから、クローザーの仕業ではない…」
だけど、こんな場所を見てしまったら、安心なんかできっこない。
「兄さん…大丈夫?」
「大丈夫ではないな…弥生は大丈夫か?」
「私も大丈夫じゃないかな…こんなの酷すぎるよ」
「あぁ、そうだな」
俺達の倒すべき存在はクローザーなんだろう…だけど、魔王軍も碌なものじゃない。俺達にとっても魔王軍は敵と思っていた方が良いかもしれない。
いや、魔物や、下手すりゃこの世界の人達も俺達の敵かもしれない……まったく、何でこの考えに至らなかった…俺達が戦わなければならないのは、なにもクローザーに限った話じゃないというのに。
色々と反省点はあるけど、とりあえずは情報を集めないことには始まらないか。
「まずは人の居る所に行こう…情報を集めておきたいし」
「このままクローザーを倒しに行けばすぐに解決するのでは?」
「あのな…俺達は今まで戦いなんて経験したことなんてないんだぞ?いきなりクローザーと戦っても死ぬ可能性の方が高い。それに、俺達の敵はクローザーだけじゃなさそうだし、この世界の魔王軍や魔物について知っておきたい」
「随分と慎重ですね…ですが、勢いに任せて自爆されるよりはマシでしょう。わかりました、では人の居る所まで案内します」
「わかるのか?」
「えぇ、一応管理者ですからね。この世界のすべてを知っているとまでは言いませんが、重要な拠点などは把握してますから」
「お前のことを初めて頼もしく感じたよ」
「下がりに下がった株は、活躍して上げていきますとも。それでは私に付いてきてください」
そう言いながら、コアはフワフワと浮かんで進んでいく。
本って飛べるもんなのか?いや、コアは一応神だし、あんまり不思議でもないか。
まぁ、とりあえず俺達も行かないとだな。
「…弥生、手を」
「へっ!?」
「迷ったら大変だろ?」
「そ、それもそっか…じゃあ」
そう言って、弥生は俺の手に自分の手を絡める。そうして繋がれた手は恋人繋ぎのようになる。
何故、恋人繋ぎ!?これも弥生なりのアピールみたいなものなのだろうか?
まぁ、弥生が安心するならそれで良いか。
「ほらほらお二方、イチャついてないで早く行きましょう」
「玄信みたいなこと言うなよ…」
そういえば、玄信と紡木に頼んだ荷物は大丈夫だろうか…ま、2人は人の荷物を奪うような奴らじゃないし大丈夫か。
2人は今頃どうしてるかな…早く、元の世界に帰らないとな。
そんなことを思いながらコアの後を付いていくと、だんだん森の中へと入っていく。
なんか魔物とかが出そうな森だな…気をつけて行かないと。
「…創太さん、弥生さん、下がってください。どうやら敵のお出ましのようです」
「あれは、魔物?…弥生、隠れるぞ!コアも早く!」
「わかった!」
噂をすれば何とやらか…俺はすぐさま弥生とコアを引っ張り、近くの茂みに身を潜める。どうやら敵はまだこちらに気づいていないようだ。
あれは、巨大な獣…?ベヒーモスか?何であれ、あんなのと真正面からやり合っても勝てる可能性は低そうだ。
うん?何だ…?あの獣の中に宝石みたいなものが見える。
「なぁ、コア…魔物の中に宝石が見えるんだけど、魔物は皆宝石を持っているのか?」
「なるほど…もしかしたら、それは魔物の核かもしれませんね…試しに、核を盗み出してみてください」
「無茶言うなよ!というかどうやって盗むんだ?」
「見えている宝石を盗むというイメージで、宝石に触れればいけますよ!ただし、ある程度近づかなければ意味を成さないのでご注意を!」
「マジか…まぁ、試す価値はあるか?」
上手くいけば、怪盗の能力を把握できるかもしれないし…正直怖いけど、兄として妹にカッコ悪い所は見せられないし、とりあえずやるだけやってみよう。
万が一の時は全力で撤退すれば良いし。
「よし、行くか」
「兄さん、気をつけてね」
「わかってる。心配してくれてありがとな」
そうして、茂みから音を立てずに飛び出す。そして、移動する魔物の後を追いかける。
そういえば、あの魔物の嗅覚ってどうなってるんだ?もし、嗅覚が鋭いならすでに俺達の存在に気づいている可能性もあるか。
だとすると、何故俺達を襲ってこない?もしかして、テリトリーに誘いこんでる?
それとも、そもそも嗅覚が鋭くない…?うーん、わからないな…でも万が一ということもあるし、何か策を考えてみよう。
怪盗のジョブの力で、何か創ってみるか…今の状況なら、音爆弾なんか良いかもしれない。音で呼び寄せて核を盗む…これなら危険も少ないかもしれないし。
よし、そうと決まればさっそく創ってみよう。出来るだけ音が小さい、あの魔物が気づくぐらいの音爆弾を。
そんな音爆弾をイメージして創り出す。すると、手に小さめの音爆弾が現れ、その導火線には火がついていた。
すでに火がついた状態で出てくるの!?やば、早く近くに転がそう。
そうして、再び茂みに姿を隠し、音爆弾を茂みの外に転がした。
音爆弾を転がして、しばらくすると音爆弾が爆発し、ちょうど俺と魔物の周辺に音が響く。
その瞬間、ベヒーモスのような魔物が一目散に音のした場所に向かってくる。幸い、俺には気づいていないらしい。つまり、あいつの嗅覚はそこまで鋭くない。
「よし、それじゃあ頂いていく!」
茂みから飛び出した俺は、魔物の中に見える宝石をそのまま奪っていく。すると、魔物は塵となって消えていった。
コアの言うとおりだったってことか…とりあえず、やることはやったし、一旦2人に合流しよう。
にしても、怖っ!あんなのと真正面からやり合ったら死ぬ!音爆弾の方にすごい勢いで走ってきたもんな…あそこに自分が居たかもしれないと思うと恐ろしい。
そんなことを思いながら、歩き続け、茂みに隠れている2人を見つけた。
「2人共大丈夫か?」
「お帰り、兄さん!怪我してない?」
「大丈夫だよ、ありがとう……そうだ、コア、お前の言う通り宝石を盗ったらあの魔物が消えた」
「やはり、そうでしたか…盗った核はどうなりましたか?」
「ただの宝石のままだけど?」
「なるほど、ではしばらく持っていてください」
「わかった。そういや、これは怪盗の力なのか?」
「はい、その通りですよ。しかも、あなたはとても怪盗のジョブと親和性が高い、正直私の想像以上です」
「そうなのか…?そういえば、そもそもジョブってどういう基準で選ばれてるんだ?」
今まで疑問にすら思ってなかったけど、そもそもジョブを選んだのって俺達じゃないんだよな…だから、少し気になった。
「目的地に行くまで時間もありますから、歩きながら説明しましょう」
「頼んだ」
「あなた達のジョブは、あなた達の心からの願望を基に、最も相性の良いものが選ばれます」
「心からの願望…?じゃあ、兄さんは怪盗になりたいって思ったから怪盗なの?」
「その可能性は高いですね…ただ、何かしたいことがあって、それを叶える為にはそのジョブが必要、というパターンもありますから、一概には言えないんです」
「あ、それはわかるかも。私も回復師になりたいっていうよりは、兄さんの力になりたいっていう想いの方が強いもん」
「だから、創太さんの支援が可能な回復師が弥生さんのジョブになったのでしょうね」
「兄さんは怪盗になった心当たりとかある?」
「心当たりか…」
俺が怪盗になった理由として、パッと思いつくのは怪盗シャインの本にハマったことだな。
まぁ、小さい頃から怪盗の本を読むことは好きだったけど、それが最近になって再熱したって感じか。
小さい頃、物語の怪盗がカッコ良くて、俺もいつかはあの物語の怪盗みたいに弱きを助け、強きを挫く…そんな存在になりたいと思ったもんだ。
あ、なるほど…これが俺が怪盗になった理由か。
「兄さん?」
「…俺が怪盗になった理由は、多分小さい頃の憧れだな」
「確かに兄さんって、小さい頃から怪盗ものの本が大好きだったもんね」
「まぁな……黒歴史みたいでちょっと恥ずかしいけど」
「創太さんにもそんな時期があったんですね。ですが、良いと思いますよ!中二病みたいで可愛いですし」
「それは褒められてるのか?まぁ、気にしないけどな」
「ふふふ!あっ、もうすぐ目的地に着きますよ」
コアのその言葉を聞き、目の前の建物に視線を移す。
「これは城…?」
「ここは魔王軍から逃げ延びた人達を保護している砦ですね。おそらく逃げ延びた人達はここに集まっているはずです」
「なるほどな…それじゃあ行ってみよう…あ、そうだ!コア、1つ頼みたいことがあるんだが…」
「何ですか?私なら、大抵のことは出来ますが…」
「それは……」
そうして、俺はコアにある頼み事をした後、2人と一緒に砦の中に入っていった。
といった感じの第4話でした!
それでは、今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!