Chapter1.0.2 暫定7人の顔合わせ
ふと目が覚める。辺りを見渡せばそこは昨日からの自室だ。詰め込めば人が5人は眠れるようなそこそこの大きさの部屋に1人で簡易ベッドで眠っていた。床、壁、天井、扉、全てがあいかわらずの木造で唯一窓ガラスだけが違う質感を与えている。そんな部屋だった。
俺はベッドから飛び降り、時間を確認する。昨日の遅刻があるため神経質になっていたのか、集合時間にはまだ早い。とりあえずカーテンと窓を開け放ち、朝日を身体全体で浴びる。これで体内時計のリセットは完了、加えてまぶしさと気持ちよさで一気に目も冴えた。
(さて、これからどうしようか。)
軽めの朝食をすませ、歯磨き、お手洗い、着替えも終わってしまった。動きやすい服装で、ということなので昨日のままの隊服を着ることにした。
(まだちょっと早いけど・・・)
やはり朝起きるのが早すぎた。平然と時間も余り、手持ち無沙汰である。
(もう行くか。)
俺は気合いを入れてもう隊長室に向かうことにした。現在俺は1分の1の確率、つまり100パーセントの確率で遅刻中なので歴とした遅刻の常習犯なのだ。なるだけ早い段階でそのイメージを払拭しておいたほうが良いだろう。30分前行動である。
俺は廊下に出ようと扉を開けた。
すると、である。すると目の前には1人の少女が壁にもたれてこちらをジーッと見ていた。
その少女は女性用の隊服をしっかりと着こなし、何か待ち合わせでもしているかのように不機嫌そうに腕を組んでいる。肩より上で切られたクリーム色の髪に耳当てかヘッドフォンかを装着している。背は俺よりは小さい。平均よりも少し低いぐらいだろう。
しかしそんな彼女の端麗な容姿よりも気になるのはその横だった。柄まで合わせれば彼女の背丈よりも巨大な大槌が一緒に壁にもたれかかっていた。
俺はそこまで彼女とその周囲を観察し終えて顔を上げる。まだ彼女はこちらを見つめていた。
「・・・」
「・・・・・」
このまま見つめ合っていてもらちがあかない。しかたなく俺は廊下に出て、とりあえず部屋の鍵をかけた。鍵をかけて振り返ると、そこでようやく彼女は口を開いた。
「おはようございます。暁ナユタさんですね?」
透き通るようなきれいな声でそう尋ねてきた。
「はい。暁ナユタです。」
おそらく年下であると思われるがまだ年齢もはっきりしていない。事故を防ぐために敬語で答えることにした。
「私は昨日付けで中央本隊からこちらへ異動してきました。クオン=クライスツェフです。本日よりあなたと正式にチームとして行動することとなりました。よろしくお願いします。暁ナユタさん。」
淡々と氷のような無表情のまま業務連絡をすませたのはクオン=クライスツェフと名乗る少女だった。
「こちらこそよろしくお願いします。えーっと、クライスツェフさん。」
俺はとりあえずそのまま敬語で話し続けた。すると、
「私は現在15才、あなたは現在17才です。よって敬語は必要ありません。そして家名では任務の際に時間の無駄が多いと考えます。クオンとお呼びください、暁ナユタさん。」
あいも変わらず無表情のまま話し続けている。しかし今開示された情報のおかげで事故の心配が無いことが分かった。
「分かったよ。そういうことならクオンさん、そっちもフルネームで呼ぶのは効率が悪いんじゃ無いか?」
とりあえずフルネームで呼ばれ続けるのはとてつもなくくすぐったいので訂正してもらうことにした。
「なるほど、確かにそうですね。それでは暁さん。」
「ん?何?」
俺は隊長室へ向かいながら、隣を大槌をほぼほぼ引きずりながら着いてくる彼女の問いかけに反応する。
「今日は遅刻しないんですね。」
「ぶっ!?」
「どうしました?」
「え、えーっと、どうしてそのことを?」
「いえ、昨日氷上隊長代理に聞きまして。」
あの人はわざわざ言わなくてもいいことまで全部彼女に教えてしまっていたようだ。
「・・・じゃあ、扉の前で待っていたのはもしかして・・・。」
「はい。今日は遅刻をしないように起こそうと思いまして。本日からチームで行動するわけですし。そもそも時間も守れないような人とはいっしょに行動したくなかったのですが、もう私たちでチームというのは変えられなかったようなので・・・。」
しれっと無表情のまま毒を吐かれたが気づかなかったことにして昨日の遅刻の件は弁明をしておくことにした。
「昨日の遅刻はちょっとし手違いのようなもので、常日頃から遅刻しているような常識知らずじゃないんだよ、俺は。」
「そうですか。それでは今後起こしに行く必要は無さそうですね。」
「そういえば部屋の前にいたけどいつからあそこにいたんだ?」
「1時間前からです。」
「1時間!?」
「はい。しかしさすがにあまりにも早過ぎると思ったので扉の前で待機していたところ暁さんが出てきたというわけです。」
「・・・そう。」
どうもこの子は真面目すぎるきらいがある。もうちょっと緩い人じゃないと2人っきりのチームでやっていける気がしない。
「ところで、あなたはちゃんと戦力になるのですか?ともに行動する以上お互いの力量を把握しておきたいのですが。」
「これでも一応元いたところじゃあ部隊長とかやってたから足手まといにはならないはず。」
「なるほど、安心しました。部隊長クラスだったということは私よりも実力は上ということですね。これからご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。」
「あ、いえ、こちらこそ。」
ペコリと頭を下げてきた彼女につられてペコリと頭を下げ返す。そんなことをしている間に隊長室の前に着いた。時間を確認すると、実に15分前行動であった。
「失礼します。」
「失礼します。」
俺たち2人はそうことわって隊長室に入っていった。
「おはよう、暁ナユタくん、クオン=クライスツェフさん。2人いっしょに来るなんてね。どうかな?これから2人でやっていけそうかい?」
俺がどう答えたものか思案していると先に今日からパートナーとなる彼女が答え始めてしまった。
「おはようございます、氷上隊長代理。ここにくる間に少し話してみましたが、チームとしてやって行くには問題は無いと思います。」
「ハハハ、クライスツェフの御息女の目にはそう映ったのか。君はどうだい、暁ナユタくん?」
「俺もだいたいそんな感じです。」
少し真面目すぎる気はするがそれでも昨日のふざけたような男みたいな人間と組んでいる自分より何倍もマシである。
「良かった良かった。これで何事も問題なく進みそうだ。」
そういって安心している七星さんに、隣の彼女が口を開いた。
「お言葉ですが、隊長代理。私のことを『クライスツェフの御息女』と呼ぶのはやめてください。」
なにやら彼女は少し怒っているようだった。初めて聞く彼女が平静を乱した声音だった。それにしてもクライスツェフ・・・どこかで聞いたことがあるような、ないような。どこで聞いたんだろうとぼんやり考えている間に会話は進んでいく。
「これは失礼したね、クオン=クライスツェフさん。」
「フルネームで呼ぶのも無駄が多いそうです。クオンでかまいません。」
「おや?昨日はそんなこと言わなかったのにどうしたんだい?」
「先ほど暁さんにご教授いただきました。」
「そうかい。分かったよ、クオン。」
どんどん会話が進んで行くので考え事はいったん中断して会話に参加することにした。
「ところで七星さん。今からなにをするんですか?」
「ああ、そうか。君たちには何も説明していなかったね。もう少しまってくれるかな?まだ全員そろっていないんだ。」
そう言われてから初めてだだっ広い隊長室を見回すとすでに俺たち2人と七星さん以外にも男女1人ずつが室内にいた。長い黒髪の女性はスラリと背が高く、隊服越しにも分かるほどの恵体でピッチリとそれを着こなしていた、いわゆるクールビューティーというやつだ。そんな女性は腰に刀のようなものを提げて壁にもたれかかっていた。
もう1人の男性はボサボサの銀髪の頭の後ろに手を組んでソファーの上に仰向けになっている。そんな男性は五指すべてをテーピングでグルグル巻きにしており、そこから手、腕、肩までが包帯で巻かれていた。見事にわれた腹筋を見せびらかしているように上半身は何も着ていない。一応横にボロボロの隊服の上着が乱雑に放置されているのであとで羽織るのだろう。胸元やあばらなどにもちょくちょく包帯が巻かれていて全身怪我まみれだ。
2人とも寝ているのか、集中しているのか、目を瞑ったまま時間がたつのを待っているようだった。
・・・まだ来ていないのはどうやらあのふざけたような男、つまりフーリだ。いやもう1人来ていないのか。昨日あいつを探していた声の持ち主だろうか。一応声を聞いたことの無い女性がそこにもたれかかっているので判断がつかない。
そうしてしばらく、というかかなりの時間会話も無く隊長室で待っているとようやく男女の話し声とともに隊長室の扉が開かれた。それは集合予定時刻から30分も後のことだった。しかし、前日に12時間の遅刻をかました俺は何も言うことができなかった。
「皆様、お待たせいたしました。このエレナ=ヴィッケンシュタイン、現着いたしましたわ。」
そのうちオーホッホとかいう笑い声でも上げそうなほどの傲岸不遜ぶりでエレナと名乗った女性が話し始めた。眩しいくらいの金髪に整った顔立ち、服装は運動のできる格好でという指示がでているにも関わらずしっかりとドレスを着こなしており、ヒールとか履いちゃっている。今から社交界にでも参加できそうな格好だった。絵に描いたようなお嬢様だ。それもそのはずヴィッケンシュタインといえば俺でも知っているほどの巨大財閥の元締めである。
「ご機嫌よう、新入りのお二方。これからよろしくお願いいたしますわ。」
すっと彼女は手を差し出してきた。どうやら握手を求めているようだ。俺が握手に応じようとすると、隣で黙っていたクオンが口を開いた。
「あなたはいつもこんな風に遅刻してくるのですか?」
そういえばさっき時間も守れないような人間とはやっていけないみたいなことを言っていたっけか。
「私は遅刻などしたことはありませんわ。私の来た時間が集合時間なのです。」
どこかの王のような傍若無人っぷりである。しかし、真面目すぎるクオンにそんなことを言ってしまって大丈夫なのだろうか。
「私はそんな人間とは仲良くなんてなりたくありません!」
(あちゃー)
やっぱりダメだったようだ。これは下手をしたら喧嘩でも始まるんじゃないかと心配になる。向かいのエレナという女性が手を出したまま固まっていたかと思うと肩をふるふると震わせ始めた。
(まずいんじゃないのか。)
俺はそういう意図のこもった目で隣で静観を決め込んでいるフーリを見ると、フーリはなぜか首を振っている。どういうことのだろうか。
「・・・グスッ」
「「えっ!?」」
俺とクオンの声が完全にはもってしまった。目の前の傲岸不遜で傍若無人で絵に描いたようなお嬢様であったはずの向かいの女性が突然泣き出したからである。
「あーあ、やってしまったね、クオンくん。」
七星さんがもう慣れきった感じでそう言ってくる。
「えっ、これは私のせいなのですか?」
思いっきり動揺していた、あまりにも向かいの彼女が豹変したので完全に脳が追いついていないようだった。
「うわーん、フーリく〜〜〜〜ん!!」
「グエッ!?」
大泣きしながら向かいの彼女はフーリの胸に飛びついた。かなりの衝撃だったのかフーリの口から妙な声が漏れた。
「お、お嬢、いちいちそんなことで泣かないでください。」
「だって、だって〜〜、あの子が悪いんだもん!アタシがせっかく仲良くしようって、手まで差し出したのに握らずに突っぱねたんだもん!・・・うわーん!!」
豹変ぶりがすごい。もうこっちが素でさっきまでがキャラづくりでもしてたのではないだろうか。一人称までしっかり変わっている。
「・・・あー、めんどくさい。おい、アンタさっさと謝ってくれ、頼むから!」
「?すいません・・・?」
すごいな、あのフーリが完全に押されている。そしてクオンは訳の分からないままに謝らさせた。
「ほーら、お嬢?あの子も謝って仲良くしてくれるって言ってますよー。早く泣き止んでくださーい。」
「・・・グスッ、本当?」
「本当ですとも、なぁ?」
「は、はい!」
有無を言わさぬフーリの威圧感と混乱したクオンにより流れるように話が進む。
「ほら、お嬢。」
「・・・フフフッ」
なんとかフーリになだめられた彼女は突然笑い出した。
「全くー、そんなに私と仲良くしたいのなら初めからそういえば良いのです。仕方がないのでこのエレナ=ヴィッケンシュタインがお友達になって差し上げましょう。」
「よ、よろしくお願いします・・・」
あいかわらず混乱したままのクオンはさっき突っぱねたばかりの手をしっかり握っていた。
「ふー、なんとかなってよかったぜー。」
さっきまでなだめるのに必死だったフーリがこっちに来て、まるで親しい間柄みたいに話しかけてくる。たいへん遺憾だ。
「・・・まぁ、確かにもめ事にならなくてよかったな。」
と、当たり障りのない返答をした。
「アンタのパートナーどうにかした方がいいぞー。お嬢はちょろいからあんな感じでごまかせるけど、あれは敵を多く作るタイプだ。」
「ご忠告、痛み入るよ。」
確かに彼女の真面目は少し潔癖すぎる。前にいた中央本隊では周りと上手くいっていたのだろうか。
「ところでフーリ?」
「なんだ?・・・というかどうしてオレの名前が分かった。」
「お前んとこのお嬢様に聞いてみろ。あれで隠せると思ったのか?」
「確かに無理だな。で、なんか質問か?」
「さっきのはなんだったんだ?」
「あー、まぁ、お嬢はあれだよ、財閥令嬢ってやつ。そんでもってオレが付き人みたいなもんだ。お嬢の弱弱メンタルをケアするのがオレの仕事。」
「ふーん。」
「聞いといてその反応かよ・・・。」
疲れているのか、昨日ほどの勢いのないフーリがぼやいている。今後は絡まれないようにぜひともあのエレナ嬢にへばりついていてもらいたいものだ。
そんなことを考えていると次はそのエレナ嬢がこっちに近づいて来た。
「あなたが暁ナユタくんね。」
「なんで知ってるんですか。」
「知っていますとも、なにせフーリくんのお友達は私のお友達ですもの。」
恐ろしい暴君の理論だった。いや、ちょっと待て、今とても不吉なことをのたまっていたぞ、このお嬢様は。これは訂正をしておかなければならない。
「フーリと俺は決して友達などでは無いのですが。」
「ひどいこと言うな。」
何が嬉しいのか横で当の本人は笑っている。
「あら、そうでしたの。しかし、あなたは私のお友達であるクオンちゃんのパートナー、つまりこのエレナ=ヴィッケンシュタインのパートナーということと同義なのです。」
「えー。」
恐ろしい暴君の理論その2である。俺は嫌そうな心の声をうっかり漏らしてしまった。
「バカ野郎!」
フーリが慌て始めた。すごい剣幕で俺になんとかしろとまくし立ててくる。俺もまた泣かせてしまうのは忍びないので大慌てでフォローをする。
「いや、違うんですよ。その、俺は正式にはクオンさんのパートナーなので、どうしようもないといいますか、ね。あの、お友達はもうそれはそれは大歓迎ですから、ね。エレナ嬢。」
なんとかフォローはできているのだろうか。しかし彼女は一言も発しない。
(ダメか・・・)
「・・・エレナ。」
突然ポツリと彼女が呟いた。
「え?」
「エレナと呼んでくださいまし。フーリくんと同じ年ということは私とも同じ年。お互いに対等な関係こそがお友達というものなのです。」
「はぁ、分かりました。」
「敬語も結構ですわ。」
目をキラキラさせながら怒涛の勢いで話し続けるエレナにもう着いていけない。しかし今の流れで俺の北部戦線でできた初めての友達がこの傲岸不遜で傍若無人でメンタルの弱すぎるお嬢様ということになってしまった。
「クオンちゃんもエレナと呼んでくださいまし。」
「えっ、しかし先輩後輩の関係はしっかりと・・・」
「嫌ですの?・・・グスッ」
「い、嫌なわけではありません。分かりました。・・・エレナ。」
「ありがとう、クオンちゃん。」
どうやら女性陣2人は仲良くなれそうだ。しかし、ちゃんづけで呼ばれたクオンは顔が真っ赤に染まっている。そんなに恥ずかしかったのだろうか。
「フーリ、お前も大変だな。」
なんにせよ。あのお嬢様の面倒を見続けねばならないフーリにたいして俺は初めて心底同情した。
「そんな憐れみの目で見ないでくれ。」
そう言ったフーリはしかし、なぜかどこか嬉しそうにクオンとエレナの方を眺めていた。
「さて、もうそろそろいいかな?」
七星さんがそう切り出した。フーリとエレナが30分遅れて来たのにさっきのゴタゴタを合わせてもう1時間以上予定が遅れている。
「先ほど暁さんが尋ねてはいましたが、今日はいったい何をするのですか?」
クオンがそう尋ねた。
「そうだね。全員そろったしもういいか。今日は君たち2人の実力のほどを見せてもらいたいんだ。」
なるほど、それで動きやすい服装でと昨日念を押してきたのか。合点がいった。
「ん?でもそれじゃあ、他の人は別に来なくて良かったんじゃないですか?」
俺がふと湧き上がった疑問をぶつける。
「他のところならそうだろうね。でも北部戦線では違うんだ。今から行うのは序列戦、これは君たちを含めた戦闘要員は全員参加だ。」
「「序列戦?」」
「まぁ簡単に説明すると全員で戦って今誰が一番強いかを決めるというものだよ。北部戦線の隊長が考えたものなんだ。ただし、全員が全員と戦ってる時間はないからトーナメント制だけどね。」
「へぇー。」
そんなものがここではあるのか。ここの隊長はよほどの戦闘狂なのかもしれない。そういえば今外しているという隊長と副隊長はどんな人なのだろうか。
「軽くルール説明をしようか。」
そういって七星さんが説明をし始めた。大まかには
・1対1のトーナメント戦
・勝ち負けは責任者の判断で決まる
・投了あり
・同じタイミングで負けた人間同士の序列は責任者が決める
・武器の使用可
・怪我の無いように頑張ろう!
の5つだった。ちなみにここでの責任者は七星さんだ。
「それじゃあ早速くじを引いてトーナメントを決めようか。いつもは前回の序列の高い人から引くんだけど・・・今回は特別に君たちから引かせてあげよう。いいかな、マシロ?」
「ああ、構わない。」
マシロと呼ばれて壁にもたれていた黒髪帯刀の女性が答えた。
「それじゃあ、まずはどっちが引く?」
俺はレディファーストという言葉通りクオンに譲ろうとしたのだが、
「暁さんが先に引いてください。」
と言って聞かなかったので初めに引くことになった。
目の前には全て同じ形の棒が6本、円筒に突き刺さっている。
「あれ、6本?」
「ああ、これは僕は参加しないから6本しかないんだよ。」
「そうなんですか。」
責任者が参加するとややこしいのだろうか。
「じゃあ、これで。」
俺は適当に引いて七星さんに渡す。
「えーっと、おっ、6番か。運がいいね。シードで一回戦突破だよ。」
言われてみれば6人しかいないので3分の1の確率でシードなのだが、これで序列4位以上が確定してしまった。良いことなのか悪いことなのか判断がつかないのが余計に不安である。
「じゃあ、次はクオンかな。どれでも引いていいよ。」
「それでは・・・・・これで。」
なにやら真剣に思案した結果真ん中の1本を選んだ。結果はシードではなかったが俺とは決勝でしか当たらないところを引いたようだった。
「じゃあ、ここからは前回の序列通りだね。前回1位のマシロからかな。」
「ああ。」
そういって彼女が引いたのは1回勝てば俺と当たることになる場所だった。どうやら俺の決勝進出の夢はあえなく砕け散ったようだ。ここで1番強い人にはさすがに勝てないだろう。横でフーリがドンマイとか言ってきやがるのが非常にうっとうしい。
「次は前回2位のエレナ。」
「それでは私はこれで。」
まさかエレナが2位だとは思わなかった。そういえば彼女も人でなしなのだった。見た目で判断するべきではない。しかし、何にせよ友達として彼女が2位なのは鼻が高い。
「あなた、2位だったのですね、エレナ。」
「ええ、そうですわよ、クオンちゃん。」
向こうで俺と全く同じ感情を抱いたであろうクオンがエレナと仲睦まじくしゃべっていた。クオンのエレナを見る目に尊敬の色が浮かび始めている。
「次が4位のフーリだね。」
(ん?4位?)
「ああ、3位だった子は大怪我を負ってしまって戦線を離脱してしまったんだよ。」
俺の心の中の疑問に七星さんが先回りして答えてくれた。
その間にフーリがくじを引き終えていた。そしてフーリはちゃっかり前回1位のマシロという女性とマッチアップしている。ついでにさっき見忘れていたが、エレナは俺の反対側のシードを引いていたようだ。
「ドンマイ!」
俺は満面の笑みでフーリにドンマイ返しをしてやった。これでおあいこだ。
「というかお前なんで4位なんだよ。」
俺がそうつっこむと、
「準決勝でお嬢と当たったから投了したんだよ。」
とこたえた。
待てよ。ということはエレナが2位っていうのはほぼほぼ反則なんじゃないのか。そんな疑問を抱かずにはいられなかったが、パートナーの少女の夢を壊さないためにも黙っておくことにする。
「最後が前回最下位のカイセだね。あと1本しかくじがないけど一応引くかい?」
「いらん、勝手にやってろ。」
最後に銀髪に包帯の彼の順番だ。それにしても最下位、普通の人間と人でなしである彼が戦って負けたということなのだろうか。ぱっと見では彼が1番強そうなのだが・・・。
そして最後にカイセという名前がトーナメントに加えられた。クオンと初戦で当たる組み合わせだ。
「よし、これで今回のトーナメントが完成したね。」
七星さんがトーナメントを前に貼り出した。
「これはもう、小生は5位確定だな。」
となりでフーリがそんなことをつぶやいている。
「まだ、分からないだろ。」
俺がそいうとフーリがいいや、と反論してきた。
「まず、前提として小生は確実に初戦で負ける。俺じゃあどうあがいてもマシロの姉さんには勝てない。そんで反対側では100パーセント、カイセの旦那が負ける。で、責任者の判断で小生が5位になる。分かったか?」
「その、カイセさんが100パーセント負けるっていうのがよく分からないんだが。」
「それは見てりゃあ分かるよ。」
フーリはそんな意味深なことを言って説明責任を放り投げ、1人で準備運動を始めてしまった。見てれば分かるとはどういうことだろうか。
「それじゃあ、10分後にクオンとカイセの試合からだね。試合会場は・・・皆で案内してあげてくれないかな。僕は席を外せないからね。あと試合をする者以外はここの部屋から試合観戦ということでよろしく頼むよ。」
そういって七星さんが後ろのカーテンを開けるとそこから簡易的な闘技場が一望できるようになっていた。
「えー、この部屋暑いからずっといるの嫌なんですけど。」
「私も嫌ですわ、こんなに暑い部屋でずっと待機しているなんて。」
そういえばそうだった。俺にはよく分からないがどうやらこの部屋は暑いらしい。しかし、それにしてはこの2人が文句をたれるまで誰も暑いと言い出さなかった。他の皆も俺みたいな感じだったのだろうか。
ふと、クオンの方を見やると額に汗をにじませて暑さに耐えているようだった。そういえばさっきからクオンの顔が真っ赤だったのは暑さによるものだったのか。
エレナとフーリがやいやい文句を言っているなか、カイセさんが外へと出て行った。クオンの我慢も限界が近そうだったので俺がクオンにカイセさんについて行くように促すとクオンもうなずいて、廊下にあの大槌を持って出て行った。