学園赴任 第1章①
「それはそうだけど、『出来ないこと』を教えてもね」
は?絶句した自分に、今度は向こうが目を丸くした。
「……何か勘違いしてる? というか、空くんさ、もしかして識学学校通ったことない?」
息をのみ、すぐに内心舌打ちした。これでは言葉を肯定しているのと同じだ。
王城で内心を悟られることは恥だった。
この国は全ての者へ一定の知識を与える事を推奨している。識学学校を出てない子供などほぼありえないのだ。
しかし目の前の内心を読ませない同僚は気にした素振りもなく頷いた。
「そっかそっか。なら仕方ないね。あのね、まず識学学校で教えるのは基本の基。空くんが教えようとしている事は識学学校のレベルじゃ無いんだ。君にとっては基礎だろうけど学生達には未知の世界の知識なんだよ」
ふっと視線が柔らかくなる。
「じゃあ何の為に私達『特別講師』がいるかって話だよね。たぶんこれも知らないだろうけど『特別講師』って特別なんだよ」
なんだその馬鹿な説明は。
「あははははは! 俺説明下手なんだよねえ」
屈託のない笑い声に毒気が抜かれた。
「空くんはこの後時間ある? 時間あるなら俺の部屋で説明させてもらうよ」
ここじゃ何だしね? ウインクをする同僚に空は迷った。持っていた資料は作業の途中だった。しかし同僚の話を聞かなければ資料を作り上げたとしても生徒のためにはならないのだ。
空は頭を下げた。
「ご教示お願い致します」
「任せて」
自分はまだ何も知らない。この場所でまずは出来る事を。空は改めて自分に喝を入れた。