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六話

 部屋に戻って和美ちゃんとケーキを食べ、スマホを確認すると、学校の友達からメッセージが入っていた。いきなりずる休みしたからなあ。

 中には、ノートはちゃんととってあるから、心配するなというありがたいものまであった。これを送ってくれた人には、後で学食のスイーツでもおごろう。

 あ、いちま様に備えたケーキは、今日はこのままにしておく予定。お下がりを食べるのは、明日以降でないといちま様が怒るんだよね。

 乾燥するのが気になるけど、こればかりは仕方ない。それに今日はもう一個ケーキ食べてるからね。これ以上となると、ちょっと胸焼けが……


「さて、帰ってきたのはいいけど、いちま様をどうするの?」


 和美ちゃんに言われて、やっと私も気付いた。いや、おばあちゃんに連れて行けって言われたけど、部屋に連れてきたいちま様って、このままでいいのかな。

 どこか、置くべき場所とかあるのかしら?

 何となくいちま様を見ると、ある一点を見つめている。その視線をたどっていくと……私のベッドのヘッド方向だ。


「多分だけど、ベッドヘッドに乗せろって言ってるよ」

「……それって、いちま様が?」

「え? うん」


 うちのいちま様って自己主張が激しいんだよね。さっきのケーキの事といい、今の置き場所といい。まあ、自己主張くらいはいいんだよ。怒った時が怖いだけで。

 そしていちま様は常に私に対して怒ってる。だから怖いんだっての。


「納得出来るような出来ないような……まあ、みいちゃんがそれでいいって言うのなら、いいのか」


 和美ちゃんが首をかしげながらなんか言ってるけど、とりあえず放っておく事にする。必要ならちゃんと言うだろうしね。

 私はいちま様をヘッドの棚に乗せた。満足そうな顔をしているから、やっぱりここに乗せるのが正解だったんだね。

 これで、あのぼそぼそ声が聞こえなくなるといいんだけど。というか、頑張ってくださいいちま様! 解決した暁には、またお供えものをしますので!!

 手を合わせて拝んでいたら、不意に脳裏に今川焼きが五つ乗った皿が浮かんだ。……今度のお供えものは、今川焼きをご所望らしい。


◆◆◆◆


 そして問題の夜になった。今夜も和美ちゃんは泊まっていってくれるらしく、あのまま置きっ放しだった寝袋にくるまっている。

 正直、助かったよ。あの録音聞いたの、今朝だからね。いくらいちま様がいるとはいえ、一人でこの部屋にいたら怖くて寝られないところだった。

 いや、いちま様がいても、やっぱり怖くて寝られないだろうけど。

 そして和美ちゃんの枕元には、スマホの録アプリが起動していた。


「また録音するの?」

「うん、どうせ明日には機種変更するから。何が録れるか、楽しみだね」


 今朝の騒動はどこへやら、和美ちゃんは好奇心からわくわくした表情をしている。つ、強い……

 でも、そんな彼女といると、今朝聞いた音声もなんだか怖いものではなく、テレビのやらせを見たような気になってくるから不思議だ。


「じゃあ、電気消すね」

「うん」


 リモコンで明かりを消すと、いつもと同じ暗闇が部屋に広がる。バイトに行っていない日なら、大体明かりを消してから少しして例の声が聞こえてくるんだけど、今日はどうかな?

 ちょっと心のどこかで私もわくわくしながら、ベッドの中に潜って目をつむった。

 別に待ちわびていた訳じゃないけど、うつらうつらした頃に、例のぼそぼそという声が聞こえてきた。

 ああ、またか、しかもあの内容、録音で聞いてるんだよなあ、と思ったら、なんだか声の調子が普段と違う。

 焦っているというのか、慌ただしいというのか。内容が聞き取れないのはいつもの事なんだけど、様子がいつもと違っていた。

 何だろう。もしかして、いちま様が何かやってるとか。目を開けてヘッドの棚を見てみようかと思ったけど、怖いものを見たら嫌だから結局目を強くつぶっておく事にした。

 だって、暗闇に浮かぶいちま様とか見たら、悲鳴を上げずにいられる自信がないもん……

 耳だけそばだてて、音を拾う。声の焦り具合は益々エスカレートしていて、声がきちんと聞き取れていたら悲鳴が聞こえてきても不思議はない感じ。

 聞き取れないくせに、変なのと思いつつも聞いていると、最後になにやら変な音が聞こえてきた。そしてその音以降、何も聞こえなくなった。

 いちま様、勝ったのかな? いや、勝ったって何に? そんな自問自答をしている間に、私の意識は落ちていった。


◆◆◆◆


 夕べはいつもより早めに寝ていたからか、翌日は普段よりも早い時間に目が覚めた。

 しかも、ここしばらくでは考えられない程の目覚めの良さだ。そういやあの声が聞こえてくる日は寝られなくて、翌日は必ずひどい寝不足になっていたっけ。

 ……人って、寝不足でも死ぬよね、確か。じゃあ、あの声は私を寝かさない為に一晩中ぼそぼそやっていたとか? そう思い入った途端、背筋に冷たい汗が流れた。


「おはよー」

「うはおうう!!」

「え? な、何!?」


 変な事を考えていた時に声をかけられたせいで、変な声が出ちゃったよ。朝の挨拶をしてくれた和美ちゃんが驚いてる。


「ご、ごめん、ちょっと考え事している所に声がかかったから、つい……」

「そっか。そういえばさ、夕べはあの声、途中ですごい事になってたでしょ!?」

「すごい事?」


 あの声って、例のぼそぼそ声よね? すごい事って、一体どうなってたの?

 首をかしげる私に、和美ちゃんは今気付いたと言わんばかりの様子で頷いた。


「ああ、そっかー。あの声、みいちゃんにはちゃんと聞こえないんだっけね。多分、録音ならきちんと録れてると思うよ。聞いてみる?」

「う、うん」


 ちょっと怖いけど、知らないままってのはもっと怖い。それに、昨日の声の焦り具合から、いちま様と声の主との間に一体どんなやりとりがあったのか。好奇心は抑えられそうにないのだ。

 和美ちゃんは、早速アプリをいじって音声を再生させた。昨日の朝の分同様、最初はノイズばかりだったから飛ばしている。

 聞こえてきた音声を聞くと、最初は昨日の朝聞いたような内容だった。おどろおどろしい声で呪いのような内容を言っているのだが、ある一点から声の調子が変わる。


『な、何だ?』

『こ……これは何だ?』

『い、嫌だ、やめろ! 何をす――』

『ああ、しっかりしろー!』

『嫌だ、消えたくな――』

『誰か助け――』


 ……これがあの「死ね」と言っていた声と同じ存在なのだろうか。何かから逃げまくっているような様子の声に、思わずヘッドの棚にたたずんでいるいちま様を見た。

 気のせいか、すごく満足そうな表情をしているんだけど……どういう事?

 音声はまだ続いていて、一つ、また一つと声の存在が消えて言いってるようだった。

 最後に消えたくないと言いかけて消えた音声の後、ほんの少ししてから「げふう」という音声が聞こえる。


 ……げっぷ? もしかしなくてもいちま様、声の連中を食べ――


 おそるおそる見たいちま様は、先程同様満足げだ。満腹そうとも言える。

 思わず和美ちゃんを見ると、彼女も何とも微妙な表情で私を見ていた。うん、言いたい事はわかるよ。わかるけど、ここでそれを口にするのはやめておこうか。

 私は和美ちゃんの肩をぽんと叩いて、首を横に振るのだった。


◆◆◆◆


 かくして、私の部屋は平穏になった。あれ以来妙な音もなく、心なしか部屋が明るくなったようにも見える。

 そしてその部屋には、今もいちま様がいた。


 いや、家に送り返そうと思ったのよ? ちゃんと今川焼きをお供えした後に、きちんと梱包して通学途中に近所のコンビニから送り出したんだから。

 なのに、その日の夕方、学校から帰ったら部屋の玄関に視線を感じた。何だろうと下駄箱の上を見た時の私の驚愕、おわかりいただけるだろうか?


 そこには、朝宅配便に出したはずのいちま様がいたのだ!

 

 何でここにいちま様!? まだ家にも到着していないはずだよね? あれ? 私、いちま様と間違えて何か別のものを送ったとか!?

 パニックになりながらも、私は確認の電話を家に入れた。私からの荷物が届いたら、中に何が入っていたか教えてほしいと。

 翌日、家に荷物は届いたそうだが、中に梱包材以外何も入っていなかったらしい……

 お母さんには、素直にいちま様を送ろうとしたと告げると、荷物扱いが気にくわなかったんだろうと言われた。だって、家にいちいち帰るの面倒なんだもん。

 結局、おばあちゃんの言葉もあって、いちま様は私の部屋にいる事になった。帰ったらいちま様がいるとか……ちょっと嫌だなあ。

 あれ以来、おかしな声も聞こえないし、いちま様がいる事以外は快適に過ごしている。時折和美ちゃんも遊びに来て、いちま様にお供えものをしていくようになった。

 そのせいか、いい事があったと彼女が言うのを聞いて、どうして毎日お供えものをしている私にはいい事がないのかと、ちょっとふてくされた。

 そんな私に、「見えないところで護ってくれてるんだよ」と和美ちゃんは言う。バイト先の常連さんの占い師も、例のカウンターで顔を合わせた常連の女性も、似たような事を口にしていた。

 なので、もうそういう事なんだと思う事にしている。そんないちま様は、今日も元気に私にお供えものを要求してくる。はいはい、今度は肉じゃがをご所望なんですね。今夜の夕飯のメニューは決まったな。

 私は財布を持って部屋を出た。買い物ついでに、例のスイーツショップで何か買ってこよう。リクエストされなくても、甘いものは拒まないいちま様なのだ。


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