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初めの村にて③

 祈りの塔の規模はあれども祈りの塔の造りは何処も同じだ。

 働く神官や弟子達のスペース、治療スペース、短期入院スペース、祈りの間と別れている。

 神官服でうろつくと村人達に凝視されるのは、神官職の位を持つ者が圧倒的に少ないからだ。

 この村は村と呼ぶには人口が多いがそれでも神官の位を持つ者は5人だ。

 見知らぬ神官が居れば興味を持つのは当然だろう。

 それ程祈りの塔は生活に密着している場所だった。

 体調の変化だけでは無く、情報交換の場である。

 祈りの間は故人と話す場だけでは無く、所謂井戸端会議の場所でもあった。

 ヒョイヒョイと好奇心の目をかいくぐり、空は食堂の入口へと辿り着いた。

 重厚な木の扉を開けると中は簡素な造りだ。

 見回すと座り心地の悪そうな丸い椅子に同じ木を使ったテーブルが置いてある。

 ざっと20人は一緒に食事が取れそうな場所だ。

 食事ピークは終わったらしく、3人が疎らに席に着いていた。

 王宮の食堂は石造りで王侯貴族以外は使う為広く寒々しい場所だったが此処は違った。

 簡素な造りでもテーブルの上には野花が小さな瓶に飾ってあり、窓からはレースのカーテンを通した淡い光が射し込んでいた。

「おはようございます。良く眠れましたか?セルフサービスなので朝食は其処の台所の小窓から受け取ってください」

 3人のうちの1人、丁度食事を終えて立ち上がった1人が声をかけて来た。

 どうやら此処はかなり居心地の良い場所らしい。

 気負いもせずに案内する初めて会う中年の男に空は礼を言った。

「おはようございます。慣れない移動で疲れた身体をゆっくり休めましたよ。ありがとうございます。もう朝食はお済みですか」

「ええ、夜勤明けで交代して食事を終えたところです。今からベッドへ行きますよ」

 ははは。と朗らかに男は笑った。

「それはお疲れ様です」

「ありがとうございます。今日は食事を終えたら出発されるのですか?」

「ええ、長殿に許可を頂いたら出発する予定です」

「そうでしたか。お気を付けて。御縁のままに」

「御縁のままに」

 男が食器の乗った盆を置いた小窓に声を掛けると初老の婦人が少々お待ちくださいと言い奥へ引っ込んだ。

 間もなく大根人参鳥のスープと黒パン、三種の豆の煮物が乗った盆が出てきた。

 礼を述べて受取る。

 美味しそうな香りにお腹がキュウっと鳴った。

 そういえば昨日の昼から何も食べていなかったのだ。

 健康な証拠だと苦笑いしていると、此方へどうぞと声が掛かった。

 振り向くと大きな赤毛の男が窓辺付近の椅子に座って手を振っている。

「お邪魔します」

 どうやら彼も夜勤明けらしく時間があるようだ。

 これは出発はいつになるか分からないぞ。と思いながら、意外と悪くないと空は窓辺へ足を向けた。

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