日常の一幕
連続投稿です。今回は、主人公の日常の一幕です。
それでは本編をどうぞ!
「それじゃあ兄さん、お昼休みに図書室で!ちゃんと来てよね!」
「わかった、それじゃあ昼休みに」
「うん、楽しみにしてる!」
そうしてどこか嬉しそうな様子で走っていく弥生を見送り、自分の教室に向かう。
学校に向かう途中、弥生の友人達と会ってから弥生の機嫌が直ったのは良いんだが、その時に――――
『弥生ちゃんと付き合っているって本当ですか!?』
『いや、付き合ってないけど…』
『じゃあ弥生ちゃんのこと、どう思ってますか?』
『恋人は居ますか?』
『いや、その…』
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―――
とまぁこんな感じで、弥生の女友達3人に色々と質問責めに合い、何だか疲れてしまった。
弥生の奴、友達に俺と付き合っているとか言ってるのか?
大丈夫か?絶対なんか誤解されてるよな…まぁ、弥生が何か言ったわけじゃなく、単に噂になっているだけかもしれないし深くは考えないでおこう。
そんなことを考えていると、いつの間にやら自分の教室へと辿り着いた。
そして、教室の扉を開け、そのまま窓際の後ろの自分の席に着く。
さて、ホームルームまでまだ時間があるし、本の続きでも読むか。
そう思いながら鞄から読みかけの本を取り出す。
この本は怪盗ものの小説で、最近ハマって読み進めている。
「よっ!創太!さっきぶりだな」
「あぁ、さっきぶり。今から本を読むから静かにしててくれ」
「なんという塩対応……まぁ、それでめげる俺じゃないけどな!で、何の本を読もうとしてるんだ?」
玄信が俺の席の隣に座り、そんなことを尋ねてくる。
…こいつはこうなると、俺がちゃんと話すまで同じことを聞き続けるからな…仕方ない、別に隠すようなことでもないし、話しても問題はないだろう。
「怪盗ものの小説だ。タイトルは『怪盗シャイン』、あらすじを簡単に説明すると、普通の会社員の主人公が怪盗となり、悪い奴らから華麗にお宝を盗んでいくという話だ」
「めっちゃ簡単にまとめたな……簡単にまとまりすぎて、どういう話なのかいまいちわかんないぜ」
「まぁ、もうちょっと詳しく言えば、主人公はある日自分の会社の脱税の証拠を見つけてしまう、そしてその脱税について公にしようとするんだが上からの圧力によってそれを揉み消されてしまうんだ。しかも、主人公はその会社をクビにさせられてしまい、その事件に関わることができなくなってしまう」
「ほうほう、それで?」
「そうして、正攻法では真実を明るみにすることができないと悟った主人公は怪盗となり、自分の元いた会社の悪事のデータを盗み出して、世間一般に公表しようと目論む。結果的にその悪事を公表することに成功するが、この事件にはもっと大きな黒幕が居ることを知り、その黒幕を探る為に怪盗を続けることを誓う……まぁ、こんな感じ」
「へぇ、そう聞くと面白そうな話に思えるな」
「実際かなり面白いぞ。タイトルも社員と怪盗名のシャインを掛けたシャレになってるし、物語の内容も結構面白いし、オススメだ」
「お前って昔から本とか好きだよな」
「あぁ、大好きだよ。本は俺にとっては結構大事なものだからな」
俺は幼い頃から本というものに触れる機会が多かった。両親は共働きで、俺と弥生は家で留守番することが多かったから一緒に本を読んだりもしたものだ。
もちろん、ネグレクトとか虐待なんかもなく両親はちゃんと愛情を注いで育ててくれた。
だけど、幼い俺達が寂しさを感じることがなかったと言えば嘘になる。そんな時、俺と弥生は父が趣味で集めていた本をよく読んでいた。
そして、お互いに自分の読んだ本について語りあったり、その後でお互いの本を交換して読んでみたり…まぁ、そんな風に両親が帰ってくるのを待っていた。
その習慣は今も残っていて、今日弥生と図書室に行くのも、お互いに最近気に入っている本をプレゼンし合う、所謂ビブリオバトルをするためだったりする。
といっても、そこまで本格的なものではなく感想を言い合ったりするぐらいのものだけど。
「おーい、どうした?急にボーッとして」
「いや、何でも…ちょっと昔のことを思い出してただけだ」
「そっか、俺もたまにそういうことあるな」
「そうなのか?ちょっと意外だな」
「俺にだってそんな時ぐらいあるんだよ。まぁ、確かに普段の俺からは想像できないかもしれんけど」
「それは言えてる」
「そこは嘘でも否定してくれよ…ま、そんな気にしてないけど」
「一応謝っとく、悪かったな…そりゃあお前だって過去に思いを馳せることぐらいあるよな」
「お、おう…まさか、そんな真面目に返されるとは思わなかったぜ…」
「お前を傷つけたかもしれないから一応な」
「真面目だな〜、それがお前の良いところでもあるけどな」
「そいつはどうも…っと、ちょっと用事あるから行ってくる」
「オッケー、んじゃ後でな」
「あぁ」
玄信と会話を終えて、廊下に出る。
「遅かったね」
そう声を掛けてきたのは小柄な黒髪のショートヘアーの少女、名前は如月結名、同じクラスの少女で高校1年生の時も同じクラスだった。
確か、図書室で待ちあわせしていたはずなんだけど、廊下で待っててくれたのか?
「ごめん。友人との話が長引いちゃって」
「良いよ、あんまり気にしてないから。それじゃあ行こ?」
「了解。だけど、俺が貸した本を返してもらうだけなのにわざわざ図書室に行くこともないんじゃ…」
この学校の図書室は俺達2年生のクラスがある2階にある。
だから行くこと自体はそこまで手間が掛かることじゃないんだが、わざわざ図書室にまで行かなくても良い気がする。
「神白くんは私の性格知ってるでしょ?皆の前で神白くんに本を返すなんて私のメンタルが死ぬよ…」
「まぁ、確かに如月さんが極度の人見知りなのは知ってるけどね…」
如月さんと初めて話した時もかなり緊張した様子だったもんな。
ただ、その時に如月さんが手に持ってた本が俺も読んだことのある本で、そこから打ち解けることができた。
こうして思い返してみると、確かに如月さんにとっては教室で俺に本を返すのはなかなか難易度が高いのかもしれないな。
「そうなんだよね…どうにか直したいと思ってるんだけど、なかなか難しくて…まぁ、神白くんとなら普通に話せるんだけど」
「そっか、まぁでも焦らなくても良いんじゃないかな、一歩一歩着実に前進していけばさ」
「そうだね…ありがとう、神白くん…神白くんは優しいよね」
「そうか?まぁ、そう言ってもらって悪い気はしないな…ありがとう。あっ、図書室に着いたみたいだ…入ろうか」
「うん!入ろっ!」
そうして、俺と如月さんは図書室に入り、本を返してもらった後、ホームルームにギリギリ間に合う時間帯になるまで話し続けた。