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五話

 結局、今回の突然の呼び出しは、あの声に関わるものだったらしい。


「いちま様が美羽の事をそれは心配なさってね。すぐに呼び戻せと仰るのよ」


 おばあちゃんは慈愛のこもった目で膝上にいるいちま様を見つめながらそう言うけど、私にはちょっと信じられない。

 決していちま様が私を護ってくれなかった、という事はないんだけど、いつも何だか微妙な護り方なんだよね。

 それを口にすると、和美ちゃんから当然の質問がきた。


「ちなみに、どんな風に護ってもらってたの?」


 まあ気になるよね。私は記憶を掘り起こしてぽつぽつと話し始める。覚えている最初の記憶は、事故のものだ。

 まだ小学校に上がる前、交差点で交通事故に巻き込まれた。普通なら死んでいてもおかしくない事故なのに、私は腕の骨折だけで済んでいる。

 小学校に上がって少しした頃、近所で痴漢騒動があった。見せたり触ってきたりするヤツではなく、どうも連れ込まれてあれこれされるタイプの痴漢だったらしい。しかも、狙われたのはみんな六~八歳くらいの女児だ。

 学校でも単独行動はしないように言われていたので、その日も友達数人と下校していたのに、我が家まで後数メートルという角で別れた途端、痴漢にさらわれた。

 小汚いアパートの一室に連れ込まれ、パンツをはぎ取られた辺りで、犯人の頭にいブロンズ像が直撃したのだ。痛みに呻く犯人の部屋から逃げ出した私が通りすがりのおばちゃんに助けを求め、犯人が逮捕された。

 中学に上がる少し前、おつかいに出た帰り道、コンビニの前を通ったら派手な高校生に恐喝された。

 店の裏に強引に連れて行かれて殴られそうになった時、店の裏のドアが開いて店員さんが顔を出した。

 逃げようとした高校生のうち、一人が店員に捕まってそこから芋づる式に何人も捕まったらしい。何でも、近隣で同じような手口で何件も恐喝をしていたそうだ。しかも、被害者の中にはアブナイ写真を取られて、それで脅されていた人もいたんだとか。

 こんな風に、本来だったら大事になるところをそれよりはましな状態で収まっている。一応、いちま様が護ってくれているかららしいよ。

 でも、どうせならそういう災厄そのものに出会わないように護ってほしいんだけどなあ。贅沢なのかしら。

 そう言った私の言葉に、和美ちゃんは微妙な顔をしていた。


「う、うーん。みいちゃんの気持ちもわからないではない……かな。でもまあ、より悪い結果にならなかったのは、良しとしておこうよ。それにしても……」


 和美ちゃんは改めておばあちゃんの膝の上にいるいちま様を見て、ぽつりとこぼす。


「凄いお人形なんだね」


 う、うん。ある意味凄いよね。私にとっては凄い怖い相手なんだけど。あ、もしかして、怖がってるからきちんと護ってくれないとか?

 そういえば、バイト先の常連さんにも「微妙」って言われたっけ。あれ、絶対いちま様の事だよね。今更気付くのも遅いんだけど。


「美羽、いちま様があなたの部屋に行くと仰ってます。お連れしなさい」

「え!?」


 おばあちゃんから、意外過ぎる一言が飛んで来た。いや、意外でもないのか。一応、いちま様って私を護ってくれるはずなんだもんね。たとえその守り方が微妙だとしても!

 でもなあ……怖い部屋に怖いいちま様を連れて行くのもなあ……

 ぐずぐずと返答をはぐらかしていると、和美ちゃんが横から意見を言ってきた。


「いいじゃない。いちま様って、みいちゃんを助けてくれるんでしょう?」

「そうなんだけど……いちま様は怖いから……」

「なおいいじゃん。怖いものを怖いいちま様に退治してもらおうよ」

「え?」


 いちま様が怖いものを退治? その発想はなかったなあ。でも、いちま様にそんな事、出来るの?

 実はいちま様の由来って、よくわかっていないんだよね。おばあちゃんも母親であるひいばあちゃんからもらったって言っていたし、ひいばあちゃんがどこからいちま様を持ってきたかって、誰も知らないらしいし。

 どうしたものかといちま様の方をちらりと見ると、その顔がにたりと笑った。ような気がした。人形だから、顔が変わる訳ないんだけど、確かににたりと笑ったんだよ。これだからいちま様は怖いんだ!

 震える私をよそに、おばあちゃんと和美ちゃんによる「いちま様を運ぼう」計画が着々と進んでいた。といっても、私が抱いて持って行くってだけの話なんだけどね。


「じゃあね、美羽。くれぐれもいちま様に失礼のないように」

「はーい」

「何です!? その気の抜けた返事は!」

「は、はい!」


 もう、おばあちゃんはいちま様の事になると、人が変わったようになるからな。でも、昔からしつけには厳しいおばあちゃんだったっけ……

 私はおばあちゃんから渡されたいちま様をしっかり抱いて、家を後にした。隣を歩く和美ちゃんが、いちま様をのぞき込みながらつぶやく。


「これであの声が消えればいいね」

「うん……」

「消えなかったら、引っ越しだね」

「……うん」


 消えてくれますように。いちま様が勝ちますように! なんだったら、部屋に戻ったら何かお供えものでもしようかな。

 そう思った私の脳裏に、生クリームたっぷりのケーキが浮かんだ。これは、いちま様がお供えしろというメッセージだな。

 ちょうど部屋の近くにスイーツショップがあるから、あそこでショートケーキ買って帰ろう。ついでに、私と和美ちゃんの分もね。ケーキ一個で引っ越しを回避出来るなら安いもんだよ。引っ越しって、お金もかかるし手間もかかるからね。

 そう思った私の脳裏に、今度はケーキが三つ並んだ映像が浮かんだ。……一つじゃだめらしい。

 結局、ケーキを五個買って部屋に帰る事になった。

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