ストーリー・ワールド
第3話です。
創太と弥生が召喚された世界で、コアから説明を聞く話です。
それでは、本編をどうぞ!
「さて、どこから話したものでしょうか……そうですね、とりあえず、この世界の成り立ちとか細かい話は一旦置いておいて、まずはストーリー・ワールドについてお話ししましょう」
「よろしく頼む」
「お任せあれ!このストーリー・ワールドはいくつもの世界を物語として保管している場所です。例えばこのような形で」
そう言って、コアは空中に浮いているシャボン玉を1つこちらに近づける。
そのシャボン玉に触れると、中世ヨーロッパのような景色が広がり、その世界に生きている人々の営みが直に伝わってきた。
「兄さん!大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ…それにしてもびっくりした…マジでこのシャボン玉に世界が保管されてるのか…」
「えぇ。そして、私は保管してある世界に異常が発生しないように管理をしているというわけです……ただ…」
「ただ?もしかして、私達に言いづらいことでもあるんですか?」
そう睨みつけるように言い放つ弥生に、コアは汗をダラダラと流す。
本から何で汗が流れるんだろうか?という疑問はさておき、確かに引っ掛かる言い方だ…何か不都合なことでもあるのか?
「2人してそんな睨まないでくださいよ…実は、最近になって、物語に亀裂が生じているんです。ある特定の場面に亀裂が入り、それ以降の物語の先が消えてしまっているんです」
「というと?」
「例えば、アイスを買って家に帰る少年の話があったとしましょう。その話のアイスを買う場面と帰る場面の間に亀裂が入ると、アイスを買っている所で物語が途切れ、家に帰る場面が消えてしまう…これがいくつもの物語で起きてしまっているのです」
「それって物語が成立しなくなるんじゃ…」
「えぇ、その通りです。だからその危機に対抗する為に、私は素質のある人達を、物語を修復するもの、フィクサーとして召喚することにしたんです」
「それがフィクサー?」
「そう私は呼称しています…つまり、貴方達はストーリー・ワールドの危機を救う為に、私に召喚された勇者のようなものということです」
なるほど…この世界についてや、俺達が呼ばれた理由についてはわかったな。
じゃあ次は根本的な部分を聞いてみるか…そもそも何でこの世界にこんな危機が訪れているのかってことを。
「そもそも何でこの世界はそんな危機的状況になっているんですか?」
俺が聞こうとする前に、弥生がコアにそう尋ねた。
「それは、私がクローザーと呼称している存在のせいです。クローザーは物語の亀裂そのもの、姿形は魔物のそれで、実体があるのが唯一の救いですが、この世界の存在では消し去ることができない厄介な敵です」
「この世界の存在では消し去ることができない…?一体どうしてだ?」
「クローザーは元々この世界に存在しないものですから、この世界の存在ではどうしようもないんですよ。だからこそ、クローザーに対抗するには同じく元々、この世界に居ない存在でなくてはならないんです」
「よくわからないんですが…?」
弥生はいまいちわかっていないようで、首を傾げている。かくいう俺もよくわからないけど。
「そうですね、わかりやすく言えば、ある一冊の本の一部を誰かが破いたとして、その破れたページを物語の登場人物達が修復できますか?」
「それは無理だろうな…」
「はい、その通りです。ですが、同じく物語の外側の存在なら、破れたページを修復できます」
「なるほど、つまりクローザーが本を破いた奴で、俺達は破れたページを修復する存在、だからフィクサーじゃないとクローザーは倒せない」
「そういうことです。理解が早くて助かります!」
「なるほどな…理屈としてはわからなくはないか…そういえば、俺達の世界はこの世界に保管されてないのか?」
「えぇ、保管されていませんよ。そもそもこの世界で保管しているものは、すでに完結した世界のみですから」
「つまり、俺達の世界はまだ完結していない世界ってことか…だから、今のところ、クローザーと同じ外側の存在ってことか」
「その通りです。世界が完結してしまえば、ストーリー・ワールドの一部として組み込まれてしまいますからね」
「とりあえずわかったよ…それで俺達はこれからどうすれば良いんだ?帰れるなら今すぐ帰りたいんだけど」
正直、理解は出来ても実際この世界の為に戦えるかと言われると難しいと言わざるを得ない。
そもそもいきなりこの世界に呼ばれて、よしやってやろうと思える人の方が少ないだろう。
俺1人なら構わないが、弥生を危険に晒すわけにはいかないしな。
「まぁまぁ、そう言わずに私に協力してくださいよ。このままではあなた達の世界にまで影響を及ぼすことになりかねませんし」
「「私(俺)達の世界にまで影響が…?」」
コアの言葉に弥生と同時にそう聞き返す。
「えぇ、このまま放置していればクローザーの脅威はあなた達の世界にまで及ぶでしょう」
「つまり、俺達に選択の余地はないと?」
「安心してください、ちゃんとあなた達が戦える手段を用意しますので…では、少し待っていてくださいな」
「ま、待て!まだ協力するとは一言も―――――」
そう口にしようとすると、俺と弥生が光に包まれる。
「一体何が…って、うぉっ!なんか格好が変わってる!弥生の方は?」
「兄さん、その格好似合ってるよ!まるで怪盗みたい!」
「怪盗…?確かにこの黒い革手袋とか赤いコートみたいな服とか、怪盗っぽいかも…弥生の方は女賢者?女僧侶?とにかくそんな感じだな。似合ってるよ」
「そうかな…?ありがとう、兄さん…でも、ちょっとこの格好恥ずかしいね…」
そう照れくさそうにしている弥生に思わず心の中で同意する。
弥生の格好は袖の短い白魔道士のような純白のローブにミニスカート、そしてスカートからはスラリとしたキレイな脚が伸びていて、右脚はピンクのニーソックスとスカートの間の絶対領域が目立ち、左脚はそのキレイな脚を惜しげもなく晒している…正直、目のやり場に困ってしまう。
「コホン、それでこれは一体何なんだ?」
「それこそが、あなた達がこの世界で戦うための力、《ジョブ》です」
「ジョブって、ゲームとかでよくあるシステムだよな…職業みたいなもので、そのジョブによって使える技が違ったりする…」
「その通りです。あなたの場合は《怪盗》がジョブで妹さんは《回復師》がジョブといった感じでしょうか」
「見た目的にそんな感じはするけど……ちなみに怪盗って何ができるんだ?」
「怪盗は1日、3つまで好きなアイテムを創れます。ただし、あまりに規格外すぎるものは創れません。例えば、核兵器やタイムマシン、エクスカリバーのような伝説の武器などですね。後は相手を一瞬で殺せる武器のようなご都合主義なものも創れません」
「意外と制限あるんだな…まぁでも、何でもかんでも好きなものを創って、あっさりお宝を奪っていったらそれは怪盗とは言えないもんな」
個人的に、怪盗はお宝を奪う為にいくつかの過程を踏んでいると思う。まずはお宝を盗む場所の下見、次に盗むための道具を作ったり、状況を整える。そして予告状を送りつけ、予告通りにお宝を華麗に盗む。
俺がイメージする怪盗はこんな感じだ。そういう意味で言えば、このジョブの能力は俺のイメージする怪盗の、道具を作ったり、状況を整えるという部分のサポートをしてくれる能力と言える。
「他にはどんなことができるんだ?」
「あなたが知っている存在に変装することができます。例えば、あなたの友人や、妹さん…さらには私の姿を真似ることもできます。ただ声や身体能力はあなたのままなので気をつけなくてはなりませんが」
「なるほどな…かなり怪盗っぽい!これはちょっとテンションが上がるな!」
いや、待て待て…一旦落ち着け俺。確かに怪盗になれたのはテンションが上がるが、このままだとクローザーってやつと戦うことになるんだぞ。
この状況じゃ弥生を巻き込むことになるだろうし、せめて弥生だけでも元の世界に帰さないと。
「…クローザーってやつとは俺が戦うよ。だから、弥生は元の世界に帰してくれないか?」
「兄さん!?1人で行くなんて無茶だよ!」
「それはわかってるけど、多分命がけだぞ?弥生を危険な目に遭わせるわけにはいかないだろ?」
「大丈夫!兄さんが居れば私は無敵だから!それに、私のジョブってヒーラーみたいだし、兄さんも回復役が居た方が戦いやすいんじゃないかな?」
「何だよその理屈…まぁ、確かに回復役が居た方が助かるけども……あぁもうわかった!一緒に行こう!ただし、絶対無茶だけはするなよ!」
「うん!わかった!」
満面の笑みでそう口にする弥生に呆れつつ、改めて決意を固める。
弥生のことは必ず守る…絶対にだ。それだけは心に刻めよ、俺。
「では、話はまとまったようですし。あなた達をクローザーの介入を受けている世界に飛ばしますね」
「一応、聞いておくけど、その世界を救ったら元の世界に帰れるのか?」
「えぇ、もちろん。その世界を救ってくだされば、あなた達を元の世界へとお帰しします」
「言ったな?約束は守ってくれよ」
「もちろんですとも!では行きましょう!そういえば、あなた達の名前を伺っていませんでしたね…あなた達のお名前は?」
「俺の名前は神白創太だ」
「私は神白弥生です」
「創太さんに、弥生さんですね。わかりました!あ、ちなみに、今から行く世界には私も同行しますのでご安心を」
「それは安心だな…付いてこないとか言ったら、今この場でお前を燃やしてやるところだった」
「ヒェッ!?なんて恐ろしいことを…まぁ、創太さんの憤りも当然でしょう。ですが、私もストーリー・ワールドを救う為に必死なんです…そこは理解してください」
「…わかったよ…さて、それじゃあ行こう!」
「では、ご案内しましょう」
そうしてコアが光り始め、大きな光の扉が現れる。
そして、弥生の手を引きながら、光の扉へと歩いていく。
一体この先にはどんな世界が待ち受けているのか、俺は弥生を守り抜き、元の世界へと帰ることができるのか…そんな様々な不安を抱きつつ、俺達は光の扉の奥へと進んで行った。
ちょっと長めになってしまいましたが、第3話でした。それでは、今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!