君の想い、聞くだけ聞くよ
日も短くなって街も煌びやかになる頃、悩み事が多くなる。
それも男女関係の問題だ。
寒くなってくると人肌を求めるっていうけれども。確かに寄り添うだけで暖かい気持ちになれるらしい。
体温の温かさだけじゃなくて、ぬくもりっていうのかな?
人間が寄り添う姿を見ているだけで、僕は少し、心地よい気持ちになれるんだ。
今日も階段を上がってくる人がいる。
真っ赤なマフラーを巻いて、白い息切らせてやってきたのは……
大学生っぽいお兄さん。
髪もしっかりと整えて見た目にも気を使っているのが人間じゃない僕でもはっきり分かる。
僕は鳥居の上から静かに飛び降りて、彼の後ろをついていく。
お兄さんはポケットから小銭入れを出して、50円玉を放り込んで、手を合わせて静かに祈る。
奥には誰もいない本殿を一瞥してから振り向くと、僕と目があう。
「お前も一人かい?」
そういって手を伸ばしてくるから、僕はその手の上に顎をのせてあげると、首の下を撫でてから頭をすくように2、3回と前後させた。
「彼女と喧嘩しちゃってね。もうそろそろクリスマスだっていうのに……」
お兄さんはそう独り言をいうようにつぶやく。
「原因は僕にあるんだと思う。いや、僕に原因があるのは明白。彼女が好きで堪らないんだ。でも、それが空回りしちゃうんだ。付き合う前は彼女にどうしたら好かれるだろうって一生懸命だったけど……今はどうしたらいいのか分からない」
彼の手が止まる。
そして、吐き捨てるように——
「辛くなるんなら、手に入れるんじゃなかった」
なんて、笑っちゃうようなことを言ったんだ。
僕は何回このセリフを聞けばいいんだろう?
どうしてすぐに『出会わなければ』とか言い出すんだろう?
掴んだのは君なのに
求めたのは君なのに
すぐそうやって手を離そうとする
君は何回、同じことをすれば済むんだい?
失って初めて気づく
それを何回繰り返すんだい?
僕は何も出来ないよ?
いや、何もしないよ?
神様の力を使って変えても
君は何も変わらない
自らが変えようと思わない限り何回も繰り返す。
望んだのなら執着してみせてよ
ボロボロになるまで足掻いてみせてよ
君がしたことはそれで全部?
君ができることはそれだけ?
——っていっても無駄か。
たとえ言葉が伝わったとしても、僕じゃなくて、神様が言ったとしても何も変わらない。
でも、キッカケは与えてあげられる。
僕はお兄さんの手から抜け出して、本殿の傍にある箱の横に座って、尻尾を振ってみせた。
「ん? これは……おみくじ? 引けって?」
無言でそう促すとそのまま彼は引いてみる。
一枚、取り出してそこに書かれている言葉に目を通す。
すると静かに笑った。
そのおみくじを丁寧に畳み直して、ポケットにしまい込むと、僕の頭を今度はくしゃくしゃってするみたいに撫でくれた。
「ありがとう、君は寡黙だけど多弁だね。やってみる、今度は彼女も連れてまた来るよ」
僕と視線を合わせてそういうと、踵を返して颯爽と立ち去っていった。
期待はしないでおくよ、でも、
『掴んだのなら、そう簡単には離さないことだ』
こうやってまた夜は更けていく。